第2話 ライバルからの激励

 次の日からアレクセイはコーネリアの実家オルフェ侯爵家を毎日訪問し続けた。


 「お願いです。コーネリアに妻に会わせて下さい。僕は無実です」


 「申し訳ありませんが、旦那様から#お嬢様__・・・__#と会わせるなと申し付かっておりますので、どうかこのままお引き取り下さい」


 「そ、そんな」


 先触れを出すと当然、門前払いを食らわされ、職場では針の筵となっていた。


 「自業自得だ!」


 兄達やアレクセイの家族でさえそう思っている。だが、アレクセイは諦められなかった。デビュタントで出会った愛しいコーネリアの事を……。



 アレクセイ・ギャロットは公爵家の次男として生まれ、結婚したら伯爵を譲り受け、愛するコーネリアと幸せな家庭を築く未来を夢見ていた。そして、やっと念願の新婚生活を送れるはずだった。つい先日までは……


 あの忌々しい見知らぬ女がアレクセイの人生を台無しにした。彼は騎士学校を卒業後、まじめに仕事に取り組む好青年で浮いた話もなければ婚約者一筋の所謂朴念仁の様な人物。そんな彼がやっと念願の親衛隊に入隊し、王太子の護衛を任された。もちろん両家の家族は大喜びし、コーネリアもお祝いした。


 だが、先日の事件で彼は転落の人生を歩んでいた。コーネリアとの甘い新婚生活はなくなり、一人寂しく二人の新居に帰宅する。職場では周りから白い目で見られ、今日ついに王太子の護衛を外された。その上、今度は親衛隊ではなく下級騎士達の警備騎士に降格した。全く覚えのない彼からしたら理不尽すぎるこの処遇に不満を抱きつつ仕事をこなす日々が続いた。


 「なあ、お前本当に不貞を犯したのか?」


 同僚のアイゼンが珍しく声をかけてきた。この男とアレクセイはライバルで、御前試合ではいつも互角で何かと張り合っている仲。犬猿の仲。そんな男から声をかけられたのは意外だった。


 「神に誓って、僕は無実だ。大体そんな暇はないだろう」


 そう、王太子の護衛は不規則で、過労死する程の激務。だから選ばれるのも御前試合での評価が殆ど全てなのだ。若く優秀な人材で尚且つ清廉潔白な人物というのが条件で、上の年齢は40才位までと徹底されている。年を取ると身を挺して主を守ることが出来ない。この国の騎士は40才で昇進出来ないと引退するしかないのが現状なのだ。


 その間に名を馳せることが出来れば貴族のお抱えや剣術指南の話もあるが、多くは平民として余生を送っている。だから生まれも貴族のアレクセイはある意味恵まれている。アイゼンの様に平民ではないからだ。二人は対照的で「平民の期待の星・アイゼン」方や「貴族の期待の星・アレクセイ」と呼ばれる程、周りからも一目置かれる存在。


 「良い事教えてやるよ。神殿で鑑定できるんだぜ」


 「何をだ?」


 「童貞や処女を鑑定するんだよ」


 その言葉に思わず反応してしまった。


 「やっぱり、お前やったことなかったのか?いつも澄ましている顔が面白い位、赤いぞ。こりゃいいや」


 面白そうに笑うアイゼンを睨みつけながら


 「どうすればいいんだ。教えてくれ」


 いつになく素直なアレクセイに戸惑いながら、アイゼンはその神殿の仕組みを教えたのだった。

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