第3話

 俺は、気がつくとベットの上にいた


 何回俺は見知らぬ場所に辿り着けばいいんだ

と悪態をつきたいのを我慢して身体を起こそうとする


 ベットが異様に柔らかく、身体がいつもより重いため体を起こすのに無駄に時間がかかる


「ふぅ、やっと降りれた」


 俺は、立ち上がり偶然そこにあった鏡の前に立つ


 そこには五年前くらいの自分の姿があった


 白が若干混じった黒髪。前と違って死んでいない薄い紅の目。肌は外に出たこともないように白く、筋肉もなくなっている


 箱入りのクソガキに戻っていた


 俺は死んだはずであり、今ここにいること自体が夢かと思い頬を引っ張るが、痛みを感じる


「現実・・・」


 本当にタイムリープしたのか

 そう思って顔を触っていると、袖が引っ張られる


「兄ちゃ・・・。」


 妹のセツナが10歳くらいの頃の姿でそこにいた

 俺は少し涙目になりながらセツナの黒色の頭を撫で、小柄で小さい体を抱きしめる


「もう、あんなことしないからな」

「?・・・ん。」


 ここは、俺らの寝室か


 物は特になく、最低限のものだけが置いてある

高級そうな壁紙に、高級そうなライトスタンド


 まるで高級ホテルのような自室を眺める

懐かしいな


 俺は、セツナを抱き抱えベットに移そうとする


「もう少し寝てろ。」

「や、兄ちゃといっしょにいる」

「はいはい。わかったわかった」


 俺は、無理矢理寝かすとセツナが暴れることを経験上知っていたため、潔く諦めてセツナの手を握る


「疲れたら言えよ?おんぶしてやる」

「ん。」


 俺らは手を繋ぎ、寝室から出る


 すると、復讐にまみれて走り回ってた広い廊下に出る


「ここは、第3塔か?」


 廊下の半面は、窓ガラスでできているため辺りを見渡すと

 中央に一つの塔とそれを囲むように俺らがいる塔を含めて四つの塔が聳え立っている


 空が流れるのをしばらく眺めていると


「若。おはようございます」


 そこには、側近であったシズカがいた。


 漆のように光を反射する黒髪に、雪のように白い肌。全てを吸い込むような黒い眼。桃色の唇に通った鼻


 可愛いというよりカッコいいという言葉が出てきそうなその整った容姿


 メイド服を着ており、俺がかなり昔にあげた刺繍入りのメイド特有のシュシュのようなカチューシャをしている


 外見の全てが俺の知っているシズカだった


 俺は、思わずセツナの手を離して

 シズカを勢いよく抱きしめ押し倒してしまう


 それにいつも感情を出さないシズカは、突然のことすぎて驚いたのか小さく悲鳴を上げた


「若?」


 温かい

 ちゃんと脈を打っていて、固まってなどいない


 ぐるぐるとクレヨンで塗りつぶしたような瞳の形

本人は気にしていたが、俺は好きだった


 もう動くとは思っていなかった


 ちゃんと生きてる

 夢であって欲しくない

俺は涙が溢れそうなのを我慢して、嬉しさで震える


 復讐で燃やし尽くしたと思っていた俺の心が段々と復元されていく


「しようにん。すぐに兄ちゃからはなれることをおすすめする」


 セツナが10歳とは思えない形相でシズカを睨んでいた

 シズカはそれに応じて「わかりました」と言い、俺を押しのけて立ち上がる


「失礼します」


 シズカは、素っ気なくそう言い立ち去る

 俺らはその様子を見守り、姿が見えなくなると


「ん。」


 セツナは、手を差し出す。

俺はその手を再び握った


 全部戻っている

あいつらも生きてるだろう


 俺は高ぶる感情でスキップしそうなのを抑えて歩く


 我が家をゆっくり見るのは久しぶりなので、もう少し散歩しようかと思った途端、セツナの腹が鳴る


「お腹空いたのか?」

「ん。」


 しかし、外は涼しげな雰囲気を漂わせているため日の出から時間があまり経っていないようにも思われた


「食堂にでも行ってなんか探すか」

「ん。」


 俺らはエレベーターの方向へと足を向けると、廊下を一周してきたのかまたシズカに会った


 シズカは、少しお辞儀してから駆け足で去っていってしまう


「どうしたんだろうな」

「兄ちゃがさっきおしたおしたから?」


・・・・・それだろうな

 確かに急に押し倒されると怖いよな


「兄ちゃ、セツナはいつでもいい」

「はいはい」


 セツナの頭を撫でるとセツナは嬉しそうに喉を鳴らす

 そんなことをしていたらチンッとエレベーターが鳴りドアが開いた


 俺らはそれに乗り込み、一階を押す

景色がどんどん上がってく様子に楽しさを見出したのかセツナは上機嫌になる


 一階につくと、セツナは俺の手を引き走り出す


「兄ちゃ、はやく」

「わかったわかった。朝食は逃げないから落ち着け。」

「・・・ん。」


 セツナは、俺の言うことを聞き、歩き始める


 食堂が見えるとそこには従業員の行列ができていた。従業員達は俺を見るや否や、腰を90度に折り頭を下げる


「おはようございます。若。セツナ様も」

「おはよう。」

「ん。」


 俺らは挨拶を返して後ろに並ぶと前にいた従業員が「どうぞ」と言って前を譲る

 それが続き、最前列まできて注文の順番が来てしまった


「セツナ。何食べたい?」

「スザンヌ。」

「?なにそれ」


 俺が知らない単語に戸惑うと食堂のお姉さんが申し訳なさそうな顔をする


「すみません。スザンヌは売り切れてしまって」


 スザンヌって食べ物存在するのか?!

 聞いたことがない・・・気がする


「ちょうしょく・・・にげた」


 セツナが涙目になりながら言った

俺は、先程の自分の発言に気がつきハッとする


「せ、セツナ?」

「兄ちゃ、きらい」

「ぐっ」


 俺はその言葉にショックを受ける


「せ、セツナ、他の食べ物なら沢山あるぞ?ほら」

「スザンヌがいい」


 そんなにうまいのかスザンヌ・・・


「セツナ、オムライスにしよう。好きだろ?」

「スザンヌ・・・」


 俺が振り切ってオムライスを頼もうとした

すると


「あの、セツナ様。よければ私のスザンヌ食べますか?」

「いいの?」

「はい!」


 セツナは俺から離れて、声をかけてきた従業員にひしっと抱きつき「ありがと」と何度も呟いていた


 スザンヌって、なんか怖いな


 俺は、従業員にセツナを任せて注文カウンターに戻る


 俺は一文なしだが。

 ここの食堂はうちの一族が運営しているため料金はいらない

そのうえ、ここの食堂はどんな国から来た人でも楽しめるようにいろんなものが置いてあるため、レパートリーがかなり広い


 俺らからしたら天国のような場所だ


 俺は、遠慮なくいろんなものを頼み、受け取る


 俺が戻ると、セツナがまだ従業員にしがみついていて満足げな顔をしていた


 もうスザンヌ食べたみたいだな、どんな食べ物か知りたいが・・・いや、別に知らなくてもいいな


 俺は、セツナの手を取る


「行くぞ?」

「やだ、このおねえさんもいっしょ」

「この人はこれから仕事があるんだ。離れないと迷惑になるぞ」


 そういうとセツナは悩み始め、結局名残惜しそうに従業員から手を離して、俺についてくる


「ばいばい」

「はい。また」


 俺はエントランスのソファーに座ると同時にお菓子という名の朝食を広げた


「食べたいもの、とっていいぞ」

「ん。」


 俺とセツナは半分こすると外を眺めながら、そのお菓子を食べる


 ここが本当に魔獣が跋扈して壊滅世界するとは到底思えないな


 あいつは、世界を救えとか言ったたけど

魔獣の発生を阻止しろってことだよな


 俺は視界の端に捉えたお菓子の袋を必死で開けるセツナが目に入る


「セツナはいい子だな」

「そういうのはこうどうでしめす」


 俺はやれやれと思いながら、セツナの頭を撫でると嬉しそうな顔をする


「兄ちゃ、きょうがっこうはいかなくていいの?」


 今日がいつなのか全く調べてなかった

というより、昔の生活を楽しんでいて忘れていた


「今日何年何月何日かわかるか?」

「しんれきごじゅーいちねん。さんがつ、さんじゅーいちにち」


 高校入学式の日前日じゃねぇか

しかもここ、六年前か

微妙だな


 そう思っていたら、セツナは涙目になっていた


「兄ちゃ?」

「ん?・・・ああ」


 おそらくだが、言えたことを褒めて欲しかったのだろう

俺はそう思い、セツナの頭を撫でる


「すごいぞ。兄ちゃんわからなかったからな」

「ん。」


 誇らしげに胸を張っていた


 問題は俺だな

昨日の俺が入学式の準備をしたのかどうか。したとしてその準備したものをどこに置いたかだな


 後で探すかぁ


「若。おはようございます」


 さっきあったはずのシズカがそこにいた


「どうした?さっき会ったろ?」

「ん。」


 俺とセツナが顔を見合わせてそう言う


「いえ。今日、始めて若達にお会いしました」


 つまり、さっきのことは忘れろと


「あー。本当ごめん」

「なんのことだか、わかりかねます」

「わかったよ」


 俺は少し微笑み、立ち上がる

すると、同時にセツナもちょこんと立ち上がった


「少し散歩でもしようか?」


 俺達は歩き回った


 漂う懐かしい腐敗していない綺麗な空気

空を通るたくさんの飛行船。ウイルスが覆わない空


 魔獣の声が聞こえないのどかな道。透き通った綺麗な魚のいる池


 廃れた文明は生きている


 全てが俺の望んだ理想だった

俺はみんなで平穏に生きる。


 あいつらが聞いたら笑うんだろうな

そんな叶えることのできない夢を


 上等


 今度こそ絶対に何も失わない

俺はそう強く心に決めた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る