第8話
「坊っちゃま!!」
坊っちゃまと呼ばれたマサトは、その大きな声が聞こえた瞬間、遮蔽物に飛び込もうとする
するとマサトの先程までいた場所に爆発が起こる
マサトは爆風で左脚を強打し、痛みと爆風の影響でつけていた口と鼻だけを覆えるようになっている簡易ガスマスクがズレた
「はぁはぁ、くそっ」
マサトは、爆発熱と爆風をを感じながらズレたガスマスクを付け直す前に、遮蔽物に寄り掛かりながら回復薬を口の中に放り込む
ズレたガスマスクを付け直し、左脚の折れた部分を強くズレないように握りしめた
すると、マサトの左脚から微弱な光が出てきて痛みがなくなる
マサトは左脚を離し、動かして治癒ができているか確認し、痛みはまだ残っているが治ったことにマサトは安堵する
しかし、数体が走る音が聞こえ表情を変える
治癒にかかった時間を全て無駄にするほど敵は間抜けではないようだった
治癒にかかった時間は、相手が距離を詰める時間を与えてしまったのだ
マサトは近くの遮蔽物へと走るが、それに気づいた敵が発砲する
マサトは銃弾が当たらないように不規則な加速を繰り返しながら走しり
銃弾がマサトとすれ違う
マサトは別の遮蔽物に身を隠し、まだ運に見放されてないことを一瞬安堵し、敵が濃い霧の中で視認できないことに焦りを覚え、ガスマスクを2度叩く
ガスマスクの通信機能を使い仲間と連絡を取った
「敵を視認できたか?」
『はい。敵はライフルレトリバー6体とトイボムドルが1体です。』
先程慌てて坊ちゃんと叫んでいたとは思えないほどやる気のなさそうな声が返ってくる
その仲間の女の声で焦っていた心が落ち着かせられた
深呼吸してから、思考に入る
ライフルレトリバーは、ゴールデンレトリバーの背中からライフルが生えているだけの化け物だが、破壊力がない。
機動力が高いところ以外は問題はない。
あとのもう一体の種族は
トイボムドル。口から爆弾を吐き出し投げてくる。体が小さく弾丸が当たりづらい上に体の体積から考えられない量の爆弾を吐き出すので
トイボムドルが小さいからと油断したハンター初心者が何人も殺している種族
こっちを優先させるべきとマサトは0.01秒で判断して伝える
「トイボムドル。行けるか?」
『余裕です』
先程、男を坊ちゃんと呼んだメイド服を着る女シズカが腰を上げビルから顔を出して、元東京とは思えないほどの更地を見下ろす
瓦礫の山、血生臭い匂い、舞うウイルス、それらを無表情で眺める。
逃げ惑うマサトを見つけ、マサトの危機を思い出し、スナイパーライフルを構え、敵の方向へと銃口を向ける
しかし、一見霧のようにも見える空気中のウイルスにより敵が見えなくなっており、シズカは外してしまう可能性が出てきたことに顔を顰める
「面倒臭くなりましたね。あんな大見え切ったのに、当てられるか・・・」
と愚痴をこぼしてから、ウイルスはビルまで来ていないため、通信のためだけにつけていた簡易ガスマスクを外す
すると、シズカの少し青白い肌があらわになる。
シズカは目を瞑り深呼吸をする
そして、虚ろだが綺麗で奥が見えない黒い眼をゆっくりと開けてスコープ覗く
微かな霧が揺れ動きを女は静かに観察する
霧の隙間から微かに見えた小さい体のトイボムドルを視認と同時に発砲する
弾丸が霧を切り裂き、トイボムドルを視認したところから赤い煙が出る
命中したことを悟り、座り込む
「ふぅ」
シズカは、タバコに火をつけて咥えようとする
すると、ガスマスクに通信が入ってきたことに気がつく
『ナイス』
「もう少し褒めてくれてもいいですよ」
『後でな』
シズカは、マサトの声を聞き愛おしそうな顔をしてからのっそりと立ち上がりスコープを再び覗く
「もう少し頑張りますか」
マサトはシズカがトイボムドルを狙撃したことを発砲音のみで確認する
シズカが、外していたらなどは考えずに前線を上げる
すると、霧の中見えなかった敵が近くに存在して
やっと敵の姿を視認する
トイボムドルが殺されたことにライフルレトリバーは怒ったのか、目の前のマサトに目もくれず
霧をかき分けながらビルへと走る
そこで、シズカが命中させたことを確信する
マサトは通信機能を使い、シズカに労いの言葉を渡す
そして、通信機能を切り
マサトは深呼吸をし、頬を叩く
「やっと、俺の番だ」
マサトは、持っている地面に刺すことが前提で作られた反動の強いマシンガンを手に取り、走る
マサトはマシンガンを起動させる
すると、マシンガンの銃口を回す音がして辺りに響き渡る
鎖でも使っているような音を聞きライフルレトリバーの足音を止める
「蜂の巣の時間だ」
そして、ライフルレトリバーがいる方向へと乱射する
それで、辺りの霧を吹き飛ばす
霧を吹き飛ばしたことで勝負はついた
はっきり敵を確認できた2人は、ライフルレトリバーに発砲
マサトは、右手でマシンガンを支え、左で拳銃を発砲する
そして、逃げる魔獣をシズカがスナイプしていく
見事な連携で全ての魔獣を蹴散らした
2人は、残党がいないかあたりを見渡しひと段落ついたことを確認し、ビルへと戻る
そして、マサトは階段を登りながらガスマスクを外す
すると、タバコを咥えたシズカが楽に座って待っていた
タバコの煙が少し青白い肌と虚な目をかっこいいものに変換している
誰が見てもかっこいい美人と思えるほど顔が整っていていつも一緒にいるのに見惚れてしまう。
細い腕は手袋で覆われていて、すらりとした足はタイツで覆われる。清楚イケメンという言葉はシズカのためにあると言われても納得してしまいそうである
それに何がとは言わないがとても大きい。
マサトの視線に気づいたのかシズカが黒髪のショートヘアを揺らすくらいのお辞儀をしてくる
「タバコ・・・勤務中だろ。」
「勤務中・・・給料もらえるなら止めますが」
「・・・・」
マサトは、それを言われると黙ってしまう
家出してきた身のため給料を払えていない
今、シズカはマサトへの忠誠心のみでついてきてくれている
シズカがこんな不健康な見た目になってしまったのはある種、マサトのせいでもある
シズカは職を捨て、マサトについてきている、頭が上がらない
「でも、タバコは体に悪いからやめたほうがいいと思うぞ?」
「そんなことより、救護した方々のところにいきましょう。」
マサトたちが戦うことになった原因は、人助けだった。いや、どちらかというと押し付けられた
魔獣と距離を取るためこのビルに入ったシズカについていったため、このビルのどこかにいるはず
「こっちですね」
シズカは、耳を澄まし何かが動く音を確認し、扉を開ける
男1人、女2人。
マサトは、このハーレム野郎が俺らに魔獣押し付けたのかとブチギレそうになりなる感情を抑えながら、話しかける
「大変だったな。あんな霧の中、俺らを見つけるや否や魔獣を押し付けるなんて」
「別に助けてくれなんて言ってない」
「お、おい。止めとけ」
男の取り巻きの一号の茶髪の女が魔獣をなすりつけたことを棚に上げて暴れそうになっていたのを男は慌てて静止させる
しかし、その女は静止せずにマサトに指を刺し聞いてくる
「あんた、何歳?」
「え?俺か?21歳だ」
「私達は、16歳。年上が年下を守ることは当然なんじゃない?」
「おい、やめろって」
マサトの額に怒りのマークがどんどんつき始めるが、シズカの涼しげな顔を見て心を落ち着かせる
男とハーレム要員一号二号は不満そうな顔をしていたが、男が率先して頭を下げる
「まずは、助けてくれたことに感謝します」
男はマサトに頭を下げる
「良ければ、一緒に組んで街に戻りませんか?」
マサトはイライラの限界を超えそうになった
まず、取り巻き達の態度の悪さ
次に、一緒に組むという言葉をつけていた無報酬の護衛依頼
最後に、女の子に囲まれて羨ましい
マサトが思わず手をあげそうになるとシズカがマサトの肩の上にポンと手を乗せる
「坊っちゃま、ここは私に」
さすがメイド、頼りになると思ったマサトはすぐに後悔した
「とりあえず、護衛料と慰謝料を出しなさい」
シズカは男を足で押し倒しライフルを構える
「なっ」
「リョウを離しなさい!!」
二号が銃を構えると同時にマサトが反射的にその銃を拳銃で撃ち壊す
「っっ!!」
手に振動が渡ったのか、二号は痛がっている
シズカは近接戦は向いていない
そのため、シズカがいるときに近くで敵意を察知したら撃ってしまうように体が覚えてしまっていた。
撃つつもりはなかったがやってしまった
一応交渉の場であるため、不利にはならないように祈る
「まずは、・・・」
「低能装備の分際で、調子に乗ってるんじゃないわよ!!」
二号がシズカが言いかけたことを遮り、叫ぶ
慰謝料払えとでも言われるのかとビクビクしていたマサトは安堵した
そして、シズカの方を見て身震いをしてしまう
この世には、怒ると暴れるタイプと何もしないタイプがいる
シズカは圧倒的後者だったが
余程に腹が立ったのか普段の冷静な表情なのにそこから怒りを強く感じ取れた
「今の人数差じゃ負けるに決まってるのにそんな態度とっていいと思っているわけ?その上そんな低級装備で私たちに勝てるはずが・・・」
取り巻き達は銃を撃ち飛ばされたはずなのに未だ偉そうにしている上、たった一人しかない人数差を主張してくる
俺はこの取り巻きのアホさ加減に自分がおかしいのではないかと考えていると、シズカがライフルの安全装置を外す
「黙りなさい。この人がどうなってもいいのですか?」
というと取り巻きは黙り込む
マサトは、世間を学ばせるにはちょうどいいかとやり過ぎな行為を黙認し、仲間が馬鹿みたいに騒いでいるのに異様に静かな二号の方を見る
「ん?」
一号が異様に静かなので不意打ちでも狙っているのかと少し警戒していたが
一号は小刻みに震えていることに気がつく
マサトは口を重くゆっくりと開く
「あー。金は町でもらう。とりあえず、そのニ号は置いて出てけ」
「ニ号って、ユナをか?!」
男が叫ぶと、シズカが足に力を込める
「黙って従いなさい。じゃなきゃ、皆殺しにするぞ」
男は、少し黙り拳を握りしめる。そして、銃を取り出そうと手を動かすがニ号が首を横に振っているのを見て
一言「わかった」とつぶやいた
「あっ」
男と一号がニ号を残して部屋から出る
「謝罪の一言もないか。」
「無礼な方達でしたね」
マサトはジト目でシズカを眺める
「どうしました?」
「はぁ」
マサトは本気でわかっていない静かにため息を深くつき、しゃがんでニ号の目線を合わせる
そして、目を閉じて首に手をそっと置き脈を測る
すると、人間のものとは思えない程の速さの鼓動を確認した
「・・・・やっぱりか」
目を開けると
ユナは何を勘違いしたのか涙目になって首を横に大きく振っている
「この子の貞操を奪うのですか?」
シズカは、少しも動揺せずに聞く
マサトはそれに真剣な顔をして無視する
「お前、感染してる。人間の姿を保ててることが不思議なくらいにな」
「えっ」
MC感染症。
動物を魔獣へと姿を無理やり変えるMonster Change 通称MCウイルス
体内にこのウイルスが入った瞬間にDNAを書き換えを無理やりさせられ、DNAを無理やり書き換えられた影響で身体中、穴だらけの醜い魔獣の体に変化する
理性のない化け物と化す
この感染力によって、東京は突如現れた1匹の魔物に滅ぼされた
人口は1/8まで、減った
少量の感染なら、力が強くなるくらいで
それに彼女は重度に感染している
「お前、最期にしたいこととか言いたいことあるか?できれば手短にできるやつ」
「・・・最期にリョウくんに逢いたいです」
流石に、いつ死ぬかわからないハンターをやっているだけあってパニックを起こさない
都合はいいが切なくもあった
マサトは、部屋の扉を開けると体育座りをしているリョウを見つける
「・・・・来い」
「は?」
マサトは、リョウの腕を掴み一号ユナの目の前へ放り投げる
「ゆ、ユナ。大丈夫か?何かされなかったか?」
「うん。」
最期に話したい相手ということもあり、ユナは乙女の顔をしていた。今から死んでしまうとは思えないくらい笑顔で頷く
「あのね、リョウくんに伝えたいことがあるの」
ユナはリョウに抱きつく
「リョウくん、愛してる。大好きだったよ」
ユナの手が変形し始めて、もう手遅れなことがわかる
ユナは。今から死ぬことをリョウに伝えなかった
言いづらかったのだろう
しかし、そんな事実すぐに目の当たりにする
ユナは、涙を流してリョウから腕を離し惚けたリョウを見て微笑み
マサトの方に体を向ける
「俺は、お前のことは何も知らない。」
そう言ったとき、ユナは俺の顔を見上げる
「ただ、これだけは確信している。」
座るユナと高さを合わせるように座る
「お前は大好きな奴に大切にされてる。」
ユナは、涙を大量に流し始める
「よかったな」
「はい!」
マサトは、ユナの胸をナイフで突き刺す
急な告白に惚けていたリョウは、慌ててナイフをユナの胸から抜こうと動くが、シズカに服を掴まれ阻止される
マサトに、手に残る感覚が世界の醜さを伝えるような不快だけが残る
しかし、ユナが人のまま死ねるのは今しかない
マサトは、グッと我慢して少女の顔を見る
痛いはずなのに満足そうに微笑んでいた
「リョウくん・・・愛し・・てる・・・」
そう言って、少女は力尽き
絶命した
「うわぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁ」
リョウがひどい顔をしてマサトに殴りかかる
マサトはリョウを軽くいなそうとするが、リョウはものともしなかった
マサトは顔に一撃喰らってしまう
シズカが冷静な顔でリョウの腕を掴み
空中に放り投げる
「行くぞ。シズカ」
「・・・・・・はい」
倒れるリョウを片目に部屋を出る
ドアが開くと外から一号が部屋の中へと駆け出す
リョウ達はユナを抱きしめ泣いているのを見ながら、ドアを閉めた
「よかったんですか?」
「なにが?」
「本当のこと教えなくて」
シズカがマサトの悲壮感の溢れる顔を眺めながら聞く
マサトは、無理矢理笑顔を作りシズカの方を見た
「ああ、まぁな。仲間がモンスターになりかけてましたなんて。俺は聞きたくないしな」
「お優しいですね」
マサト達は元々6人でパーティを組んで、わりと楽しくやっていた
しかし、‥‥…
シズカがどんな顔をしているのかはマサトにはわからなかった
シズカは顔を上げて言う
「あの子は強くなりますよ。恨まれて殺されちゃう前に坊っちゃんも強くなってくださいね」
淡々と煽るようにマサトに指摘する
「前から思ってたんだけど、2歳差なんだから、坊っちゃんはやめないか?」
「本当に今更ですね。まぁ、話をそらさせてあげます」
後ろにいるシズカが笑っている気がして、マサトは後ろを振り向く
「危ないですよ、ちゃんと前を向いてください」
「あ、あぁ」
マサトはため息を吐きながら、周りにいた魔獣を眺める
「少しぐらい減らしてやるか」
「はい」
マサト達は、銃を取り出し乱射した
怒りをぶつけるように
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