第3話

二人が到着した時、南大学の正門には警察官が何人もいてピリピリとした緊張感が漂っていた。野次馬も沢山いて学校職員や制服警官たちが「休講です!学生は帰って!」「写真撮った?消しなさい」と追い払っている。

「え~何でこんなにいるんだ?まさか本当に殺人……?」夏樹は眉間に皺を寄せている。

「イヤ……さすがに違うんじゃないか?」

と返す田島の顔も険しい。


中に入れそうにないので田島が電話をかけると寝癖がついたままの山城刑事が人混みをかき分けやって来た。

「久しぶり~」夏樹が呑気に挨拶をするが山城刑事は困り顔だ。

「あのー電話じゃよく分からなかったんだけど昨日には名簿を持ってた、って。何で?」

「郵便受けに突っ込んであった」茶封筒ごと渡し、中身を確認してもらう

「本当だねぇ……。えーと、ちょっと来てくれる?」と二人を大学の中に連れて行った。

野次馬からは「警察と中に入った!犯人じゃね?」との声が聞こえてくる。


二人が連れて行かれたのは普段はゼミなどで使われる15名程が入ればいっぱいになる小教室だった。大学の事務職員の年輩の男性と河合警部が待っていた。

「朝から忙しかったのって、この件でだったんですね?」田島に訊かれ河合警部は大きく頷いた。

「朝9時30分頃か?ネットにこんな情報が出回ってるという報告が入ってな。

名簿の全員に所在確認やら心当たりはないか話を聞きに行くことになって配置等で忙しくてな」

「何で南大学に警察が多いんです?」

事務職員が項垂れている姿を見た夏樹が

「あー!おじさんが犯人なんだろ!ダメだよーこんなことしたら」と騒ぎ立て田島に頭を叩かれている。

「この棟には自由に利用できるパソコン室があってな。パソコンは30台近くある。利用する際は特に名前とかは記入しなくていいし、職員はいたが、まさかこんなことになるとは思ってないから利用者の顔は注意して見ておらず、殆ど覚えていないと。

あの名簿の発信元は今朝9時。南大学のパソコン室からだ」

「おー!マジで!じゃ犯人はここの学生か!」田島は騒ぐ夏樹の頭を再び叩いた。

「そうかもしれませんが……。言い訳にしか聞こえないでしょうがパソコン室に入るのに学生証いらないんです。外部の方がこっそり利用されても分かりませんので……。もちろん今後はセキュリティ強化のため対策しますが……」事務職員は疲れているようでポツリポツリと話している。

「だから、人員をさいて聞き込みを行ってるんですね」

「発信元が南大学って情報がどこからか漏れたみたいでね。ネットを見た野次馬が写真撮りに学内に来てるから、その対応にもあたってて。最近のネットの拡散速すぎるよ。削除依頼とかしても、他のところに上がってるし。

『殺人犯を退学にしないんですかー』とかいう電話もかかってくるから大変で。」山城刑事は天井を仰ぎながら嘆いている。


「なあ、何でお前らの手元にその名簿があるんだ?」

「俺たちもそれを調べたくて。名簿ほとんどが県内にいる人たちだって噂を聞いたんですが……。本当に殺人に関わってるんですか?」

河合警部と山城刑事が顔を見合わせている。

「え?知らない?」何だか妙な空気だ。


「まあ、既にネットに出てるかもしれないがー。」河合警部は敢えて淡々とした口調でこう続けた。

「八年前、中学二年の女子生徒が自殺した事件があった。名簿に載っていたのは当時のクラスメイトの一部だ」

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