第13話
「どうすれば良いですか?」
苦笑いを浮かべながら問う浅岡に
「俺たち警察に知りあいいるから呼ぼうか?」と夏樹が答える。
宜しくお願いします、と浅岡は頭を下げて小さく笑った。
「あのさ、警察呼ぶ前に何でこんなことしたのか聞いてもいい?」
「いいですよ。警察に話す時に落ち着いておきたいし」
即答した浅岡の表情は寂しそうにも達観しているようにも見える。
浅岡は落ち着いた口調で当時の事を話し始めた。
「ネットに出てるから知ってると思いますけど、中学二年の時に同じクラスの女子が自殺しました。
俺は小学校の時も同じクラスで……。
ミヤって呼んでました。当時から大人しい子だったけど、いじめられてはなかった。たまに見せる笑った時の表情とか可愛くて……凄く好きだった。
中学に入ってからミヤは友だちがなかなかできなくて。俺は対照的に目立つグループにいました。衛藤晴大、横井正義、藤森佳奈とかも一緒でした。
俺はミヤって呼びかけることもなくなった。
一年の時、衛藤がミヤに告白して振られました。
衛藤は『あいつ暗いくせに』って逆ギレしてた。
藤森は衛藤のこと好きだったから『別に可愛くないのに何なの?』って。
……二年になって皆同じクラスになったのがいけなかった。
藤森は女子のリーダー格だったから、シカト、ハブりから始まって。
衛藤も腹いせに、ブスとか学校来るな、とか言って笑ってた。
その内エスカレートしていって、教科書への落書きとか、体育の着替えの盗撮、物を隠す、万引きの強要、階段で突きとばしたり、ミヤの家、ケーキ屋なんですけど、店からわざわざ買ってきたケーキを学校で踏みつけて捨てたり……。
俺は止めなきゃいけなかったんだけど、空気読めない奴って思われるのが嫌で、ただ眺めてた。」
浅岡は唇を噛み「本当に馬鹿だった」と呟いた。
「それでもミヤは我慢して、学校に来てた。誰にも相談せずに一人で耐えて。
……自習時間中に藤森が『ねえ、いつまで生きてるの?』って笑いながら言い出して。
それから横井たちも『死んで下さーい』って笑って。それに何人も続いて……。
『浅岡も言えよ』って小突かれて。
俺、小学生の頃から好きだったのに、流されて、死んで下さいって言った。
ミヤの目からスーッと光が消えた気がした。俺も凄く心臓がバクバクして、どんどん冷や汗が出てきて周りの顔も見れなかった。
ミヤはそれから3日後に自殺しました。」
浅岡の口調は落ち着いているが手は震えている。「ミヤの家を知ってるんだから、あの日夜にでも謝りに行けば良かった。許してはもらえないだろうけど、本心じゃない、嫌いじゃないって伝えれば良かった。
ミヤが自殺した後、クラスの連中は『本当に死ぬかよ』『冗談にきまってるじゃん』『受験に影響するから隠し通そう』『普通死なないでしょ』って全然反省してなくて。
ああ、俺何でコイツらの方についてたんだろう?って呆然としたのを覚えてます。それからだんだん距離を置くようになりました。
でも、今年同窓会の誘いが来てこれは良い機会だと思いました。
これから社会に出る奴も多いし個人情報集めてネットに出して困らせて……自分たちがしたことを思いしるべきだと思いました。人が死んでるのに何も反省しなかった報いなんだと。」
浅岡の告白が終わった。
公園は相変わらず陽が射しゆったりとした空気だ。
田島が眉間に皺を寄せながら疑問を口にする。
「名簿に載せた基準は?」
「……自習時間中に死ね、って言った奴らです。言った方は軽い気持ちでもギリギリの精神状態で言われた方は希望を無くしますよ」
「……何で昨日警察が話を聞きに来たときに自首しなかった?」
「もう十分かな、と」
田島は息を飲んだ。
これは『もう十分困っただろう』では無い。
『もう十分、広まった』
昨日、自分が捕まったら浅岡渉の情報が多く出回るだろう。一日経ちクラスの情報も散々拡散された。だから、もう良い。
浅岡が、警察を呼んでください。と言うので夏樹が河合警部に電話をかけた。電話口は大騒ぎのようだ。
田島は自販機からペットボトルのお茶を買って浅岡に渡した。
モチは公園をウロウロ歩きながらも欠伸をしている。浅岡はモチを眺めながら微笑みを浮かべた。
電話から10分もしない内に河合警部と山城刑事がやって来た。山城刑事は昨日と同じく寝癖がついたままだ。
河合警部の問いかけに、浅岡は数回頷いた。
「お前らに聞くこともあると思うからまた連絡する!」
河合警部は、そう告げると浅岡の背中をポンと叩きながら車へと向かって言った。
田島は、浅岡の後ろ姿を見送りながら、そもそもの、もう一つの疑問を聞こうか迷って結局聞けずにいた。
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