第22話 キュピレー家の誤算
この国の王室には【房事記録書】があり、秘密裏に王族に付いて廻り閨事の記録を纏める官僚がいる。はっきり言って出刃亀である。
その記録簿は王妃が代々受け継がれていき、毎日チェックするのが決まりなのだが、前王妃ジュリアはそれを怠っていた。代わりにマデリーナが見ていたのだ。
だから知っている今の王は偽りだという事を。
先代の王には子種が無かった。それ故、隣国の王女の輿入れ先を王弟としたのだ。次代に同盟の絆を託して、つまり今の国王は前代国王の王妃と王族の血を受け継ぐ若い愛人との子供で正式な王位継承権を持っていなかったが、マデリーナと結婚したことによって、国王と認められたのだ。つまり本来なら王座はローレン公爵が座るべき場所だったのだ。
【房事記録書】を読めばその事が詳細に書かれていた。そのことをジュリアは知らず、キュピレー家も知らなかった。だから自分の甥が次代の国王になれると信じていた。
アレクセイの事件は、この事から始まっていた。
アレクセイは知らない間にキュピレー家の嫡男の恨みを買っていた。
第一王子はある時を境に女性を抱けない体になり、毎年行われる御前試合の勝者であるアレクセイ・ギャロットに密かに憧れを抱いていた。
それを知ったキュピレー家の嫡男は嫉妬のあまり、彼の評判を落とすべく画策し、アメリア・クックを利用して結婚式を台無しにすることに成功した。
キュピレー家の当主はまさか第一王子がそんな体だとは思っておらず、政敵を追い落とせるチャンスとばかりに神官を買収して、アレクセイに呪いをかけた。
勿論、第二王子は兄の事情を知っていたので、毒牙にかからぬ内にアレクセイの貞操を守ろうと引き抜きの話を持ちかけるも失敗。
結局、皆が色々な思惑で動いて、アレクセイとコーネリアが貧乏くじを引いてしまうことになったのだが、今またアレクセイを悩ませる事態が起きている。
「なあ、最近、騎士団の練習場に若い令嬢がやたらと差し入れに来るのはなんでだ?」
アレクセイはまたもやアイゼンに質問を投げかけていた。
「ああ、最近の流行の中に『騎士を恋人に』って言うのがあるんだよ」
「それは何でだ?」
「だから、お前らの所為だよ!お前らの純愛が今や王都中の話題の元になっていて、結婚や恋人にするなら騎士様が一番といって、騎士は今や空前のモテ期になってるの。ああやって追っかけまでいる騎士もいるんだよ」
「良い事じゃないか。騎士は危ない仕事が多いから、独身者が多いし、辺境なんかに単身赴任中に恋人に去られる者も大勢いるんだから」
「まあ、今、職業も騎士を希望する者が増えてきて、これから汚職に走った騎士達を処罰した後の穴埋めに丁度いいけど、なんか嫌な予感がするんだよな」
「そうかな?」
能天気なアレクセイとは違いアイゼンの野生の感は当たっていた。
その数日後、新たな王太子ルイナードに呼び出され、とんでもない辞令が二人に下ったのだ。
1年以内に新しい親衛隊の結成を二人に一任すると云う内容で、これによってアレクセイの甘い新婚生活が伸びる事になる。
アレクセイの受難はまだまだ続きそうだ。
同じころ、ギャロット伯爵領のコーネリアの身にも起こっていた。
実は、近隣の領地を持つ家からお茶会や夜会の案内が引っ切り無しに屋敷に届いていた。今や国中が見守る彼らの純愛の物語を直接、聞きたいという令嬢や夫人らから。
令嬢からはどうすれば相手をそれほどまでに、繋ぎ止められるのか、その手管を聞きたいというのが本心で、夫人らは噂の『お飾り妻・コーネリア』を自宅に呼んで会談したと自慢するのが、ステータスとなっている。
知らない間に『白い結婚を見守る会』等という会が社交界の令嬢等で発足し、会報や会合等で情報交換をされている事など知る由もなかった。
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