第13話 愛したい夫と愛されたい妻

 コーネリアは、父にアメリアの実家クック子爵家のその後の様子を訊ねた。


 「クック子爵家は取り潰されるだろうね。公爵家と侯爵家を敵に回しては貴族としてはやっていけない」


 「それでは、彼女の幼い妹や弟はどうなるのです?」


 「いくら騙されたとしても罪は罪だ。弟妹については孤児院行きになるだろう」


 「彼女だって被害者なのに…」


 コーネリアは確かに結婚式を台無しにされたが、彼女も騙された被害者で、もう愛した人は死んでいて、形見になるはずの子供も流産した。一体彼女に何の関係があってこんな目に遭わされたのだろう。彼女はただ幸せになりたかっただけ。こんな理不尽な終わり方、納得がいかない。


 「コーネリア、僕から君にまたお願い事なんだが、事件が落ち着いたら、アメリアの弟妹をギャロット伯爵家の使用人に迎えようと思っているんだ。そこで教育を施して、独り立ちできるように手助けする事位なら、法にも障らない。このまま、何もしないよりずっといいと思うんだ」


 思いがけない提案に、コーネリアはやはり、アレクセイを夫に選んで良かった。改めてそう感じていた。


 「お父様、如何です?これなら貴族法に背くことなく支援できますよね」


 「確かに貴族法に被害者がやむを得ない場合、加害者の家族の更生を支援できるが、本当にいいのか?」


 「はい、私達が身元引受人になることで、彼女の犯した罪を彼女の家族に背負わせなくて済むなら、そうしたいです。それに私は末っ子なので、弟妹が出来るようで少し楽しみです」


 「そうか、なら君達の意志を尊重しよう」


 「ありがとうございます。侯爵、宜しくお願いします」


 この国には、下級貴族を守るための『貴族法』がある。今回の様に困窮した下級貴族を食い物にし、破滅させた場合、被害者が加害者の家族を罪に問わない様にできる処置。


 これにはいくつか条件があるが、概ねアレクセイとコーネリアの要望は通るとオルフェ侯爵は判断した。


 これからの事を話しあいながら、別れの時間が近づいてくる。アレクセイはコーネリアを抱きしめたいし、思いのまま愛したい。そんな気持ちでいっぱいだった。


 コーネリアも今夜ぐらいは一緒にいたいのだが、アレクセイの呪いを考えるとやはり躊躇われた。二人の様子を見ていた公爵からある提案をされた。


 「体に触れなければいいのなら、隣室で休むのはどうだ。同じ部屋だとアレクセイにとっては拷問だが、今晩一晩、隣同士の部屋なら耐えられるのではないか」


 二人は、この提案を喜んで受け入れた。新居では何かあった時に対応が困るだろうと、ギャロット公爵家にコーネリアが泊まる事になった。


 アレクセイとコーネリアは壁を挟んで、話し合った。途中アレクセイの苦しそうな呻き声が聞こえてきたが、直ぐに


 「大丈夫だから、もっと君の声が聞きたい。本当は君に触れたい」


 そう甘い声で囁くようにコーネリアに壁越しで愛を伝えていた。コーネリアも


 「早くアレク様と一緒に過ごしたい。顔を見て話したい。アレク様の腕の中で眠りたい」


 誘っているように言ってくるので、アレクセイは自制するのが精一杯だった。やはり興奮して蹲りながら、愛し愛されたい二人だけの一夜がこうして更けて行くのだった。

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