第20話:歓喜する王国
その後コルフォルスの全快を待って、守護結界に魔力を注入する日がきた。私は今、地下の大聖堂にいる。周りには王様、王妃様、そしてアーベル様がいた。コルフォルスに初めて会った日と、同じ面々だ。
「では、コルフォルス。頼むぞ」
「承知しましたですぞ。たしか、王様方も見るのは初めてでしたな。少々眩しいかもしれませんが、どうか我慢くださいませ」
王様が言うと、コルフォルスは大聖堂の奥にある祭壇の前に向かう。
――私も結界に魔力を注ぐなんて見たことないわ。いったいどうなるのかしら。
「アーベル様、こんなところを見るのは初めてです」
「実は僕もなんだよ、ロミリア。大丈夫だとは思うけど、念のため僕の後ろに隠れてて」
アーベル様は自分の背中に私を隠してくれる。後ろからみると、アーベル様の背中は思ったより大きかった。それほど背が高いわけではないけれど、とてもたくましく感じる。やがて、コルフォルスは祭壇の前に着くと、静かに呪文を唱え始めた。
「<大地の神よ……大空の神よ……そして古の精霊たちよ……、我らがハイデルベルクの民と土地とを守るため、力を貸したまえ……>」
呪文の詠唱が終わると、コルフォルスの体が光り始める。そして、その光が徐々に祭壇に吸い込まれていった。だんだんと祭壇が眩いばかりに光り輝いてく。
「くっ、眩しいな。皆の者大丈夫か!?」
「私は大丈夫ですわ、アーベル、ロミリアちゃんは大丈夫!?」
王様と王妃様も目に手をやっている。
「ロミリアはしっかり守ってますよ!お父上、お母上!」
「は、はい、私は大丈夫です!」
やがて、祭壇がその形すら見えないくらいに輝いた。と思うと、突然その光が消えてしまった。
――あれ?あんなに光ってたのに消えちゃった。どうしたん……。
パァーーーーーーーーーン!
――きゃあっ。
次の瞬間にとても大きな音がした。びっくりして、私は思わず目をつぶってしまう。
「大丈夫だよ、ロミリア。目を開けてごらん。すごくきれいだよ」
アーベル様に言われ、こわごわと目を開ける。……なんと、壁面に施されている金細工がこうこうと煌めいていた。
「き……きれい……」
無数の金細工は、まるで生きているように光り輝いている。こんなに美しい光景を見るのは、生まれて初めてだ。
「これで終わりましたですぞ、王様」
コルフォルスがこちらに歩いてくる。
「いや、しかし……これは誠に見事だな」
「私もびっくりしちゃったわ。なんてきれいなんでしょう」
王様と王妃様も、この素晴らしい光景に見とれている。
「国境の守護結界も復活しとるはずです」
「よしっ、さっそく早馬を送って確認するぞ!私は王妃と先に戻る!コルフォルス、アーベルたちを頼む!」
王様はそう言うと、王妃様と王宮に帰っていく。二人を見送ると、コルフォルスが私を呼んだ。
「ロミリア、ちょっと来てくれんか」
――なんだろう?
近くに行くと、コルフォルスが私の手を握る。そして、とても穏やかな声で言った。
「ロミリア……本当にありがとう。全部、そなたのおかげじゃよ」
数日後、国境の守護結界が無事に再生していると連絡が届いた。むしろ、結界は以前よりずっと強くなっているそうだ。私は今、王様たちと各地の報告を聞いている。
「王様、さらに良い知らせがあります!」
伝令が嬉しそうに言う。笑みがこぼれるのを我慢しようとしているが、どうしても笑ってしまうみたいだ。
「なんだ、どうした?もっと真面目な顔をせんか、まったく」
「ゼノ帝国が宣戦布告を撤回しました!」
それを聞くと、王様は飛びあがって驚いた。
「なにぃ!?それは確かな情報か!?」
「はい、誠でございます!使者より正式な文書も預かっております!」
伝令が一通の文書を王様に差し出す。王様は受け取ると、すぐに中身を読み始めた。少しずつ険しかった表情が緩んでいく。
「確かに、宣戦布告を撤回すると書いてある!守護結界が強力になったのを見て、諦めたに違いない!やった、これで戦争は回避できたぞ!」
王様は両手を天高く上げて喜ぶ。そして、私の方を見て言った。
「これも全てロミリア殿のおかげですぞ!そなたがコルフォルスの病気を治してくれたから、ゼノ帝国との戦争を回避できた!心から感謝しますぞ!」
それを聞くと、王妃様やアーベル様もしきりに私を褒め始めた。
「そうよ!ロミリアちゃんが王国を救ってくれたのよ!本当にありがとう、ロミリアちゃん!」
「ロミリア!君はなんてすごい人なんだ!ああ、もう何と言ったらいいのか!君は女神だよ!」
周りの衛兵たちも私を褒め始める。
「ロミリア様はハイデルベルクの救世主様だな!」
「ああ、神よ。このような素晴らしいお方を授けてくださりありがとうございます」
「永遠にこの国で暮らしてくださいね!」
「私は一生あなたについていきます」
その場にいる全員が盛り上がり、だんだん収拾がつかなくなってくる。感謝されるのはとても嬉しいが、私はさすがにちょっと恥ずかしくなってきた。
「も、もういいですから……」
「そうだ、この偉大なるロミリア様のお名前を天にまで届けようじゃないか!」
その場にいる誰かが言う。
「よし、皆でロミリア様を称えるぞ!それっ、ローミリア!ローミリア!」
それを合図に、全員が私の名前を叫び始めた。アーベル様はもちろん、王様や王妃様まで一緒になって叫んでいた。ローミリア!の声が王宮中に響き渡る。
「いや、あの……」
「「ローミリア!」」
「恥ずかしいですから……」
「「ローミリア!」」
しかし私の声はローミリア!にかき消され、もう誰の耳にも届かなかった。こうなってしまったら、皆の興奮が落ち着くのを待つしかない。
「「ローミリア!ローミリア!ローミリア!」」
私は恥ずかしさに押しつぶされそうになりながら、いつまでも自分の名前を聞いていた。
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