第18話 お飾りの王妃
就寝前の王妃の部屋で王妃付きの侍女が国王の訪れを告げる。
「陛下が王妃様にお会いしたいそうです」
「陛下が?こんな夜更けに先触れもなく?」
訝しんだ表情を浮かべながら、「ふう」っと溜息を洩らしながら
「仕方がありませんね。お通しして」
渋々、侍女も王妃の命に従った。この王妃のいる宮は側妃時代からの住まいで、王妃になっても本当の王妃として扱われたことのない不遇な人生を送ってきた。王妃にとって国王は夫ではなくこの国の仕えるべき主でしかない。
夫婦として情を交わした事のない『お飾りの妻』それが王妃マデリーナだった。
「同じお飾りの妻と呼ばれても#彼女__コーネリア__#とは意味が全く違うわね」
いつになく感傷的王妃は、自傷気味な笑みを浮かべながら国王を迎える準備をした。
国王が第二王子を身籠る前に、数える程しか通っていないこの部屋を、再び訪れなければならない理由はただ一つ。
『王太子廃嫡阻止』
ただそれだけなのだろう。
どこまで、私を傷つければ気が済むのかしら。いつまでも甘い事を。こんな事になれば命を守るためには、王位継承権を放棄させ、一代限りの公爵位を与えることしかできない事も分かっておいでのはずなのに…
そんなにあの従妹ジュリアを愛しているのだろうか?
王妃の心には嫉妬という気持ちはない。そもそも彼女は隣国との良好な関係の為に、国王に嫁したのだから。先王の時に果たせなかった約束を守る為の婚姻。
隣国からの同盟の条件は、王女を王妃に据え、そして王女と国王の子供を即位させる事だった。
しかし、諸事情から当時は叶えられなかった条件を次代で叶えるという約束なのだから。
例えそこに男女の愛がなくても当たり前、夫婦としての信頼と義務だけの良好な関係があればいいのだが、国王は義務以外の物を与えてはくれなかった。
必要最低限の扱いしかしなかったのだ。しかし、彼女は公女といっても他国の王女の娘であり、王位継承権を持っていた王弟の娘でもあった。当然、同じ従妹でもジュリアよりも地位が高い。宮人達は建前と本音を上手く使い分けていた。
国王の命でお飾りの王妃ジュリアを立てながら、真の王妃マデリーナに仕えていた。ジュリアの言葉よりマデリーナの言葉の方が千金の価値がある事を知っていた。だから、マデリーナを虐げる者はいなかった。
こうしてマデリーナは側妃時代から氷の様な王宮で平穏に暮らせたのだ。逆にジュリアは死ぬまで、不平不満を持ちながら周りに八つ当たりして生きた。
唯一の頼みの綱は国王の愛だけ、そんな不確かなものに縋るしかなかったジュリアの人生は果たして幸せと言えるのだろうか?
王妃という地位でなければ、夫から愛されて幸せだったのかも知れないが、誰にも真に仕えてもらう事のなかった憐れなお飾りの王妃ジュリア。
人形の様に、公務で国民に笑顔で手を振り続けた彼女。全ての原因は国王の盲目的な愛ゆえ。
もし仮に、彼女が身を引いていればマデリーナとは立場が逆転し、愛し合いながら引き裂かれた【悲劇の公女】として、同情や関心を得られただろう。そして、マデリーナは二人の仲を引き裂いた【悪女】として、中傷や侮蔑の対象になったかも知れないが現実はそうならなかった。
マデリーナは初夜の時に国王に告げられた言葉を思い出す
───そなたを愛することは永遠にできない。私にはジュリアだけだ。催淫剤を使ってでもそなたと閨を共にするが、王子が生まれれば二度と床を共にすることはない。
そんな男を誰が愛するか。馬鹿者が!!
これがマデリーナの本音だった。
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