第2話

大村探偵事務所と望・モチの出会いは半年前に遡る。

迷い犬探しに出かけた夏樹が4時間ほどで見つけ出し事務所に帰って来た。

いつも通り手がかりすら掴めず戻って来るとばかり思っていた田島が「凄いな。どうした?」と目を丸くすると「犬に聞いた」と真顔で言う。


こいつアホとは思っていたが電波な発言までするのか

田島のドン引きの表情に気付き「いやいやいや!ホントだって!着いて来いよ!」と無理矢理連れて行かれたのが事務所から300メートルほど離れた望の家だった。

夏樹はチャイムを鳴らし「こんにちは~大村探偵事務所ですーモチに会いに来ました」と明るくインターホンに声をかけた。

バタバタという足音と共にドアを開け勢いよく出てきた望が「喋ったなぁー!」と夏樹の脛を蹴りとばす。

夏樹はうずくまりながらも「コイツにしか話してない……。ちょっと中で話そうよ。ああ、そうだ。望ちゃん、コイツ頭イイから宿題見てくれるよ……。」と呻いた。

途端に望の表情がパッと晴れ「ホント?来て来て!」と田島の腕を引く。

田島は呆気に取られながらも望の後を着いて行った。


「アラ。いらっしゃい」リビングには望の母親、千絵ちえと犬がいた。千絵は突然の訪問者にもニコニコと対応をしている。

田島は慌てて「田島敬太郎と申します。急にお訪ねして申し訳ありません」と頭を下げたのだが、後ろからやって来た夏樹は「こんちは!」と軽く挨拶をしている。

「夏樹くんのお友達?」望の母親に訊かれた田島は「違います。同じ職場なだけです。」とキッパリ否定した。

望は「上田望です。小学三年です。外で遊ぶのが好きです!」と笑顔で自己紹介をした。冬でも日焼けした肌にショートカット。見るからに健康そうである。


挨拶が済んだことを確認した夏樹は寝転がっている犬を指さし「名前はモチ。喋る犬」と簡潔に説明をした。

田島は再びドン引きの表情を見せたが、上田母娘もニコニコしている。

ヤバイ集まりか?田島は冷や汗をかきながら犬を観察した。

犬は少しポチャポチャしているところ以外は普通の犬にみえた。

「あのね、モチと散歩してたら大村くんがこの辺りをウロウロしてたから、何してるの?って聞いたら迷い犬探してるっていうからね~散歩しながらモチがこの辺の犬じゃない匂い嗅いで探してあげたの。

植え込みの狭い所にいてね、元気ないみたいで出られなくなっててね。

大村くんに言ったけど信じてくれなくて。モチが『早くしろ!死んだらどうする!』ってうっかり言っちゃって~。大村くんびっくりしてたけど植え込みまで行って、犬を助けてあげたの」

望が一気に話すが、元々拙い説明な上に内容が意味不明だ。田島は思わず眉間に皺を寄せた。

迷い犬は夏樹が見つけたのではなく小学生と飼い犬が探しだした?

しかも犬の発言により見つけられた?


「それでさ~飼い主に電話したけど留守電で。迷い犬元気なかったから望ちゃん家に連れてって水とモチのおやつをあげて。

千絵さんに聞いたら、ある日突然話し出したんだって。驚いたけど話せることの方が嬉しい。でも人にバレるとどこかへ連れてかれるかもしれないから内緒にしてるんだって。あ、その後飼い主から連絡来て、届けて事務所まで帰ってきた。」

夏樹が後を引き継いで説明をしたのだが、田島は「コイツも説明拙いな」と心の中で呟き、眉間の皺が深くなっていく。


夏樹は田島の表情に気を留めることなく笑顔で話し続けた。

「モチが話せることは絶対に内緒にする。でも動物のことは動物に聞くのが一番イイだろ?

だからペット探しに協力してもらおうと思って。動物だけの情報網もあるみたいだし」

「夏樹くん初めて話したけど明るくて良い人みたいだし。協力するわ」

千絵がホホホと笑いながら続ける。


「え?今日が初対面なんですか?」

「ええ。前の所長さんはたまに世間話とかしてたけど。夏樹くんとは初めて」

初対面の訳わからん探偵を家にあげ、子どもとペットを協力させる?この人大丈夫か?

田島は状況を理解できず頭がクラクラしてきた。

「でもね条件があるの。探偵事務所を手伝ったら望の宿題を見てあげて。それとモチにおやつあげてね。あげすぎは良くないけど」

ニコリと微笑む千絵に「ハァ」と間の抜けた返事しか出来なかった。

「モチ良かったな。おやつ何が好きなんだっけ?」

夏樹が当たり前のようにモチに話しかけるとモチは目を開き勢いよく「ビーフジャーキー!」と叫んだ。

数秒固まった後、田島はようやく「……あ、本当に喋るんですね」と口にした。

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