②
「あんコが修治の事ば────…や、そいやなくて…」
珍しく言葉を濁す絢斗に、余計苛立つ修治。
いつもはペラペラ無駄口ばっかの癖にと…らしくない態度に不信感を募らせる。
「…理由云々やなか、事実を認めて反省せろて言うとっとやぞ。」
そげん事ばっかやから、周囲からタラシだなんだ言われとるとやろと…説教みたく述べる修治に。
絢斗はさも面白くないとばかりに唇を尖らせる。
「お前のそがん性格ば、どうにもならん言うとやったら。オイにはもう無理やけんが───」
「…浮気浮気て、勝手に決めんなさ…!」
修治の言葉を遮り、声を荒げた絢斗。
荒げたと言っても、端から見れば多少大声になった程度だったが…。
いつもはヘラヘラしていて、感情を乱す事など無い絢斗だけに。修治は驚いて、思わず目を丸くしてしまった。
「オレはずっと、修治が好きって言いよったい…」
「絢斗…」
確かに、恋愛感情だと知る以前…それこそ小さな頃から。絢斗は自分を慕い好きだ好きだと言っていたが…。
今でこそ理解してても、それは幼なじみ…家族みたいな意味合いなのだと、ずっと修治は思っていた。
その要因でさえ、絢斗のちゃらけた性格が故に。
照れ隠しにも軽いノリでしか好きだとアプローチ出来なかったため…。結局は思うほど、修治へは伝わっていなかったのである。
「ならなんで女とキスなんかすっとや…」
好きだと言う癖に筋が通らないと、嘆息する修治に。絢斗は唇を噛み締める。
一見怒ってるように見える修治だが…。
それはきっと傷付いているからなんだと。幼なじみだからこそ、痛いほど判ってしまう絢斗。
それが自分の所為だという事も充分理解していたが。
本音を晒せぬもどかしさに、堪らず俯いてしまった。
そんな態度が、余計に修治を煽る。
「…オレは、修治としたかっただけたい…」
「…絢斗?」
「だけんっ───…オレは修治とシたいって言いよっと!」
キスだけじゃない、それ以上にヤラシイことを。
恋人同士の愛の営みがしたいのだと、直球で告げてきた絢斗に。
今度は修治が絶句する。何故なら…
「…修治、キスどころか手すら繋いでくれんやっか…」
修治が奥手なのは知ってる。
クソが付くくらい、古風な性格だったから…大事にしてくれてるんだってことも。
けど、やっぱり物足りないってのが本音。
男だし、好きな人とならエッチなことだってしたいに決まってるだろうに…。
絢斗にとっては既に3ヶ月。
なのに未だ数える程度の、軽いキスだけだなんて。
有り得ないでしょーよと…彼は積もりに積もった不満を漏らした。
「だけんて、お前が女とキスするととは関係なかた…」
「オレだって不安になっとよ…?」
こんなふざけてるから、信用ないかもだけど…。
それだってカモフラージュ、平気なフリして本音はいつもビクビクしてる。
「修治はモテるけんさ…裏で手回しすっとも大変っちゃけんね…」
「はぁ?モテるて、そいはお前ん事やろが…」
「嘘やなかっ!キスした子やって、前から修二ん事ばカッコイイカッコイイて───…」
勢いで捲し立てた絢斗が、ハッとして目を逸らす。
修治は信じがたいとばかりに、眉間を寄せたが…
「そいは…つまり、俺から女の気を逸らすため…?」
それ前提で考えれば、思い当たる節もチラホラ。
確か幼稚園の年長くらいまで、絢斗はそれはそれは女の子みたいで…大人しくも可憐で愛らしいイメージ、だったのだけれど。
いつだったか…クラスの女の子達が修治を取り合いし出した辺りから。絢斗の性格は変わってしまったように思える。
「絢斗…?」
「ッ…」
真偽を確かめるため覗き込んだ顔は、俯き隠されて。しかし…緩めの栗毛から覗く耳朶が、絢斗の本音を物語る。
「なんや、そい…」
堪らず口元を押さえた修治の顔も、同じように熱を帯びてきて。不純で浮気性だと思っていた恋人の健気な一面に、心打たれた修治は…言い知れぬ感情が込み上げてくるのが分かった。
なんていうか、コレは────…
「絢斗」
「……」
名前を呼んでも、照れ臭いのか肩を揺らすだけで応えてくれない恋人に。
「あっ…」
修治はその肩を抱き寄せ、チュッと軽く口付けを与える。
「こいで良かか…?」
目を丸くして見上げてきた絢斗に、修治もはにかんで返したけども…
「…相変わらずオクテっちゃんね…」
そげんぬるかキスじゃ足りんとばい…と。
絢斗は苦笑して、もっかいとねだった。
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