第4話

「佳奈、今日飯行こうよ」同じゼミの男子生徒に声をかけられた藤森佳奈はスマホをいじりながら「お金ないもん」と返した。

「奢るって」「わ~!なら行く」先ほどとは違い語尾にハートマークをつけた甘い声で応える。

藤森佳奈は自分の容姿に自信を持っていたし実際モテる。地元の九州を出て東京の大学に進学をし友だちも多く、東京での就職活動も順調だ。

順風満帆。佳奈が男子生徒を見ながら微笑んでいると「ねえ、藤森佳奈ってアンタ?」と背後から声をかけられた。

「え?そうだけど」

声をかけてきたのは知らない学生グループだった。男女合わせて5人いる。

ニヤニヤしてるけど何でだろ?佳奈が訝しげに思っていると「なあ、人殺してるってマジ?」と半笑いで訊かれた。

「ハア?何言ってんの」何この人たち気持ち悪っ。

「だって、ホラ」とスマホの画面をつき出される。


【詳細分かる人教えてー!】

『南大学四年 浅岡 渉 は人殺し

コンビニタイムタイム アルバイト 衛藤 晴大は人殺し

………』

『私立松大学四年 藤森 佳奈は人殺し』


自分の名前を見つけた佳奈から血の気が引いていく。

……何よコレ。

そして何より驚いたのは他に載っている名前も知合いー元クラスメイトばかりだったことだ。

……あのこと?違う。だってあれは自殺だもん……


「SNSも晒されてるよ。大丈夫?」学生グループは半笑いのまま告げる。

「……佳奈、何か大変そうみたいだしやっぱ飯無しで!」男子生徒はそそくさと去っていった。

佳奈は画面を見つめながら、ただただ呆然とするばかりだった。


◇◇◇◇◇

「横井、資料持った?」「ハイ!」横井正義は元気よく応えた。

営業の仕事は大変だが、やり甲斐もある。高校を卒業して四年目。頑張って続けよう。と前向きに仕事に取り組んでいる。

上司と外回りに出ようとした時「横井くん!ちょっと来て」と課長に呼び止められた。

「ねえ、何か変な電話がさっきから入ってるんだけど」「変な電話ですか?」何でそれを俺に言うんだろう?

課長は声をひそめた「横井正義って人殺しだから辞めさせろって。イタズラだよね?」

人殺し?何でそんな訳のわからんー

「横井!ちょっと来い!」別の先輩社員に呼ばれ行ってみると「ファックスが届いた」と紙を渡された。

『やまべ食品 横井 正義は人殺し』

懐かしいクラスメイトの名前と共に自分の名前が載っていた。

「なあ、何だよコレ。他の奴らも知り合いか?」

「……違う……。殺してなんかない!誰も!ここに載っている奴らは誰も殺してない!」震え声で怒鳴る横井に周りは呆気に取られている。

ー何で今ごろ、あんな昔のことをー


◇◇◇◇◇

「ありがとうございましたー」軽く頭を下げ衛藤晴大はあくびをした。

コンビニバイト以外に先月から居酒屋のバイトも始めたので眠くなることが多い。

若い内はいいけど30過ぎたらキツいかもなー。とぼんやり思いつつ日々を過ごしている。

高校卒業後に就職したが、3ヶ月もたずに辞めてしまった。それからは定職に就かずフリーターだ。

地元なのだから実家にいればまだ楽な生活が出来るのだが、彼女との同棲の方を選んだ為、なかなか大変だ。


「衛藤くん休憩入ってー」「はーい」

衛藤は再びあくびをしながら休憩室に行きスマホを開いた。

「ハア?何だよマジで」ラインの未読・着信ともに100件を超えている。

しかも相手は中学の友人が多い。衛藤は中学時代から派手でよく遊んでいた。今でも当時の友人とはよくつるんでいる。

読むのが面倒だったので一人に電話をかけてみると、相手はすぐに出た「衛藤!お前大丈夫か?なあ、誰があんなことー」「ちょっと待てよ!何だ?」

「お前ライン読んでない?ネットも見てないのか?バイト先に電話とかも無い?店舗が多いからまだ特定されてないのかな?」

訳が分からず事情を聞いた衛藤は動悸が速くなるのが分かった。

「だって……あれ自殺だろ?かもしれないけど、殺してない」

「そうだけど……。でもとにかくヤバイよ。個人情報晒されてる奴たくさんいる。警察が事情を聞きに全員のこと訪ねてくるみたいだし……」


衛藤は震える手でネットに検索をかけてみた。

自分の名前と共に人殺しの文字。サイトにもまとめてある。

「……でも全員載ってないな」クラスメイトの15名程の名前が載っていない。ここに載っていない奴が犯人か?「クソ……!載せてやろうか」そう思いながらネットを見ていると【風見中学二年五組クラスメイトー!この中に犯人がいる!?】との文字が目に入った。

開くと出席番号1の浅岡 渉から37の蕨 真帆までのクラスメイトの名前と集合写真がアップされていた。

「ハハハハ……」可笑しくもないのに、ただひたすらに怖いだけなのに笑いが出てきた。

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