第2話

一夜明け大村探偵事務所に出社してきた田島はソファーで爆睡している夏樹を文字通り叩き起こした。

「お前な自分の家で寝ろって言ってるだろ。狭い事務所を私物化するな」

夏樹は叩かれた頭をさすりながら「イヤ~だって眠くて仕方なくて……。」と呻く。

「自転車で10分もかからんだろうが」

「はーい」夏樹はあくびをしながら顔を洗いに行った。


事務所は二人しかいないので、徹夜で業務にあたることも多いが、体力の問題もあり基本10時から19時までを依頼受付、業務時間にしている。

10時近くまで寝てるなよ。

田島はため息をつきながら、昨日届いた紙を再度眺めてみた。やっぱり心当たりのある名前は無い。

何かは分からないが取り敢えず河合警部に連絡をしてみよう。

携帯を鳴らすと数回のコール音の後「今忙しいから出れん!」との怒鳴り声と共に電話が切れた。

河合警部は基本温厚である。相当忙しいらしい。

ここは九州の地方都市である。大都会ではないので大きな事件は滅多に起きないのだが。

仕方がないので仕事に取りかかることにした。


夏樹が 漫画を読みゲラゲラ笑っている横で田島が依頼メール確認をしたり書類を黙々と作成している中、事務所の電話が鳴った。「おはようございまーす。大村探偵事務所でーす」夏樹が嬉々とした声で受話器を取る。

『もうちょっと落ち着いたトーンで出らんかい』

田島が睨み付けるが気付いていない。

「え?望ちゃん?学校で携帯使っちゃいかんよ~」

電話の主は望の様だ。

次第に夏樹の顔が困惑してくる。「ハ?何?ネット?見てないけど。え?知らんよ」目で助けを求めてくるが状況が分からない。

田島が電話のスピーカーボタンを押すと望の大声が飛び込んできた。

「だから~!昨日の人殺しって書かれたのと同じ名簿のがネットに出回ってるの!大村くんと田島くんじゃないでしょ?」

田島が夏樹から受話器を奪う「望ちゃん?昨日見たのと同じものがネットに出てるの?」

「あ、田島くん!そうなの。同じクラスでよくネット見てる子がいるんだけど休み時間にヤバイヤバイって騒いでて~。

さっき聞いたら、あの名簿ネットでどんどん拡散されてるらしくて!よく知らないけど、名簿ほとんど県内にいる人みたいだよ!あ、先生来たから切るね!じゃあね!」

プツリと電話が切れ、夏樹と田島は顔を見合わせた。


時刻は10時50分。

夏樹は昨日と同じように名簿の名前をネットで検索し始めた。


一人の名前を入れると

『南大学四年 浅岡 渉 は人殺し

コンビニタイムタイム アルバイト 衛藤 晴大は人殺し

木の実保育園保育士 小笠原 結菜は人殺し

………』例の名簿が出てきた。

「ほんとだ……。出回ってるな。」

『知合いいたら情報くれ』やら『拡散して!』『名前載ってる奴のSNS特定した!』などの言葉とともにサイトにまとめられたりしている。


田島は先ほどの望の「名簿ほとんど県内にいる人みたいだよ」という言葉を思いだし慌てて電話をかけ始めた。

「……もしもし。ごめん。今取り込み中で……」

「もしかして人殺しの名簿の件?」

「え?何で分かるん?」

電話の主は河合警部の部下である山城やましろ刑事だ。年齢は33歳なのだが、夏樹・田島からため口をきかれても怒りもしない。よく刑事が務まるな、と思われる位大人しい性格をしている。

「俺たち、昨日にはあの名簿を手にしていた」

「え?昨日?え?田島くんたちネットに流した犯人?」

「あのなぁ~とにかく何か手がかりになるかもしれないから、ちょっと話しに行ってもいい?」

「え~。うーん。多分大丈夫と思うけど……。僕たち南大学にいるんだけど来れる?」

南大学。偏差値もあまり高くない私立大学で地元の高校から進学する生徒も多い。

名簿の最初にあった浅岡渉も南大学だった。


今日は幸いにと言うべきか、急ぎの仕事の依頼も特に無い。二人は揃って南大学へと向かうことにした。

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