第17話 王太子と第二王子

 そもそもの始まりは王族の王位継承権から始まっている。先代王の時代、隣国との同盟で一人の年若い王女の輿入れから始まった。


 それは愛らしい王女だったが、この時の王は40過ぎにして子供がいなかった。何度も側妃を持つように臣下から勧められたが断り続けた。王に問題がある訳ではなく、王妃にも特に問題はなかったが、そこに年若い王女を迎えても花の盛りを王宮で虚しく過ごすよりは、愛されて幸せになってもらいたいと。


 齢の離れた王弟殿下に輿入れさせた。それがローレン公爵だった。彼には幼い頃婚約者を流行病で亡くし、それ以降、婚約者を置かなかったことが幸いした。


 二人は仲睦まじい夫婦となり、貴族の模範にもなった。年若い王女は慈善活動にも積極的に参加し、彼女に見習って、孤児院や神殿への寄付は満足に配布される様になり、先王の治世は国民から多くの支持が得られたが、後継問題に頭を悩ませていた。


 しかし、40才半ばでやっと男子を授かり国中を挙げて祝った。それが現国王である。


 だが、現国王時代に大きな問題があった。先王が年老いてからの子供なので、当然彼は若くして王位に付くことになったのだが、結婚する時に揉めたのだ。


 若き国王には愛している従妹姫、キュピレー公爵家のジュリアがいた。王族派・中立派からはローレン公爵家のマデリーナ様を押していた。隣国の王女を持つ公女こそ王妃に相応しいと考えていたのだが、国王はジュリア様を王妃にしてしまった。だが、臣下の殆どが反発した為、マデリーナ様を側妃として迎えたのだ。


 新婚初夜から一月に一度懐妊しやすい時期のみ通って、マデリーナ様が懐妊すると、その後は放置状態した。


 しかし、王妃の政務は実質マデリーナ様が担っていた。臣下の多くはこの事に当然不満を抱いた。


 その上、王妃であるジュリアの方が懐妊が早かった事を踏まえると、彼らは婚前前から肉体関係があった事は明白だった。


 ジュリア様が第一王子を産んで亡くなると、今度は忘れ形見の第一王子を偏愛した。臣下は王子教育をマデリーナ様に任せてはと進言するも


 「継母である王妃に任せては、王子の情操教育に差し障る」


 とまるで、マデリーナ様が継子苛めでもするように言い、等々キュピレー家から送り込まれた乳母に一任してしまう。


 その結果、二人の兄弟には大きな隔たりができる原因となった。


 第一王子は学問は優秀だが、自分と相反する者の意見を聞く耳を持たない青年となり。


 対し、第二王子は父王の愛情はないが、母親と幼馴染のローランドと過ごしながら、人と意見が対立しても必ず相手の意見を自身で検討し、自分だけの判断では物事を推し進める事を良しとしなかった。


 そして王妃マデリーナも同様で、側妃時代から人の意見に耳を傾けていた。『貴族法』の草案もマデリーナ様が考案したものだった。


 王太子を決める際、順当にいけば第一王子が立太子するのが望ましいが、そういう事情から臣下から懸念の声が多く挙がった。


───第一王子が玉座に付けば、独裁者になるのではないか


 臣下の懸念を消す為に、国王はギャロット公爵家の嫡男ローランドを第一王子の側近に取り立てることで、『王族派』の反感を逸らそうとしたが、徒労に終わった。第一王子は五月蠅く諫言するローランドを大部屋の執務官に配属した。


 そして、アレクセイの結婚式で事情を聴き、正しい判断を導くはずの王太子が率先して、目の前にある状況だけで判断し、アレクセイの冤罪に加担してしまう形になったのだ。


 国王は後悔した。あの時、忠臣の諫言を聞かず、王太子を甘やかしてしまった事を。


 今更後悔しても過ぎた過去をなかったものには出来ない。できる事は廃嫡せずに済む方法を考えるしかないのだ。


 

  公務以外で顔を会わすのはいつ振りだろう。



 妻に迎えて幾年、新婚初夜から数回しか訪れたことのない王妃マデリーナの元へ、重い足取りで向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る