第11話

真帆は暫く泣いたら落ち着いたようで何度か深呼吸を繰り返すと「すみません……泣いたりして」と頭を下げた。


公園にいた親子連れからは「別れ話かしら

?」との視線が飛んできているが夏樹は「気にせんでいいよ」と笑っている。


次に何を聞くべきか思い浮かばなくなった夏樹は田島に『どうぞー』と手で合図を送った。

「何か中学校の関係者に関わることで変わったこと無かったですか?ちょっとしたことでも良いんです」

「変わったこと……」

真帆は目をパチパチさせながら考え込んでいる。


沈黙が続き子どもの笑い声が響いて聞こえる。

特に何もないか。

田島が諦めかけた時、真帆が首を傾げながら呟いた。

「……私でも行ったし、ちょっと前のことだから関係ないかな」

「何?何?」

夏樹が身を乗り出すと真帆は「あの、私中学の頃って今より暗くて大人しくて。これでもマシになった方なんです」とうつ向きながら話し出した。

「同級生ともそんな親しくなかったし。あんまり会いたいとか思わなくて。

けど、友だちに誘われて。

私も社会に出て働いてるし、少しは他人と関わった方が良いのかなと思って出席したんです」

「ちょ、ちょっと待って!何に出席したの?」

「あ、すいません……。同窓会の話です」


同窓会!

田島は、はやる気持ちを抑えるため大きく息を吸うと質問を続けた。

「同窓会って中学の?」

「……例の二年五組のです。

同級生が自殺してるのに不謹慎と思われるかもしれないけど、みんな普段は無かったことにして、忘れて生活してるんですよね……。だから同窓会とか開けるんです」

「参加者は多かった?」

「はい。8割位参加してたと思います。

大学卒業したら地元出ていく人も増えるし、同窓会しようって連絡が来て。

私は行く気なかったんですけど同じグループだった子に誘われて。

その子は高校入って可愛くなったから皆に見せたかったのかもしれないですけど。

私は空気に馴染めなくて一次会で帰りました。」

話が逸れ始めたので「いつあったの?」と質問を変え軌道修正を図る。

「三ヶ月位前かな?だから今回の件とは関係ないかもしれないですけど……」


「そこで何か珍しいことがあった?」

「珍しいというか出席しないだろうな、って思ってた人が来てたから。

まあ、向こうからしたら私もそう思われてるでしょうけど」

「誰?」

「浅岡くんです」


三ヶ月前、衛藤はまだ居酒屋でアルバイトをしていないし、笹川も美容室を辞めていない。

名簿に載っていたのは三ヶ月前、同窓会で集めた情報だとしたら納得がいく。

名簿が流出した南大学

『南大学 浅岡渉は人殺し』

何度も目にした。

名簿に載っていた一番上にあった名前

ただの勘だ、と言われればそれまでかもしれない。

しかし田島は『間違いない。こいつで当たりだ』と確信し息をのんだ。


田島は必死に冷静さを保って「何で浅岡渉が来ないと思ったの?どんな生徒だった?」と訊いた。

「浅岡くんって、明るくて格好いいし二年生までクラスの中心グループにいたんです。

でも、自殺の件があってから周りとつるまなくなって。友だちと疎遠になって一人でいることが殆どで。」

真帆は記憶を辿るように途中つっかえながらも話し続けた。

「何で周囲と疎遠になったかは分からないけど、高校に入ってからも友だち作らずに一人で過ごしてたみたいなんです。

だから、同窓会に浅岡くん来て皆びっくりしてました。

私と違って楽しそうに笑ってましたけど。」

「ねえ、浅岡渉の連絡先分かる?連絡取れる?」

「その場のノリで皆で連絡先交換しましたけど、私あれから誰とも連絡取ってないですし。」

真帆は口をへの字にしている。

「会いたいんだ!連絡してみて!お願いします!」田島は両手を合わせて真帆を拝んだ。


公園にいた親子連れが「別れ話がこじれてるのかしら?」との視線をぶつけながら帰って行った。



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