第7話

 俺の目が覚めると、周りを見渡すと他の生徒は隣に座るシズカ以外誰もいない


「お目覚めですか?」


 シズカは腰を曲げて俺が目覚めたのを確認して俺の顔を覗き込む


 寝起きの上精神的にも疲労していたから爆睡してしまったようだ


「あぁ、寝ちまってたみたいだな」

「はい。ぐっすりと」

「起こしてもよかったんだぜ?」

「幸せそうな顔をしていらしていたので憚れました」


 いらない気遣いありがとう


 入学式初日から爆睡する猛者は俺ぐらいだろうな


 そう思っていたら、前からコツコツと歩いてくる音がする


 俺は恐る恐る顔をあげるとそこには校長がいた

ひぃぃと叫びそうな声を押される


「入学式は終わったよ。で、なんでお前は寝ていたんだ?」

「抗えない睡魔で?」

「おら!!」


 校長から勢いのよいパンチが繰り出される


 俺は、その拳を目で追いながら頭の力を抜いてバレないように受け流す


「痛いーーー!!」


 別に痛くはないが演技でこの場を乗り過ごそうと俺は床に転げ回る


 それを見て校長は違和感を覚えたのか手をグーパーしている

 受け流したのがバレたか?


 そんなことを思っていたら、小太りのおじさんが走ってくる


「あぁ、校長だめですよ。この子は御三家の・・・」

「御三家だから、入学式で爆睡していいのか?」

「いえ、そうではありませんが」

「ならよいではないか?」

「問題になるってことですよ」

「だからなんだ!!」

「あぁ、もう!!」


 俺は、校長とおじさんが話してる間に気配を消し隣にいたシズカの手を取り逃げた




「後で怒られても知りませんよ」

「いいんだよ。それにしても、あんな思いっきり体罰受けたの久しぶりだよ」


 校長は、昔から知っている

親友の姉だ


 だから、昔から知っている


 お家付き合いの交流しかなかったが

親友と一緒に殴られたりもしていたことがあるくらい親しい仲だった


 ちなみにその親友も御三家の一人だ

つまり、自動的にその姉も御三家の一人ということになる


 だから、立場的にも対等ではあるため殴られても然程問題にはならない


 というより、ウチはそんなことでは動かない

それを承知で殴ってきたのだ

 タチが悪い


「それに、今は調べたいものがあるからな」


 タイムリープ者とはいえ、全てを覚えているわけではないしな


 それに、前には存在していなかった転移門という綻びが生じている

 これについてもよく調べておきたい


「調べてきましょうか?それも仕事のうちなので」


 シズカにそう提案されて、少し悩む

 普通なら喜んで調べてきてもらうのだが、シズカに未来視に近いというか、未来視そのものの行動を不審がられる可能性がある


 それにそれで未来に綻びが生じたらと考えるとゾッとする


 しかし、自分で調べるとしてもシズカがついてくるんだよなぁ


 あぁ、じゃあこうしよう


「お願いしてもいいか?」

「はい」

「じゃあ、俺らの時間割とその内容一年分を調べてきてくれ」


 聞いても不思議ではない程度のものとどうでもいいことをシズカに調べてもらって


 シズカがそれを調べている間に俺は本命を調べる


「わかりました」


 シズカはそういい、廊下の奥へと消えていった


「じゃ、こっちはこっちで調べますか」


 分断に成功した俺は、情報収集へと移った


 全学年の名簿がまずはほしいな。

 一応、あの創造主とやらが言っていた綻びがなんのことかわからない以上、可能性は潰していきたい


 前回はこんなやついなかったとか

前回いたやつがいないとか


 一学年ならクラス分けの表でわかるんだけど、他の学年はどうやって手に入れるか


 生徒の名前一人一人なんて覚えてはいないし

覚えてるやつの方が少ない


 運が良ければ綻びとやらが見つかるかもしれない


 目的は可能性潰しだから、まぁいいか

そう割り切りしかない


 綻びが、ラッキーなものとは限らない

 むしろ忠告してくるくらいだからデメリットの方が可能性的に多いと思われる


 先に知っていれば対策のしようも出てくるというものだ


 タイムリープするってわかってたら、もっといろんなこと調べたり、覚えたりして対策したのになぁ


 俺が腕を組み悩んでいると背中を叩かれる

 振り向くと何度も見た親友の顔があった


「よっ!」

「ケンタロウか。」


 噂をすればなんとやら

ちょっと遅かったけど


「マサ、お前、入学式の時爆睡してただろ」


 バレてら

もしかしたら、新入生全員にバレてるのではないか?


「まぁ退屈だったんでな」

「ああ、本当に退屈だった。で、マサは今何してんだ?入学式、終わったから帰っていいんだぞ?」


 だから、あんなに人がいなかったのか

シズカのやつ、教えてくれてもいいじゃねぇか


「学校散策でもしようと思ってな」

「奇遇。俺もしようと思ってたんだけど従者に止められてなぁ」

「シノブだったか?」

「そうそう。あいつ本当にすげぇんだぜ。切れ物だし、足速いし、クナイの扱い方じゃ誰にも負けねぇ」


 あぁ、まずい地雷を踏んでしまった

従者自慢が始まる

 そいつの強さは身をもって厄介さは体験したことあるよ


 何回死にかけたか


「それに滅茶苦茶可愛いんだぜ」


ケンタロウがそういうと、通気口からガタンと何かがぶつかる音がして、ケンタロウはそれに苦笑する


「な?可愛いだろ?」

「ノーコメントで。」


 おっちょこちょいだったなんだな、あいつ

見た事なかったからか、当時の俺はなんか物音する程度にしか思ってなかったんだろう


「そういえば、シズカは?」

「頼み事してある」

「そっかー。久しぶりに会いたかったなぁー」


 ケンタロウが、頭の後ろで手を組み苦笑する

かれこれ、今の状態だと2年くらいは会っていなかったはずだ

 各家色々大変な時期だったから、お家交流はなかった


「悪かったな。俺で」

「何言ってんだお前にも会えて嬉しいぜ。親友」


 ケンタロウが俺の肩を組んでくる

白々しい

 お前がシズカのこと狙ってることぐらいバレバレなんだよ


 絶対渡さないからな


「気持ち悪いから離せ」

「ひっでー。じゃ、俺らはそろそろ行くわ」

「おう」


そう言ってケンタロウも廊下の奥へと消えていった


 ケンタロウはハードボイルド風の刑事的な事をやっていた


 こんなチャラチャラしていなかったはずだ


 あいつもあいつであの時代で結構変わっちまっていたんだな感じながら、ケンタロウが去った廊下の方を見ていると


 タイミングを見計らってたようにシズカが、後ろのドアから現れる


 ちなみにシズカはケンタロウが苦手らしい


「貰ってきました」

「早いな」


 ケンタロウのせいで時間稼ぎ失敗したじゃねぇか


「こちらです」


 シズカがおれに科目と必修内容が書かれた紙を俺に渡す


座学 剣術 拳術 銃術 戦術 騎術 兵法 魔術


 ん?魔術?


「魔術・・・」

「魔術に興味が?」

「あぁ」


 魔術なんて前回はなかった


「魔術って何だ?」

「?魔術は、体内の魔力を炎やら水やらに変化させて攻撃する物ですよ。」


 本では見たことあるけど、本来は人間には存在しないものだ

 タイムリープする前には、そんな物なかった


 それに、何もないところから何かを生み出すことなんてできるのか?

 いや、それができる奴がタイムリープ前の世界にはいた


 魔獣という存在


 俺やシズカは仲間達とそいつらを狩る仕事をしていた


 ウイルスも持ち、生物が感染すればその当事者も化け物に姿が変化してやがて理性をなくし、死ぬまで暴れ人を殺し続ける


 タイムリープ前では、魔獣の数が増えすぎて人類は滅亡の危機に陥っていた


 しかし、魔術は存在はしていても人間に扱えるものなどではなかったはずだ


 ここはもしかして、似ているだけの別世界?


 いや、それだったらオーディンはタイムリープなどという言葉は使わない


 これは、ほかのタイムリーパーが選んだ特典?

 もしくは、そいつのせいで人々がもうすでに感染し終わっていて、擬似魔獣となり魔法が扱えている?


 後者の場合は、手遅れだ


 手がかりが全くない

これ以上、何か考えても無駄か


 俺は溜息をつき、帰ろうと門まで向かう


 するとそこには校長が仁王立ちで立っていた


「私から逃げ出すなんていい度胸だな。マサト」


 早く、転移門とやらに逃げなければ

・・・・いや転移門何処だよ


「な、何でここに?」

「ケンタロウに、まだ学校にいると聞いてな」


 あの野郎

売りやがった

 親友ってなんだよ。裏切り合う相手の総称か?


「シズカ、裏門から帰るぞ」

「・・・はぁ、了解です」


 俺は全力でダッシュした

 体が重い

足を引っ張る力が足りない、押し出す力が足りない

重心がブレブレ

そう言った要因が重なり思うようにうまく走れない


 体鍛えなきゃな

そう思いながら、足で躓き転倒してしまう


そして


「手間が省けた」


 校長は、俺に馬乗りになって俺の逃げ場を無くす


 シズカヘルプ

そう思うがもうすでにシズカの姿はない


 あいつは従者としてのかなり厳しい訓練をこなしている

 身体能力はもうこの時期から化け物じみていた


 おそらく、逃げ切ったのだろう


 俺は今の状態をなんとかしようとすることに思考をシフトする


「校長、知ってるか?獣って上下関係を主張するために馬乗りになるんだと」

「なるほど、貴様は私が獣だと言いたいんだな」

「はい」


 俺がそう答えると校長の額にわかりやすく怒りマークが作られ、俺の首を絞める力が強まる


 苦しいが少し首をずらして骨を掴ませることで、一時的な処理をする


 この人流石に、首の骨は折らないよね?

俺はそれにかける


「それに、嫁入り前の女が馬乗りって、結婚できなくなる「ボコンッ」・・・ぞ」


 俺の頭の数センチ右に穴が空いていて、そこには校長の拳があった


問:人はコンクリートの地面に穴を開けられますか?

答:普通は無理です


 校長の身体能力が思っていたものの倍以上あるんだが

 もしかして、首の骨つかましたのは


 命の危機が


「このクソガキィーー」


 校長の腰が怒りで少し浮く

いつもの、癖だ

 俺はそれを見逃さずに、校長を勢いで退かせ立つ


「危ねぇ」


 そして、再び逃げる

今度は転ばないようにブレブレの重心に体を合わせながら走る


「待て・・・待てーーっ」


 龍の咆哮のようにも聞こえるその声が遠のいていく


 怒ると何も考えなくなるくせは変わって・・・

すみません。それは反則だと思います


 校長は、手で炎を作りそれを投げてくる

足元が炎上し始めて、足の骨が軽く火傷する感覚を覚える


 あれが魔術か

くそ、反則だろ


 俺はそれでも死に物狂いで逃げた




「はぁはぁ、どこだここ。」


 死に物狂いで走ってきたため、現在の場所がわからない。

 死臭が漂い、酒、吐瀉物や血の匂い


 道端で人が浮いていて、常にホコリや砂が舞っている

 この薄汚い場所から察するにスラム街だろう


「おい」


 運命ってか?

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