第3話 神殿での鑑定

 アイゼンから詳しい情報を聞いたアレクセイは早速、実家の公爵家へ向かった。


 「父上、兄上、頼みごとがあります」


 「なんだ、恥の上塗りはやめろ!侯爵家から抗議文が送られてきているのだぞ!」


 「貴様の様な者が弟だったなんて、恥をしれ」


 罵られる事は覚悟していたが、そんなに自分を見ていないのかとアレクセイは家族の繋がりに虚しさを感じている。だが、母だけは違っていた。


 「旦那様、ローランド。アレクセイの言い分を聞かずにそんな事を仰るのはいかがなものかと。それに私はアレクセイがコーネリア嬢を蔑にしていない事を知っています。取り敢えず話をきちんと聞いてあげて下さい」


 「お前がそういうなら…」


 「分かりました。母上」


 母サンドラの取り成しで、話は聞いてもらえる事になり、神殿での鑑定を受ける事を伝えると


 「馬鹿者!そんな事をしたら更に笑い者になるんだぞ。お前はわかっているのか」


 「分かっております。しかし、このまま汚名を着せられコーネリアを手放すくらいなら貴族の矜持等何の役にも立たないし、僕には意味がない事です」


 「お前はそれでいいが、公爵家も恥を掻くことになるのだぞ」


 「でも、それで無実が証明されれば汚名を返上できますし、アレクセイを貶めた者も炙り出せますわ」


 「しかし……」


 「父上、どうかお願いです。僕のことは見捨てて下さって結構ですが、これだけは聞き届けて下さい」


 アレクセイの真剣な眼差しに公爵も遂に折れた。そして後日、オルフェ侯爵家にもその立会いをお願いした。



 


 二度目の神殿訪問で、神聖な儀式を汚した張本人がやって来たことに腹を立てつつも、この国の高位貴族の頼みを無下にする訳にもいかず、渋々了承してくれた。


 「宜しいですか。本来、この鑑定は余程のことがない限り開示しないのですが、ご本人の強いご希望ということなので公開しますが本当によろしいですか?」


 「はい」


 アレクセイは迷うことなく即答した。


 「そうですか、ではこちらの書類にサインをお願いします」


 「分かりました」


 アレクセイと公爵はそれぞれサインした。


 アレクセイは今年22歳になる。その年まで【童貞】等と知られれば貴族としては致命的な扱いを受ける事になるが、本人からすればそんな些細な事よりもコーネリアを失う事の方が余程大事だった。


 神殿に祭られている神の足元にある水盆を示しながら


 「こちらの水盆に手を浸して下さい。そしてこの花を触れて頂ければ判ります。花が白いままだと処女・童貞を示し、黒く朽ちてしまえば喪失している証明となります」


 アレクセイはこの場所に両家以外にも法務大臣代理と王都新聞社の記者を招いていた。全てを公に開示し、無実を証明するために…。そして、自分の名を騙ったを突き止める為に


 「それでは、皆さんよく見ていてくださいね」


 アレクセイは水盆に手を入れ、白い花を触る。何の変化もなく花は変わらず白いままだった。


 「おおっ!」


 その場の全員が見ている前で、鑑定結果は


 『アレクセイ・ギャロットは童貞』


 と証明された。


 その結果は新聞によって、一夜の内に王都中に駆け巡り、オルフェ侯爵領に帰っているコーネリアの元にも証明された白い花と新聞を添えてアレクセイからの手紙が届けられた。

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