第12話 彼女のその後は…
アレクセイとコーネリアの再会は果たされた。但し、筆談と間仕切り越しの異様な光景の中での事だが。
それでも束の間の逢瀬に二人は安堵していた。
しかし、それと同時に気になることがあった。それはあの乱入してきた珍客アメリア・クックのその後だった。
「コーネリア、君に伝えたい事がある。落ち着いて聞いて欲しい。それは、僕達の結婚式を台無しにしたあの女の事なんだが……」
アレクセイが切り出したあの女。アレクセイとコーネリアの結婚式を台無しにした張本人。
「今、現在詳しく取り調べているが、黒幕には届いていない。犯人の糸口が掴めても蜥蜴の尻尾切りのように、次々と証人が消えて行っている。あの女の名前はアメリア・クック落ちぶれた子爵家の長女で、幼い妹や弟がいる。彼女が言った様に妊娠中だった。その父親に辿り着くのにかなりの時間もかかってしまった。なにせ、彼女は貴族年間を購入できない程の困窮な生活を送っていたんだ」
アメリアの実家クック子爵家は現在平民より酷い生活苦にあった。その為、彼女は身売り同然で住み込みで平民の商家で働いていた。
この国の貴族名鑑は、国王が交替した時以外は自主購入しなければならない。クック子爵家にはそんなお金の余裕はない。だから、今回の目的には適した人材だったのだろう。犯人はそういう事情に精通している人物。となると貴族名鑑に携わっている人間。もしくは貴族の家族構成を容易に調べられる人間に限られてくる。
「コーネリア、覚えているかい?君に届けたはずの贈り物や手紙が届いてなくて、ちょっとした言い争いになった事があったよね」
コーネリアは「はい、覚えています」そう筆談で答えた。
「あれ、実は騎士団のメッセンジャーを使っていたんだけど、どうやら騎士団の中の誰かが、アメリアに僕からだと届けられていたんだ」
そのおかしな行き違いがあった為にコーネリアは、アレクセイを一瞬でも疑ってしまい、結婚式の時に拒絶したのだ。
「他にもおかしなことがあって、あの御前試合の日にアイゼンの剣が預けていた武器屋から無くなっていたんだ。彼は当日、訓練用の剣で挑んで僕に負けた。だから、あの日、きちんとしたプロポーズができなかった。すまない」
コーネリアは驚いた。そんな前から始まっていたとは思ってもいなかったのである。
事のあらましは、アメリアの供述によると、アレクセイ・ギャロットと名乗る別人がアメリアに近づき、彼女を誘惑した。そして、結婚の約束をして肉体関係を結んだのだが、その男に指示した犯人の予想とは裏腹に、アメリアを誘惑した男は彼女を本気で愛したのだ。何故なら、アレクセイが用意したコーネリア用のプレゼントをそのままアメリアに渡していた。金に困っているなら売り飛ばせばいいものを、律儀に贈り続け、結婚しようとしていたようだ。
あの日、彼女と駆け落ちする予定だったが、約束の場所に男は現れなかった。
アメリアは一晩中、待って、とうとう街まで帰ってきた所に、男の知り合いだという人物から『アレクセイ・ギャロット』が結婚する。そう告げられて、自分を捨てて結婚するアレクセイの結婚を邪魔しに神殿にやってきて、騒ぎ立てた。
だが、それを王太子のいつもの#悪い癖__・・・__#が出てしまい、彼の放った一言に誰もが従ってしまったのだ。
現在、アレクセイに【白い結婚】の呪術を施した神官は、犯人と繋がっている可能性があるが、神官を取り調べる為の手続きに戸惑っている。
拘束したアメリアに騎士たちの絵姿入りの名簿を見せたが、該当者がいなかった。もちろんアレクセイの事も彼女は知らないと答えた。
そこで何年も前の名簿も見せると、その中の一人が相手だと判った。
男の行方を捜査した結果、アメリアを誘惑した偽アレクセイは無縁墓地に最近死んだ浮浪者と一緒に埋められていた。
彼の手にはアメリアへ贈るはずだった結婚指輪が握られていて、その指輪にはアメリアの名前と彼の本当の名前が彫られていた。
───マーク・ドイル
彼は、三年前まで騎士団に、所属していた平民出の若手だった。
不慮の事故で手の筋を損傷して、騎士団を去っていたのだ。
最初は金目当てで近づいたのかもしれないが、本気で愛したアメリアと他の土地でやり直そうとしていたのだろう。
死人に口なし。
彼は永遠に真実を語れなくなってしまった。
指輪はアメリアに渡され、アメリアは自分が犯した罪に耐え切れなくなり、獄中で発狂した。その衝撃で子どもは流産したのだ。
なんとも後味の悪い結果にコーネリアも言葉を失っていた。
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