第9話 新たなる門出
春先の花が咲き誇る季節。空には快晴が広がっている。誰もが新しい清々しい季節の到来に心を弾ませただろう。
そう言う僕もこの日は、朝からそわそわしていた。
待ちに待った愛しいコーネリアとの結婚式なのだから。
既に新居となる屋敷には、新婚生活に必要な物は全て揃えてあった。真新しい家具や食器、カーテン・シーツ彼女の意見を取り入れた彼女の部屋は、いつ女主人を迎えての良いように整えられていた。
完璧だ。後はコーネリアがここに居れば全てのパーツが揃うようだ。
僕は、前日屋敷の最終確認をしに訪れて、そう確信した。ここは彼女と僕の終の棲家。二人は明日、新しい門出をここから始められるのだと、この時はそう思っていたし、疑ってもいなかった。
王都にある教会本部の大神殿で、華やかに厳かな結婚式を挙げるのは、両家の望みだった。オルフェ侯爵家は愛娘を年若く嫁がせる為、出来るだけ彼女の要望を取り入れて欲しい。そう言ってきた。
僕も賛成だった。まだ少女のあどけなさが残る彼女に、一生の思い出になる様に僕も考えていた。
招待客には王太子殿下も参列していたし、護衛を兼ねて同僚の騎士仲間からも祝いの言葉をもらって有頂天になっていたのだろう。
何の憂いもないはずだった。婚姻の書類にお互いがサインし、最後に誓いの口付けを交わせば、後は彼女の家で披露宴を開くはずだった。
ああ、やっとここまできた。あと少しで終わる。そうすれば彼女は僕だけのものだ。
兄の気持ちがわかる。僕も彼女を閉じ込めたい気持ちで一杯だ。誰にも見せず、ずっと独り占めしたい。
そんな欲望が頭の中を支配する。
もう少しで、唇が重なろうかと言う時に、突然神殿の扉が開き、外から誰かを静止する声が聞こえてきた。
乱入して来た女の名は
アメリア・クックという落ちぶれた子爵家の令嬢だった。
「私がアレクセイ・ギャロットと結婚するのよ。私のお腹には彼の子供がいるのよ。そこの女、どきなさいよ。そこは私の場所よ。あんたの場所じゃないわ」
身に覚えのない事を喚き散らしながら、僕のコーネリアに掴みかかってくる。咄嗟に僕がコーネリアを庇おうとした手を、コーネリアは払い除けた。
「僕は無実だ。こんな女知らない。何かの間違いだ。信じてくれ、愛しているのはコーネリア、君だけだ。さっき神聖な誓いをしただろう。僕は無実なんだ!!」
尚も暴れまわるこの見知らぬ女を、護衛騎士らが取り押さえた。しかし、この後
「君も騎士なんだから、潔く責任を取ったらどうなんだ。アレクセイ・ギャロット」
そう冷たい口調で、その場で僕を諌めたのは、他でもない王太子殿下だった。彼のこの発言で、まるで僕が不貞を犯した人間の様に扱われた。
最早、誰も僕の言い分を聞こうとはせず、コーネリアさえも僕に疑惑の目を向けながら、涙を流していた。
「信じていたのに…」
彼女の最後の言葉は、僕の心に止めを刺した。その後の事はよく覚えていない。
別室に呼ばれて、神官から
「神聖な儀式を汚した罰として、今から【白い結婚】の呪縛を授けます」
神官が強い光を僕に向けると、僕の体の一部が拘束された。それは人の眼には見えない呪道具が填められたのだ。
絶望の中、両親と兄夫婦から屋敷で謹慎していろと言われたのにも拘らず、次の日からコーネリアの元に通ったのだ。
しかし、侯爵は当然会わせてくれなかったし、彼女を無理矢理、自領に引き籠らせた。
彼女が僕と駆け落ちしそうな勢いで、屋敷から何度も抜け出そうとしたからだ。
これを聞いて、僕は安堵した。どうやら彼女に見捨てられていないようだ。
それなら、今の状況を打開できる方法を探し、彼女を取り戻せる様に動くだけだった。
その後、アイゼンから聞いた神殿の鑑定を試し、僕の無実は証明されたが、僕らの関係は元には戻れなかった。
───白い結婚───
神官から施された呪縛が僕らを引き離すことになったのだ。
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