第14話

浅岡の逮捕が報じられると世間では「間違った正義感」「自己満足」「これ位されても仕方ない」「自業自得」との議論が巻き起こった。

夏樹は「やり方は間違ってるけど、何とも言えんよなー」とブツブツ呟きながら、珍しくパソコンに向かい作業をしている。

疑問点を解消しきれていない田島はモヤモヤした気持ちのまま仕事に取り組んでいた。


山城刑事の話では浅岡は警察での取り調べにも淡々と応じているという。

山城刑事は「でも、同級生に話を聞きに言っても『死ね』って言ったなんて覚えてないって皆怒ってるし。大変だよ」と嘆いてもいた。

それを聞き田島のモヤモヤは益々強くなった。


浅岡の逮捕から一週間が経った。

大村探偵事務所には相変わらずペット探しの依頼が多い。

田島がモチと迷い猫の調査から帰ってくると、夏樹が「ジャーン!」と言いながら数枚の書類をヒラヒラとかざしてきた。

何だ?と手に取ると『名簿流出事件報告書』とある。

「……お前、珍しくコツコツ仕事していると思ったら、依頼された訳でもない報告書作ってたのか」

田島が呆れた口調で言うが、夏樹は「だって大きい事件だし」と自信満々の表情である。

パラパラとめくると報道されている内容や、浅岡渉、蕨真帆の証言を中心に事件の起こった理由がまとめてある。

そして、ネットにあげられた情報も拾ってきてあった。

あるページで田島の手が止まった。

そのページにはネットにあげられていたクラスの集合写真とクラス全員の名簿が載っていた。

田島の記憶の断片と、浅岡の証言、解決できていなかった疑問点が、ぐるぐると頭を巡った。


「……大丈夫?」夏樹とモチが同時に訊いた。

書類を見つめていた田島の顔から血の気が引いている。

「何でもない」と小さく答えたが

「いやいや!お前その顔で何もないは通らんよ」と夏樹も退かない。

田島は唇を噛みしめフラフラと玄関から出ていった。

「え、え~??ちょっと待てよ!」明らかに様子がおかしいので夏樹とモチは後を追った。

「なあ、どうした?」としつこく聞いても田島は何も答えない。

駐車場に行き探偵事務所の車に乗り込もうとするので慌てて止める。「運転したら事故るぞ!今行かなきゃいかんのか?」

田島は頷くとうつ向きながら「悪いけど乗せてってくれるか?」と呟いた。

「……いいけど。どこまで?」

「風見まで」

風見?何か調べ足りないのか?それとも何か分かったのか?

夏樹は困惑したが運転席に座った。

田島は後部座席で窓に頭を寄せ、ぼんやりした表情で外を眺めている。

モチは助手席から田島の顔を眺めながら「今日は大村の方がしっかりしてるな。いつもと逆だな」と不思議そうに呟いた。


風見中学校まで来ると、田島は「ありがとう」と言って信号が赤になっている隙に車を降りて歩いて行ってしまった。

「あ、コラ!待てー!」と喚くが聞いちゃいない。


夏樹は慌てて近くのコンビニに車を停めた。「田島、見つかるかな?」

「ボク、犬だよ。匂いでも、飼い犬とかに情報聞いてでも探せるよ」とモチが応える。

「モチ~!見つけたら後でビーフジャーキーやるからな!」

一人と一匹は車を降りると走って田島の姿を探した。

モチはクンクンと匂いを嗅ぎ、分からなくなると庭で飼われている犬にワンワンキャンキャンと話しかけながら進んで行った。


「いた!」10分ほど経ち、田島の後ろ姿を発見することが出来た。

モチは、フフンと誇らしげな表情だ。

こっそり後をつけると田島は『パティスリーゾノ』という看板が出ている可愛らしい外観の店に入って行った。


「なんだろ?」夏樹は首を傾げた。

誰かが店から出てくる気配がしたので慌てて塀の後ろに隠れる。

田島の声が聞こえたのでチラリと顔を出し覗いてみた夏樹は目を丸くした。

店から出てきたのは二人。

田島は同年代の女性と向き合っていた。

その顔は、集合写真に載っていた自殺した少女とよく似ている。

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