人気もない、放課後の校内にて。

普段から無愛想な面持ちの修治しゅうじは、一際眉間に皺を寄せうんざりと息を吐いた。





「ちょお待ってて~修治ィ~!」


その表情は、後ろに付いてくる幼なじみ…絢斗けんとの間延びした声で更に険しいものになり。修治は苛々しながら、廊下を闇雲にズンズンと進んだ。


気付けば別館で…立ち入り禁止になっている屋上へと続く階段前まで、来てしまっている。






「なぁ修治って~1回だけでそげん怒らんとさ~」


たかが女の子とチューしただけたい、と。

勘弁してよと言いながら…全く悪びれた様子のない幼なじみに対し。修治は奥歯を噛み締める。






「なんがたかがとや?俺がそげんことば好かんて知っととやろが…」


整った容姿の割に、愛想も笑顔もない不器用な修治は。一部の生徒や教師から怖い印象を持たれ、不良みたいな扱いをされていたが…。


実は真面目で硬派だったりする為。

地味にモテる癖に童貞で、恋愛経験も未だ無し────…とは、幼なじみ絢斗の見解。



と…そんなわけで。

不純極まりない行為に対しては、このように厳しい態度を見せるのであった。






「ばってん…オレにも理由があっとばい~!」


「言い訳は聞きとうなか…。」


とにかく、これ以上お前には付き合い切れないと…修治は別れるの一点張りで。絢斗は媚びるような笑顔から、ふてぶてしくぷっくり頬を膨らませてみせる。



絢斗も修治とは対称的だが、かなりの美形であり。

修治がクールで強面な雰囲気なら、絢斗は逆に今時な容姿で人懐っこい印象といったとこだろう。


悪く言えば軽いというか…チャラチャラした遊び人風なわけで。

彼に至っては見たまんま。

普段から女の子を侍らせては…とっかえひっかえに付き合うような人間だった。




とはいえ不摂生な絢斗にも、それなりの理由があったのだが…。そのツケが、現状を悪化させてしまったのは紛れもない事実だった。







「理由て…浮気になんの理由があっとや?」


反省を見せない絢斗の態度に、修治は冷たい視線を向けてくる。


紆余曲折、色々あって単なる幼なじみから、恋人同士になった修治と絢斗。

昔から女タラシだった絢斗も修治と付き合うようになってからは、そういった事もなくなっていたというのに…。






『アタシ絢斗にチューされたとさね~』


『はぁ~?絢斗クン、そげん事ばもうせんて言うとったとに~!』


たまたま聞いた女子達の会話で知った“浮気”の二文字。


交際3ヶ月目で発覚した、裏切りに憤った修治は。

先ほど絢斗に対し、恋人解消を宣告してきたのであった。

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