第25話

俺は目を覚ますと第三保健室にいた


目から涙が落ちる

いやな、夢を見た


脳に負荷かけすぎたか?


体が思うように動かない

神経の方に問題があるなこれ


脳はここに持ってきてるらしいからな

脳に異常はないことは何年も何回も使ってるから当たり前か


俺は大量の剥かれたリンゴと隣で寝落ちしてしまっているシズカを見る


「どんだけ剥いたんだよ」


俺は、シズカの目にかかる前髪をそっとずらして顔をよく見る


「はぁ」


頭を抱えて溜息を吐いてしまう


前のシズカが好きなはずなのに、どうしても今のシズカを前のシズカと重ねている


「ふぅ。調べなきゃいけないこといっぱいできたな」


魔術のせいでタイムリープの利点が活かせない事が判明できた


前回、弱者として隅で生きていた者たちは魔術を駆使してのし上がってくる


ってか、あのオーディンとかいうポンコツ人工知能め

こんな中でどうやって世界を救えってんだよ


「平穏に生きる。・・・難しいな」




俺は早退扱いとなり家に帰った


「流石にセツナは帰ってないか」

「初等部は、もうすぐ帰ってくるはずですよ」


独り言にシズカは返してくる


「結局あいつらは何だったんだ?」

「・・・義賊。校長はそうおっしゃっていました」


義賊・・・

ん?


「義賊は一人じゃないのか?」

「その情報間違っていますよ。義賊は、五人で構成されています。あいつらは『九尾の尾』を名乗っていて貴族の館などに侵入して・・・」

「ちょっと待て。九尾?五人しかいないのに?」

「はい」


えぇ、ガバガバすぎるだろう

それとケンタロウのガバガバ推理も健在だな


となると


俺はメモを取り出し、シズカに渡す


「これがあいつらの使っていた魔道具の詳細だ。これは知られているか?」

「・・・いえ」

「そうか。じゃあ、校長まで持っていってくれるか?」


デブと大男の魔道具の能力はわからなかったが

まぁ、結構な収穫だろう


「あの、お見事と申し上げたいのですが。なぜ、帰ってからそれを?」


忘れていたからだ

とは、口が裂けても言えない


「まぁ、色々あるからな。必ず校長に渡してくれ。出来れば情報も引き出してきてくれ」

「・・・はい」


ジト目のシズカ

これはバレてるな


俺の部屋を退出するシズカを見送り、シズカは転移門へと消え去った


ちなみに転移門は行きしか使えないらしい

帰りはいつも歩きだからな


「俺は俺で、調べるか」


やっぱり、スラムだよな

情報収集は現場での方が早い


いつも通りには家に帰えるか

俺は、使い古した袋と財布を持ってスラムに向かった




スラムで買ったボロ雑巾のような服を纏い、泥を塗りたくり雑に落として身体に身を汚す


そこで、財布は厳重にポッケの中で握りしめる


「あ、あの兄貴。義賊についてお調べで?」

「ああ」


この前のスラム民Aが俺の横に並ぶ


「顔とかわかるか?」

「いえ、わからないっす。狐面をつけて金を置いてきます。昔に一度、その金を独占しようと襲った事がありますが軽くいなされて金を貰いました」


器が大きいな

俺ならそいつに一銭も渡さん

ってか、渡さなかった


「その五人組は・・・」

「?いえ、義賊は一人では?」


情報の齟齬ぉ


「どうしてそう思う?」

「いつも、小さい女の子だけが来るので義賊はそいつだけだと」


なるほど、あの小さい奴か


「なるほどな」

「ねぇ、お兄さん」

「そうそう、このくらいの大きさの子っす」


そこには、赤い髪を一つに結んだ碧い眼をした女の子がいた


俺は気がついたら両腕を広げていた

抱きつきそうになったがシズカの件を思い出して急ブレーキする


「カリナ・・・」


昔の仲間


「お兄さん、私のこと知ってるの?」

「ああ。・・・A帰っていいぞ」

「へ、へい」


Aは退散していく

それを見ながら少し屈み、目線を合わせる

本当に同い年とは思えない


「ちょっと縮んだ?」

「成長期だわ。喧嘩売ってんのか?」


いきなり、口調が悪くなった

こっちの方がらしいっちゃらしいが

初対面でする態度ではない


「お兄さん。あの強面の人に兄貴って言われるぐらいは強いんだよね?」

「んー。まぁな」

「へー。意外」


まぁ、鏡見た時の衝撃はもう忘れられないけど


「おっ、すごい腹筋」


パラリと俺の服を見て言う


「でも、喧嘩を知らなそうな筋肉だけど」

「まぁ、そりゃあな。」


この体じゃ一回しかした事ないし


「そこら辺のゴロツキと比べられてもな」

「でも、お兄さん強いんでしょ」

「そうだが」


俺はこんなやり取りをしながら、どうカリナを説得して引き込むか考えている


「あー。美味しいものあげるから着いてきな」

「お兄さん。誘拐?軽蔑するよ?」


ちっ


「そんなことするわけないじゃないか」

「そんな度胸なさそうだもんね」


言っとくけど、ちょっとあったからな

ニッコリと笑って無害を見る目で俺を見てくる


「お金。お金でどうだ?」

「お金くれるの?売れるもの何もないけど。はっ、まさか貞操?!変態」


カリナは自分自身の身体を抱えて、軽蔑の目を向ける


「違ぇわ」

「ハハハ、知ってる。お兄さんと話すの初めてじゃないみたい。すっごく、楽しく話せる」


初めてじゃないしな

カリナはケラケラと笑う


「あっ」


どこからともなく電話の鳴る音が鳴り響き、カリナはポチと空中を押した


すると、薄い板が現れてなにやら捜査しているようだった


なにこれ。

これも魔道具か?


「お母さんに呼ばれたから行くね」

「あっ、ああ」

「あっそうだ。お兄さん、アドレス教えてよ」


アドレス?

あの幻の携帯板を使った連絡手段?


俺が持っているとでも?


「アドレスないの?」

「あ、ああ」

「しっかたないなー。とりあえず、はいこれ私のアドレスだから」


謎の文字の羅列が書かれた紙をもらった


「あ、ありがとう?」

「携帯買ったら、連絡ちょうだいね」

「お、おう」


カリナは、目にも止まらぬ速さで走り去る


「あいつもうこんな速さだったのかよ。てか、あいつの母親生きてたっけ?」


そんな言葉を風に置いていかれた



俺はセツナが帰ってくる前に風呂に入り、部屋に戻る


「あっ。リョウの件忘れてた。九尾の尾の情報収集も・・・まぁいいか」


俺はゴロンと布団に寝っ転がる


カリナ・・・

あいつにお兄さんって言われるの滅茶苦茶気持ち悪かったな


コンコンッとドアのノックする音を聞いて姿勢を正して「入れ」と命じる


そこにいたのは案の定、シズカだった


「どうだった?」

「色々聞けました。・・・若はスラムの方に行っていたのですか?」

「え?泥の匂い落ちてない?」

「いえ。鼻が少し効くだけなので。気にしなくても大丈夫かと」


気になっている人に臭いと言われました


俺は自分の体の匂いを嗅ぐが全く匂いがしない

それどころかシャンプーの匂いがしてくる


「ただいまー」


セツナが帰ってきたようだ


「兄さん。スラム行った?」


どうやら、俺は臭いらしい

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