第41話



「お母さん大っ嫌い」

「待ちなさい。シズカ!」


私はそう言って、家から出た

理由は将来を勝手に決められたから


私はホロ家という御三家に使えることになるらしい


家の外を出て、庭へと飛び出した

馬鹿みたいに広い庭を逃げるように走っていた


そして、私の運命はそこで変わった


星空のカーテンがかかる綺麗な夜の中に彼はいた


「やぁ、君も家出?」


黒い髪に薄く光る紅の瞳

薄暗く顔はよく見えなかったが、私と同じぐらいの歳の子が庭で寝っ転がっていた


「ってことは貴方も?」

「そうだよ」


私は最初、同業者かと思った


「マサトだ。少し星を見ないか?」

「え?うん。いいよ」


私は、その少年の隣に寝っ転がるとそこには星空が広がっていた


「何があったのか聞いてもいいかな?」

「え?会ったばかりなのに?」

「いいじゃないか。今夜だけの秘密話。響きが魅力的だろ?」


恋愛漫画を熟読していた私にとってとても魅力的な言葉だった


その巧みな言葉選びに誰にも、もう相談することがないことだと思っていたことを私は話してしまった


「私はね、お花屋さんになりたかったの。だけど、お母さんにダメだって言われて、家出してきた」

「じゃあ、殆ど俺と一緒だ」


彼は、何かの紙を空に掲げていた


「俺は、ピエロになりたい」

「ピエロって、あのサーカスとかの?変なのー」


私は今でもこの軽率な発言を後悔している


「俺は嘘が大好きなんだよ」

「お母さんが嘘は駄目だ。悪いことだって言ってたよ?」

「いいお母さんだね。それは正しい。でも、俺は憧れずにいられなかったんだ。」


そう言いながら持っていた一枚の紙を私に差し出す


「天動説って知ってる?宇宙は地球中心に回ってるって話」

「でも、動いてるのは地球だよ?」

「そうだよ。惑星の軌道は太陽を中心に円を描くんだ。だけど、その図を見てご覧?」


視線をそこに落とすと蛍光ペンで花のような線図が描かれていた


「綺麗」

「これが天動説の星の軌道だ。ただの円よりもずっと綺麗だろ?地動説が理にかなっていると知っていながらも、プライドを投げ出さないで天動説に固執した理由がよくわかる」


彼は眼を光らせて私を見る


「知ってるか?ピエロってのはみんなの為に嘘をつく。どれだけ、自分が馬鹿にされようともピエロはステージを盛り上げる為にそれを笑って受け入れる」


この時、私は私を見ているようで見ていない憧れを持ったその眼を見て

この子は本気なのだと悟った


「最初は俺も大笑いしたさ。だけどね、俺が見たパレードでそのピエロはミスをする場面でミスをして『成功』させてしまったんだ。誰もが息を飲んだよ。その綺麗なミスの仕方に。そして、俺も美しいと思った。この人がパレードの中心、嘘をつき。他人を喜ばせ彼の浮かべている本気の笑いが伝染する。心が震えた」


彼は私の肩をポンと叩いて、夜のカーテンの下で何かに恋焦がれるような表情で呟くように言った


「なんて、嘘は美しいんだろう」


その熱に私の心は奪われていた


花は好きだ。だが、人生を賭けてまで好きというわけではない


私は憧れた。

人生を捧げることを悦びと思う何かを持つこの方を


しかし、それはただの憧れではなくなり

自分もその何かを持つことになることは一瞬だった


構ってもらいがための花屋になりたいという嘘を捨てて、本当の夢を持つ


この人を支えたい


後日、彼がホロ家の次期当主であり

マサトという名の男の子だと知った


私はは今まで以上に努力した

戦闘や勉強の訓練を5倍にして頑張った


あの人の後ろについていけるように


頑張りを認められてあの方から造花がつくカチューシャを貰った


まだあの方は夢を諦めていない


身のこなしやあの方の隣でも恥ずかしくないと思える位の美貌も手に入れた


あとは実力だけだ


私はそれに鼓舞され、死ぬ気で訓練の量を今までの10倍にした


およそ50倍


血反吐を吐いたり、心臓や内臓の機能が止まることもあった


それでも、私は止まらず努力した


しかし、そこにいたのはどこかつまらなそうな若だった


守るものができてしまい、どこか動きにくそうな若だった


落胆はしたものの、側近につけた悦びがそれを上回る


しかし、最近の若はよく笑うようになった

楽しそうに見えた


何かを隠しているように見えた


全てを諦めたように見える姿に私は心底落胆した


しかし、また私は後悔することになった


私は自分ばかりで若の内面を考えていなかった

見えていなかった


若を救えなかった

己の未熟さに


側近に選ばれて、どこか慢心していた私がいた


何かを隠しているのは自分が未熟な所為だ


そして、突如そこに新しい女の子が現れる


ああ、私はもう・・・この方の側にはいられないのですね


私は必死な想いで涙を飲んだ

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