最終話:幸せ

「大変お似合いでございますよ、ロミリア様」


そばにいるメイドが、にこやかに言ってきた。私は今、王宮の一室でドレスの最終チェックをしている。身に着けているのは純白のドレス。今日は、待ち望んでいたアーベル様との結婚式だ。花嫁のお披露目も兼ねているため、外にはたくさんの国民が来ているらしい。


「ロミリア様、見てください。すごい数の国民が来ていますよ。私もここに勤めて長いですが、こんなに国民が集まっているのは初めて見ました。皆、ロミリア様にお会いできるのを楽しみにしているみたいですね」


メイドに促されて、窓から外を見てみる。広大な王宮の広場は人で埋め尽くされており、入りきれない人が王宮の外まで溢れていた。飲み物や食べ物を売っている人までいる。


――どうしよう、緊張してきちゃった。


今になってようやく、アーベル様と結婚するという実感がわいてくる。それはつまり、私はハイデルベルク王国の未来の王妃ということだ。


――ま、まさかこんなに人が集まるなんて。


今日は、最初に教会で婚礼の儀を執り行い、その後バルコニーで国民の前に姿を現す予定だ。儀式の段取りは散々頭の中に入れてきたはずなのに、緊張して何をするのか忘れてしまった。


“こら、ロミリア。こんなんじゃ……”


私はいつものように自分をしかり始める。


「ロミリア様、ほんとにそのペンダントでよろしいのですか?もっときれいな物も、たくさんご用意しておりますが……」


メイドに話しかけられ、私は現実に戻った。


――ペンダント?ああ、これは……。


あの後、お母様の形見のペンダントは加工してもらい、外から魔石が見えるようになっている。しかし霊界に行ってから、魔石が以前のように輝くことはなくなってしまった。今はくすんでいる、ただの赤い石だ。


「ええ、ありがとう。でも、私はどうしてもこれをつけて、アーベル様との結婚式に出たいの。これを持っていると、大好きなお母様とずっと一緒にいる気がするから」


私はペンダントをギュッと握りながら言う。お母様にも私の結婚式に出てほしかった。


「そうでございましたか。これは失礼いたしました。それでは、アーベル様がお待ちです」


メイドに連れられ、王宮内の教会に行く。扉の前でアーベル様が待っていた。白い正装に身を包み、これ以上ないほど素敵なお姿だ。私は思わず見とれてしまう。


――ア、アーベル様。いつにもまして、かっこいい。


私を見ると、アーベル様は勢い良く駆け寄ってきた。


「ロミリア!なんて美しいんだ!この世のものとは思えないよ!いや、もちろんいつも美しいのだけどね!こんなに素晴らしい人と結婚できるなんて、僕はなんて幸せなんだ……!うっうっ」


アーベル様はまくし立てるように話す。そして、いつものように泣き始めてしまった。


「アーベル様こそ、とっても素敵でいらっしゃいますわ!こんな方が旦那様になられるなんて、私は本当に幸せ……」


思わず大声で言ったとき、私はハッとした。辺りは静かな上に、反響するので声が響いてしまう。教会の中で待っている人に聞こえてしまったら失礼だ。


「ロミリアァァ!うっうっ、ロミリアァァ!」


「アーベル様、私も大きな声で話してしまいましたが、中には皆さんがお待ちなので、もう少し静かな声でお話ししましょう……」


「とてもじゃないけど、静かに話すなんてできないよ!だって、ロミリアはこんなにきれいなんだよ!」


「アーベル様、ですからもう少し声を……」


私は止めようとしたが、構わずアーベル様はしゃべり続ける。


ハハハハハハハハハ!


突然、教会の中から笑い声が聞こえてきた。


「こりゃもう、ラブラブ夫婦だな!」


「仲がよろしくて羨ましいわ!」


「いやぁ、若いってのはいいな、まったく!」


「しかし、見せつけてくれますなぁ!さすがはハイデルベルクの王様と王妃様になられる方々だ!」


――や、やっぱり聞こえてた……。


皆、好き勝手に会話を交わしている。私たちはすっかり恥ずかしくなってしまった。


「で、では行きましょうか、アーベル様」


「うん」


メイドがクスクス笑いながら、教会の扉を開ける。


パチパチパチパチ!!!ワー、ワー、ワー!!


私たちは盛大な拍手と大歓声で迎えられた。教会はとても広く、王宮中の人が集まっているようだ。手前の方には召使いやメイドの人達、奥には軍人と思われる人達がいた。そして、ずっと奥に王様、王妃様、そしてコルフォルスがいるのが見える。皆、笑顔で私たちを祝福してくれていた。


「アーベル様ぁー!おめでとうー!」


「良かったな、アーベル様!これでこの国も安泰だ!」


「ロミリア様ー!こちらを向いてくださいませー!ロミリア様ー!」


――私はいずれ、この国を導いていくのね。


自分に努まるか不安になって、チラッと横のアーベル様を見上げる。満面の笑みのアーベル様を見ると、私はすぐに安心した。ゆっくりと私たちは歩き始める。


――何も心配はいらないわ。だって、私の周りにはこんなに素晴らしい人達が、それはそれはたくさんいるんですもの。


窓から差し込んだ光を受けて、ペンダントの赤い魔石がキラッと輝いた。

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婚約者を義妹に奪われましたが貧しい方々への奉仕活動を怠らなかったおかげで、世界一大きな国の王子様と結婚できました 青空あかな @suosuo

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