みんな忘れる
第1話
出会いから半年。
モチのお陰で動物関連の仕事はとても上手くいき、口コミで『ペット探しなら大村探偵事務所』と評判も上々だ。
ただ、田島は「大村高広所長の時は他のことも好評だったのに。しっかり頑張ろう」と密かに燃えているのだが、当の所長である夏樹は日々適当に過ごしている。
望は小学四年生になったが、変わらず勉強が苦手でペット探しの度に宿題を見てもらっている。
算数のプリント嫌だなぁ~と口をとがらせながら「あ、田島くん郵便入ってたから取っといたよ」と封筒をパラパラと机の上に広げている。
ピザ屋のチラシ、ダイレクトメール、お礼状……
田島は訝しげに一通の茶封筒を手に取った。
「望ちゃん、これも郵便受けに入ってた?」
望はソファーで足をブラブラさせながら、ウンと首肯く。
切手も当然消印も無い。
封筒には『大村探偵事務所様』と印字された文字のみ。
直接郵便受けに入れに来たものだ。
怪しい。何か嫌がらせの手紙か?
田島は台所に行き、封を開け逆さにしてみた。
カミソリの刃などは入っていないようで紙の擦れるカサカサという音しか聞こえない。
封筒の中の紙を広げてみた。思わず舌打ちが出てしまう。
「……何だコレ」
田島の不穏な表情に気づいた望が近寄ってきて「見せて!」と騒ぎたてる。
「ダメダメ!子どもが見るもんじゃない」
モチもトコトコと寄ってきて「見せろ~」と騒いだ。
「ダメダメ!犬が見るもんじゃない」
夏樹がジュース片手にツツツと近寄り「何だ?やらしいやつ?」と声をかけてきた。
何でこんな奴が俺の上司なのだろうか?まあ上司扱いはしていないが。
田島はため息をつきながら紙を渡した。
「え?何コレ?本当に?」夏樹も首を傾げている。
封筒の中身はA4の紙が1枚。パソコンで書かれていた。
『南大学四年 浅岡 渉は人殺し
コンビニ タイムタイム アルバイト 衛藤 晴大は人殺し
木の実保育園保育士 小笠原 結菜は人殺し
………』
20名ほどの名前と大学や勤務先などが書かれている。
「……知ってる奴いる?」夏樹に訊かれ田島は首を横に振った。
二人が考え込んでいる隙に望がピョンと跳び夏樹の手から紙を奪った。
コラ!と叱るが望は「分かんないならネットで調べなよ~」と舌を出している。
夏樹はしかめ面になりながらもスマホに名前を打ち検索をかけてみる。
個人のSNSなどは出てくるが特に殺人という物騒な言葉は見つからなかった。
「イタズラかなあ?」
「明日、
河合警部とは夏樹の父・高広が事件解決を手伝ったことが縁で知合い親しくなり、今では飲みに行く仲である。最近お腹回りがブクブクしているのだが、おじさんだから仕方ないと開き直っている。
モチは紙の匂いを嗅ぎ「美味しそう」と言った。「紙は食べても美味くないと思うぞ」
「違う!紙に甘い食べ物の匂いが微かにするんだ。本当に微かにだけど。何だろうな?」
夏樹は紙を鼻に近づけたが「ぜーんぜん分からん」と項垂れ「当たり前だ。アホ」二人と一匹から冷たくあしらわれむくれている。
この時既に哀しい事件に関わっていることを誰も知らずにいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます