第6話
今回の事件の元となっている市立風見中学校は大村探偵事務所から車で20分ほどの距離にある。
田島が「名簿のショッピングモールでバイトしてる奴から行くぞ」と運転する横で夏樹は空腹を紛らわすためにガムを噛みながら
「八年前の自殺ってニュースになったのかな?俺あんまり記憶にないんだけど」と考え込んでいる。
「俺も。でも母校ならともかくいつまでも覚えてないんじゃないか?世の中嫌な事件はいくらでもあるんだし」
田島が淡々と応えると夏樹は渋い顔をし「冷たい奴……」と呟く。
『ショッピングモールかざみ』は風見中学から自転車で15分ほどの距離にあり、
風見中学出身者でバイトをしている人も多い。
名簿にも『ショッピングモールかざみ』で働く3名の名前が出ていた。
二人は意気込んで店内に入ったのだが、まず結果から言うと空振りに終わってしまった。
三人とも不在であり、同僚たちから話を聞くことしか出来なかったのだ。
最初、同僚たちは話すのを渋っていたが、夏樹がくだらない世間話の後で「ところで、ちょっとだけ教えて欲しいんですけど~」とフンフンと下手な鼻歌交りで訊くと「……少しだけなら」と話してくれる様子を田島は感心しながら眺めていた。
一人目、古田ありさは昼からバイトにでる予定だったが「家から出るのが怖い。私は何もしていない。何でこんなことになってるのかわからない」と泣きながら電話をかけてきて欠勤していると言う。
二人目、長屋美咲は、警察が話を聞きに来ると「殺してないのに!何で!早く犯人捕まえてよ」と取り乱しとても仕事ができる状態ではなかったため帰宅。
三人目、木下勇人は朝から働いていたが、客を装った面白半分の人間ににさんざん「人殺し、早く逮捕されろ」と煽られ我慢出来ず喧嘩になりかけてしまったらしい。
店長から「帰れ!」と怒鳴られそのまま帰宅。
当たり前かもしれないが、三人とも中学時代にあった自殺のことについては店で話したことはないという。
結局何の収穫もなかったな、ため息しか出てこない。夏樹は新しいガムを取り出し口に入れた。
「あのさ……もう意味ないんじゃないか?だってどうせ皆、家から出ないし」
田島は茶封筒から名簿を取りだし「でも、探偵事務所に渡しにきた意味が気になるんだよ。あと、何となくだけどネットに流した犯人は南大学の関係者だと思うんだ」
驚いた夏樹はうっかりガムを飲み込んでしまった「何で?」
「パソコン室に人の出入りが多いとは言え、ネットに流したのは午前9時だ。それほど混み合うとは思えない。そんな中、本当に誰にも知られていない人がいたら異質で悪目立ちすると思う。」
「そういうもんかなあ?何で不特定多数が出入りするネットカフェとか行かないかな?」
「捕まって構わないと思ってるんじゃないか?」
「え?」
「だって、犯人が分からないってことはないと思う。聞き込みや、近くの防犯カメラからも大学への出入りは分かるはずだ。捕まるよ」
「なら何で名乗り出ないんだよ?」
「まあ、ただの俺の想像だからな。」田島は足早に歩きながらも店内をしっかり見回している。
「どうした?万引きGメンの真似?」
「いや、ショッピングモールかざみって高校からの帰り道にあったから、しょっちゅう行ってたんだけどだいぶ店内も変わったなと思って」
ん?アレ?
田島は一瞬、昔の記憶を思い出しそうになったがどうしても思い出せず、首を傾げながら「何か大事なこと忘れてるような気がするんだよな」と呟いた。
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