第21話 姉と弟

 「おかしな風潮が流行っているようだな」


 マデリーナは弟のローレン公爵に問い掛けた。


 「そうですね。ギャロット伯爵は、独身男達からは恨まれていますよ」


 「だが、我々がしようとしている議案の助けとなっている。元々この国の女性の地位が低い事が問題なのだ」


 そうこの国の女性の地位や価値観が低いため、子を産めない女性の扱いは酷かった。その不満がこの現状を生み出している。特に祖父母の代や親の代の貴族の女性からは、不満が爆発しているのだ。


 今まで夫や婚約者から『浮気は男の甲斐性』等と屁理屈を付けて虐げられ、蔑ろにされた分の代償を払わされている。自業自得である。


 「まあ、否定できませんね。陛下からしてもあの通りの方ですからね。前王妃ジュリア様がきちんとお仕事なさっていたら、キュピレー家も下手な事をしなかったでしょうしね」


 「あの女にそんな知恵があるものか。昔から国王に媚びる事しかしなかった。嫌な事は私に押し付けたのだから、せめて王妃の務めの【房事記録簿】に目を通していれば良かったのに」


 「嫌ですよ。そしたら私にすり寄って来たかも知れないでしょう。あんな脳みそお花畑の女なんか入りませんよ」


 「そうか、は良かっただろう?」


 「姉上や母上を見慣れてる私が、他の女に見惚れるなんてことある訳ないでしょう。私には妻一人で十分です」


 「まあ、お前もアレクセイの事を言えないよな。愛妻家で通っているものな」


 「あの、話は変わるのですが、何故この部屋にこんなに花が溢れているんですか?」


 「それががここの所毎日のように侍従に持ってこさすんだよ。全く迷惑な。そんな暇があれば政務の一つでも片付けて、今の騒ぎを治める事が先決だろうに……」


 眉間の皺を解しながら、マデリーナは言い放った。あの阿呆とは当然国王陛下の事で、実は先日、夜にマデリーナを訪れて以来、老いらくの恋とはいかないまでもどうやら二度目の恋に落ちたらしい。


 「はあ、陛下がねぇ」


 「お蔭で、今まで交流もなかった第二王子の執務室に暇があれば顔を出して、私への贈り物の相談に通っているらしい。迷惑だから何とかしてください。母上と言われたぞ」


 「それは大変迷惑な話ですね。王子も王太子の引継ぎで忙しいのに……」


 「まあ、ローランドが追い払っているから安心だろう。ククク」


 マデリーナは悪い笑みを浮かべていた。何せあのローランド・ギャロットのことだ。今までやられっぱなしだった分やり返しているに違いない。


 「その内、隠居する時に陛下も一緒に離宮に引き取るから、今だけ親子の会話を楽しんでもいいんじゃないか?」


 それはマデリーナからすれば今更かもしれないが、きっかけがどうであれ初めての親子の交流をして、関係が少しでもいい方向に変われば、次期に生まれてくる孫にも多少、影響するのではと考えている。


 折角、生まれてくるのだから、皆に祝福されて幸せになって欲しいと言うマデリーナの願いだった。不遇な扱いを受けた我が子第二王子の幼少の様な惨めな事態は避けたい親心だった。

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