第14話:楽しい晩餐会のお誘い(追放側の話⑦)

*****


――昨日は久しぶりにダーリーと会えて楽しかったな。


俺が昨日の思い出に浸っていると、召使いが手紙を持ってきた。


「ルドウェン様、今日のお手紙でございます」


「そこにおいとけ」


手紙の内容はほとんどわからないものばかりだったが、一応目は通している。


――これはよく分からない書類、これもよく分からないな、こっちは……。


そのとき、一通の手紙が目に留まった。ゼノ帝国から俺宛ての手紙がある。


――何だ?たしか、ゼノ帝国ってあの有名な大国だよな。……宛名は俺だし、父上は休んでいるから勝手に見てもいいよな。


手紙を開けると、一枚の紙が入っている。


“ルドウェン王子様へ。この度はご婚約が決まり、誠におめでとうございます。つきましては、友好の印として晩餐会を開きたく存じます。ぜひ、ご参加頂ければ幸いでございます”


要するに、俺の婚約を祝いたいわけだ。最後に、差し出し人の名前が書いてある。レオナルド・ゼノ、こいつはゼノ帝国の皇太子だ。


――フンッ。いかに大きな国とはいえ、ダイヤモンド鉱山があるアトリス王国にはペコペコしておきたいってわけだ。


招待状には、“アトリス王国にほど近い迎賓館で開かせて頂く”とも書いてある。


――ここなら、一日二日で帰ってこれそうだ。……父上と母上は体調を崩しているし、黙って行ってくるか?ロミリアとの婚約破棄を言う前に、外堀を埋めとくのもいいかもな。


そして正直に言うと、全く減らない紙の山に心底うんざりしていた。


――ダーリーも一緒に連れて行くか。もちろん、国務の一環としてな。そうと決まったら、さっそくガーデニー家に行こう。



ダーリーにこの話を伝えると、とても喜んでいた。


「嬉しいわ、ルドウェン様!私、今まで小さな晩餐会しか出たことがないのよ。せっかくだから、最近買ったドレスも着ていきたいわ。楽しみ~!」


「それは楽しみでございますね。ぜひ私もおともさせて頂けませんか?」


――ヘンリックか、こいつは優秀だから何かの役に立つかもな。


「よし、ヘンリックも来てくれ」


「ありがとうございます。ルドウェン様」


俺はすぐに馬車を手配して、ダーリーたちとゼノ帝国に向かった。





夜、迎賓館に着くと、俺たちは熱烈な歓迎を受けた。すぐに、奥から背の高い男が出てくる。黒髪に黒目、肌も少し浅黒い感じで、いかにもゼノ帝国の王族という見た目をしている。正装の上からでも、鍛え上げられた肉体だとわかった。


「ルドウェン様、ダーリー様。今宵は遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます。私がゼノ帝国の皇太子、レオナルドでございます」


――しかし背が高いな、こいつは。俺を見下ろしてんじゃねえよ。


「本日はお招きいただき、こちらこそ誠にありがとうございます。私はルドウェン・アトリスと申します。現在、諸事情により国王代理を任ぜられております。こちらが婚約者のダーリーと、その執事のヘンリックでございます」


「お初にお目にかかります。私はダーリー・ガーデニーでございます。ルドウェン様の婚約者です……」


横のダーリーを見ると、ウットリしてレオナルドを見ていやがる。


――なんだよ、ダーリーのやつ!こんな奴にデレデレしやがって!


俺は頭に来たが、さすがに怒るようなことはしなかった。中に案内され、少し話しているとディナーが始まった。


「ルドウェン王子とダーリーお嬢様のご婚約を祝って、乾杯!」


カチーン!


レオナルドの合図で晩餐会が始まった。食事は美味しく、グラスが空くとレオナルドがすぐに高級なぶどう酒を注いでくる。当然だが、大事な客として扱われているようで気分が良かった。


しかし、ダーリーはというと、同席しているゼノ帝国の美男子どもをチラチラ見ている。そのせいで、俺は食事中ずっとイライラしていた。


「ルドウェン様、お食事はいかがでしたでしょうか?」


豪勢なディナーが終わると、レオナルドが話しかけてきた。


「ええ、とても美味しかったです。今宵は本当に楽しい時間をありがとうございました」


食事も終わったので、俺はもうさっさと帰りたい。


「ルドウェン様。ちょっと大事なお話があるのですが……」


――ちっ、なんだよ。


「実は我が国は今後、貴国とダイヤの取引をしたいと考えておりまして……」


――ようやく本性を現しやがったか。


「そうですか」


「まぁ、休憩がてら、あちらのお部屋でお話ししましょう。それに、ルドウェン様に会えるのを楽しみに待っている女たちがいるのです。ダーリーお嬢様もお楽しみのようですし」


俺に会いたい女たちと聞いてドキッとする。そして、レオナルドに促されてダーリーの方を見ると、美男子どもに囲まれておしゃべりに夢中だ。肩に手を置かれているのに払おうともしない。


――ちくしょう!ダーリーのやつ!


俺はもうダーリーの顔なんて見たくもなかった。立ち上がろうとすると、少しフラつく。だいぶ酒が回ってきたようだ。


照明を落とした部屋に案内されると、奥の方で美しい踊り子たちが踊っている。肌の露出が多い衣装で、踊るたびに色々見えそうだった。


「あの人たちは誰でしょうか?」


別に興味ないような素振りでレオナルドに聞く。


「我が国一流の踊り子たちですよ。見ればわかると思いますが、全員とんでもない美人です。皆、ルドウェン様とお話しするのを楽しみにしております。取引の話が終わったら、どうぞお好きな女性をお選びください」


好きに選んで良いと言われ、さっきまでのイラついた気持ちがたちまち消え去った。


「それでは、さっそくお話というのをお聞きしましょう」


「話とは言いましても、この紙に全部まとめてまいりました」


レオナルドが一枚の紙を出す。しかしそんなことよりも、俺は今すぐ踊り子たちと話したかった。いつものようにざっと目を通す。


――ちっ、契約書ってのはわかりにくい言葉で書きやがるんだよな。えーと、つまり……。


酒で頭がはっきりせず、内容がさっぱり頭に入ってこない。


「よろしいようでしたら、一番下の空欄にルドウェン様のお名前と、国王代理とお書きください。それで取引の話はもうおしまいでございます」


踊り子たちが悩まし気な目で俺を見てくる。もう目の前の女たちのことしか考えられなくなった。俺は言われたとおりにサインをすると、レオナルドに突き返すように渡した。


――どうせ、大したことは書いてないだろ。アトリス王国にはダイヤの鉱山がたくさんあるんだ。


「ありがとうございます、ルドウェン様。貴重なお時間をお取りしてしまいました。それでは、どうぞお楽しみください」


俺が近づいていくと、踊り子たちが必死にアピールしている。もちろん、全員可愛がってやるつもりだ。


――そういえば、ヘンリックが見当たらないな。まぁ……別にいいか。

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