第12話

田島と真帆は「いや、私が連絡したところで……」「ラインでの連絡でもいいから!既読になるかだけでもいいから!何なら連絡先だけ教えてくれても構わない」「勝手に教えられないです」と数分間押し問答を繰返した末、根負けした真帆がラインで連絡をすることになった。


『突然ごめんなさい。浅岡くんと連絡を取りたいと言う人がいるんですが、どこかで会えますか?』

絵文字も何もない硬い文章だ。

真帆は「だって友だちじゃないですもん」とむくれている。


「こんなん送って逃げられたらどうすんの?」夏樹が口を尖らせて訊いた。

「……逃げないことを願うよ」

「何じゃそりゃ」

夏樹が呟いたのと同時に真帆のスマホが着信を告げる。

表示された着信相手は『浅岡渉』

「ど、どうしましょう!?」

「出て!とにかく出て!」

真帆は数回息を吐き、決心した表情で電話に出たのだが「えっと……蕨です。替わります」とだけ告げると田島にスマホを渡した。


「突然すみません。俺たち蕨さんの知りあいなんですが、浅岡くんに聞きたいことがあって。今自宅ですか?」

「昨日は家の周り野次馬が多かったので帰れなくて。大学の同じゼミの奴の家に泊めてもらったんで今もそいつの家にいます」

電話から聞こえてくる浅岡の声はとても落ち着いている。

「会いに行っていいかな?」

「いや、泊めてくれた奴の迷惑になるし。俺が行きます。どこに行けばいいですか?」

田島は今いる公園の場所を告げた。

浅岡は了解し、30分ほどで到着すると思う、と話し通話を終えた。


真帆は返されたスマホを握りしめ「浅岡くんが犯人なんですか?」と悲しそうに呟いた。

「まだ分からないよ」

夏樹が慰めるが昼下がりの公園に似つかわしくない重い空気だ。

風が吹いて小さな砂埃が舞った。

真帆は腕時計に目をやり、大きく息を吐くと「……私が言うことじゃないかもしれませんが浅岡くんの話聞いてあげて下さいね。

私、仕事に戻ります。モチくんまたね。」とモチの頭を優しく撫でると無理に笑顔を作りベンチから立ち上がった。

モチはパタパタと尻尾を振って返事をしている。

真帆は公園に来たとき同様、うつ向きながら職場へと戻って行った。


浅岡が来たら何を聞こうか?

田島は相談しようと思い夏樹を見たのだが、鉄棒で逆上がりをしたり、ブランコを漕いで遊んでいるので自分で考えることにした。

モチは暖かな陽射しを浴びて気持ち良さそうに眠っている。


とても長く感じたが、電話からちょうど30分経った頃、一人の青年が公園に姿を現した。

夏樹がブランコから降り「浅岡くんですか?」と駆け寄ると、青年ー浅岡は頷いた。

短めの黒髪に、通った鼻筋。そして、少し寂しそうな目をしている。

「わざわざゴメンね。どうぞ」

夏樹が、先ほどまで真帆と座っていたベンチに連れて行った。


浅岡は軽く会釈をするとベンチに座った。

逃げる様子は全くない。

田島は挨拶を省き早速本題を訊くことにした。

「名簿流出の件を調べてます。何か知ってることありますか?」

「俺がやりました」

「え?」

犯人だろうと目星はつけていたが、こうもあっさり返されると拍子抜けしてしまい暫しの沈黙が続く。


「あの」浅岡が困惑した表情を向けた。

「逮捕しないんですか?」

「いや、俺たち探偵です。大村探偵事務所。警察じゃないです」

「探偵?」浅岡は首を傾げ、眠るモチの背中を撫でながら

「警察の捜査か何かで呼び出されたと思ったんですけど。まあ、お前も警察犬ぽくないもんな」と笑った。

モチは片目を開け、ワンとだけ小さく吠えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る