第48話


「ゲート・・・様?ですか」


記憶のないシズカは当然、誰か分からず首を傾げる


「シズカ。セツナを頼んだ」

「ですが」

「頼む」

「・・・・わかりました」


シズカを俯いて帰路に着かせた


その様子を見ながら、カリナは微笑う


「リーダーも罪な男だねぇ。断れないこと分かっていながらさぁ?」

「うるせ。どこにいるんだ?ゲートは」

「察しついてると思うけど、スラムよ」


まぁ、そうだろうな

あの性分と性格からはあまり考えられないが、よく片鱗は見していた


俺らは服を着替えて、スラムに入る


「とりゃ!」

「うわっ」


一人の男の子がカリナに背負い投げされた


「はい。リーダー。財布」

「すげぇな、全然気づかなかったぞ?」

「へへ。勘は鈍ってないみたい」


俺は男の子から財布を奪い返すと


「くそっ」


と悪態をつき男の子は立ち上がると同時に逃げていく


「はぁ、スラムとはいえ、こんなすぐにスリに会うとはな」

「まぁ、スラムだもん。私がいるから子供には優しそうとでも思ったんじゃないの?」

「それだな」


そうやり取りした後、俺らは目的地に何事もなかった様に歩みを再開した


「そういや、なんで居場所が分かったんだ?」

「記憶にあったのよ。昔のね」


カリナが何もなさそうなスラム住居の前に立つ


「ここか。偽装は完璧。なかなか厄介そうだな」

「ま、二人で行く様なところではないわね。だけど、パーティ『笑うピエロ』は最強だし、その1/3が集まってれば怖いものなしよ。」


ドアノブに手をかけるが鍵がかかっていたらしくガチャガチャとしか音を立てない


それを見たカリナは悪戯を思いついた子供の様な顔をして俺の腕を掴んだ


「リーダーが教えてくれた名言使えるよ」


俺もカリナに釣られて同じ様な顔をしてしまう


「開かぬなら、壊してしまおう「スーッ、オラッ」」


俺とカリナは同時に蹴り開ける


「迎えに来たわよ。ゲート」

「あん?」


そこには強面のおっさん達の集団であった


酒盛りをしていたらしく、気分が削がれたのか

強面のおっさん達に俺たちは囲まれる


「なーなー。こいらどうする?こんなことしてくれちゃってさー?」

「犯すか?男の方も結構いいツラしてるしよ」

「ダーツの的にするのもいいんじゃねぇか?」


ゲートは奥にいた

俺はゲートの下へ走ろうとするカリナを持ち上げて、もう片方の手をあげる


「場所を間違えたみたいだ。すまねぇな」

「ちょっ、リーダー?!」


黙ってろとカリナにデコピンする

思った以上に痛かったらしく

カリナが額を抑えていた


その間に話を続ける


「スラムの徒党にはケジメってもんがあるんだよ。舐められたままじゃあ終われねぇ」


ゲートが話しかけてくる

いつもの様な明るいイメージはなかったが、


茶色い肌に包まれる大きな体格、毛のない頭、鍛え抜かれた身体、鋭いがどこか優しさも感じる目つき


その容姿はどうしても変わってない


久しぶりのゲートの姿に目頭が熱くなった

しかし、そんな悠長にはしていられないので無理矢理我慢する


「罰金を払う」

「1000円だ」

「わかった」


俺は財布から一万円を取り出してテーブルに置いた


「これでいいか?」

「ああ。テメェらもう手ぇ出すなよ!」

「「「はい!!」」」


俺はカリナを抱えたまま外に出る


「ちょっとリーダー!?ゲート連れて帰らないの?」

「どうやって連れて帰るんだよ」

「それは、ほら、あいつらぶち殺して誘拐すれば」

「ていっ」


俺は再び、デコピンを喰らわす


「ゲートにも都合があるだろうし、あいつは記憶ないんだぞ?お前が今回、俺と最初にあったときどうしたか思い出せ」

「・・・・じゃあ、どうするの?」

「それはもう考えてある」


俺は石を拾って自分から出る不自然な影に投げつけた


「いてっ!」


影からシノブのような子供が飛び出て来た


「気づかなかった・・・」


カリナが悔しそうにシノブに似た子を見る

正直、この不自然な影がなかったら分からなかった


普通に隠れていないで影に潜んでいたのは会話の内容が聞きたかったからだろう


シズカが今後、俺を視野から外すことはないと思ったし、シノブ辺りに頼みに行ったんだろう


それに加えて俺たちの話す内容も気になったんだろう

シズカは小さい頃から俺に着いて来ているため、自分の知らない人間と俺が親しいなどあり得ないからだ


スリに簡単に気づいた所を見ていて盗聴器は無理だと考えて、魔術でこっそりといった所だろうな


「見つかったっすねー」

「その語尾・・・お前まさかカリナか?!」

「ちょっ、リーダー?!それ忘れるって話じゃなかった?それにこの語尾の人、結構いると思う!!」

「いやー。カリナも兄貴兄貴って言って俺の後ろによく着いて来てたな。語尾もかなり似ている」


カリナは悶え苦しんで地面をジタバタ動き回ってから、シノブに似た人物の頭を鷲掴みにした


「あんたのせいで、軽く黒歴史をほじくられたのよ?何でもありませんとか。私の利益にならなかったらただじゃおかないわよ」

「ひっ」


そんなカリナの頭を鷲掴みにして持ち上げる


「まぁ、その手離せよ。可哀想だろう」

「私は可哀想じゃないわけ?同じことされてるけど」

「まぁ、それは置いておいて、こいつにはやってもらうことがあるんだ。この隠密性を使ってね」

「まさか、この子に中を調べてもらうってこととととととととと。痛い痛い」


タメを取られた


「まぁ、そうだ。いいよな?」

「あっはい。」


そう言って、影となり消えていった



俺らは家に戻り、風呂に入っていた


「ねー。リーダー」

「ん?なんだ?」

「気持ちーねー。」

「そーだな」


俺らは身体を風呂につけ、『壁』越しに話し合う

断じて混浴などではない


「泥は落としたか?」

「もちろん。・・・なんか癒えてくるわー」

「なんか、回復魔法を水にかけてるらしいぞ?」

「へー」


カリナの気持ち良さそうな溜息は数分間に渡り続き、俺はその間に風呂を出た

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