第13話:国王代理は愚か者(追放側の話⑥)
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王様と王妃様が体調を崩されて、ルドウェン様は国王代理になったみたい。だけど、やっぱり忙しいみたいで、最近は会う機会が減っている。
「はぁ……、次はいつ会えるのかなぁ」
ため息をついていたら、ヘンリックが出てきた。
「どうなさいましたか、ダーリー様」
――ヘンリックに相談してみようかしら。きっと、また何か良い案を出してくれるわ。
「王様と王妃様の具合が悪いみたいで、ルドウェン様が国王代理になられたんだけど」
「そんな大役を任されるなんて、さすがはルドウェン様でございますね」
――なんか、自分の好きな人を褒められるのは気分が良いわね。
「それでお忙しいのはわかるのだけど、なかなか会えなくて寂しいの。ちょっとでいいから会いたいんだけど、何か良い案はないかしら?」
「ふむ……」
ヘンリックは手を顎にあてて考えている。
「それでは、このようなお考えはいかがでしょうか?」
さっそく解決策を出してきた。
――ホントに優秀な執事で助かるわ。
「教えてちょうだい」
「王様と王妃様のお見舞いということで、こちらからお会いに行くのです。お見舞いということであれば、突然訪ねても全く問題ありません。それに、ダーリー様の評判も上がることかと存じます。お見舞いの品としては果物などが無難かと……」
――そうか、王様たちのお見舞いということで行けばいいんだわ。やっぱり、ヘンリックは優秀ね。
「それは良い案じゃない。ん?でも、ルドウェン様にお会いする口実は、別に考えとかなくて良いのかしら?」
――お見舞いの品だけ渡して、すぐに帰されたら会えないじゃないの。
「もちろん、その点についても考えております。エドワール様からルドウェン様への伝言を預かっているとお話すればよろしいのです」
――なるほど、それなら確実にルドウェン様に会える。
「さっすがヘンリック。あなたってホントに優秀ね」
「ありがとうございます。私も付き添いでおともさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「ええ。ぜひ一緒に来てほしいわ」
そして、私はヘンリックと王宮に行った。ガーデニー家を代表して王様と王妃様のお見舞いに来たと言う。
「ダーリー様、いらっしゃいませ」
出てきた王宮の召使いは固い表情をしていた。
――きっと、私のことをお義姉様から婚約者を奪った悪者だとか思ってるんだわ。お義姉様に魅力が無かったのがいけないのに。
「こちらはどなた様でいらっしゃいますか?」
召使いはヘンリックの方を見る。
「これはヘンリック。ガーデニー家の新しい執事です。ほら、ヘンリック挨拶して」
「私はヘンリック・ルーマンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「ところで、王様と王妃様のお身体の具合はいかがでしょうか?」
私は召使いに聞いてみる。
「まだフラつきがあるようでして、一日中ベッドに横になられてます」
「そうなんですか。あの、お見舞いの品を持ってきたんですけど……」
私が言うと、ヘンリックが果物を差し出した。
「これは、どうもありがとうございます。それでは、私がお渡ししておきます」
「お願いします。あっ、”ガーデニー家のダーリーが来た”とちゃんと言っといてくださいね」
「ええ……大丈夫でございますよ」
「あと、できればルドウェン様にもお会いしたいのですが……」
「何かご用でございますでしょうか?」
――ほらね、やっぱり聞いてきた。ヘンリックに考えさせといて良かったわ。
「はい、お義父様から伝言を預かってまして、それをお伝えしたくてお会いしたいのです」
「……さようでございますか。それでしたら、執務室にご案内いたします」
――やった。ようやくルドウェン様に会えるわ。
そのまま召使いに案内されて執務室に入る。ルドウェン様は、ちょうどお仕事しているところだった。たくさんの書類に囲まれている。
「ルドウェン様!」
「ん?……ダーリーじゃないか!どうしてここに?」
私たちはまるで、何十年も会ってなかったかのように走り寄った。案内してきた召使いが、険しい顔をしている。
――そうだ、ルドウェン様は正式にはお義姉様と婚約していることになってるんだった。まだあんまりくっついちゃダメだわ。
私たちは慌てて離れた。
「ル、ルドウェン様。お義父様から伝言を預かっております」
私の言葉を聞くと、ルドウェン様もすぐに意図を理解してくれた。
「そ、そうか。ありがとう、ダーリー……さん。きみ、伝言を聞くから、席を外してくれないか?」
ルドウェン様に言われ、召使いは部屋から出て行く。
「会いたかったわ、ルドウェン様」
「僕もだよ、ダーリー」
キスしようとしたとき、後ろから視線を感じた。ヘンリックがこちらを見ている。
――そういえば、まだヘンリックが残っていたわ。
せっかく会えたので、ルドウェン様としばらく二人っきりになりたい。
「ねえ、ルドウェン様。ちょっと別のところでお話しない?」
私は小声で言った。
「そうだね、僕もそうしたいんだけど……仕事が……」
珍しくルドウェン様はしぶっている。どうしようか、と思ったときヘンリックが口を挟んできた。
「ルドウェン様。お仕事が大変で、とてもお疲れが溜まっていらっしゃることと思います。今ルドウェン様まで倒れてしまっては大変です。どうでしょうか、少しダーリー様と息抜きされてきては?」
――小声で言ったつもりだったけど、聞こえてたのかしら?
なぜ聞こえてたのか少し疑問に感じたけど、彼はまた気の利いたことを言ってくれた。
「たしかにな、ヘンリックの言うとおりかもしれない。ダーリー、ちょっと向こうの部屋に行こう。ヘンリック、少し待っててくれ」
「はーい!」
「承知いたしました」
――まぁ、いいや。何はともあれ、久しぶりにルドウェン様と二人っきりね。
ヘンリックは笑顔で見送ってくれた。
「どうぞ、ごゆっくりお休みくださいませ」
*****
――好きなだけ楽しんで来い、この大バカ者どもが。……とうとうここまで侵入できたぞ。
予定通り、王と王妃は体調を崩した。国王代理にルドウェン王子を任命したのも計算通りだ。あのぶどう酒には、二本とも毒を入れた。
しかし、それは両方とも飲まないと効果がでない種類の毒だ。ぶどう酒に入っているだけでは、調べても毒だとわからない。ルドウェン王子は安物嫌いで有名だからな。上等なぶどう酒しか飲まないことは、簡単に予想がついた。
本国はハイデルベルク王国に宣戦布告することを決めた。あの王国さえ倒せば、もはや世界を手に入れたと言える。しかし、相手はとても強大な国だから、まずは力を蓄えなければならない。
そこで、本国はアトリス王国のダイヤモンド鉱山に目を付けたわけだ。あれだけのダイヤがあれば、十分な資金力になるだろう。もちろん、力づくで奪うこともできるが、大事な戦争前に余計な戦力は使いたくない。そういうことで、俺は密偵としてこの国に派遣されたということだ。さて、さっさと目的の書類を探さねばならない。
――金庫の中だろうか?なんだ、開けっ放しじゃないか。クックック、仕事相手が愚か者だとやりやすくてしょうがないな。
ガサガサガサ。
――……あった、あったぞ!アトリス王国のダイヤモンド鉱山の権利書だ。
これで、ようやく第二関門突破と言ったところか……。後は明日、この手紙をルドウェンのバカ王子に届けるだけだな。
がんばれ、あと少しだ。
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