第9話

「ねえ!」

望はバタバタと足音を立てながら家へ入ると夏樹のスマホ画面をつき出し「田島くん!これ名字何て読むの?」と訊く。


画面には拡大された1人の名前が表示されていた。

蕨 真帆

「わらび、だけど。ちょっと説明してもらおうか」田島は腕組みをしながら夏樹を睨み付けた。

夏樹はモチを抱えながら「だって、ネット見せてくれなきゃ今後モチの力貸さないって言われて……」と困り顔だ。

「小学生に丸め込まれるなよ。」


望が見ていた画面は問題の『風見中学二年五組全員の名簿と集合写真』がアップされたサイトだった。

「……わらび!お母さん!ホラ見て」指を動かし今度は集合写真を拡大している。

「動物病院の受付のお姉ちゃんだよね!」

「アラ、ほんと」

「知り合いですか?!」

望が何度も首を縦に振る。


話はこうだった。

夏樹たちは、ペット可の公園へ行き散歩をしていた。

そこで望から「ネット見せてくれなきゃモチを貸してあげない」と言われ渋々スマホを渡すことになった。

夏樹が公園内の散歩を続け望はブランコに座りながらスマホをいじっている。

夜の風が涼しく心地好い。モチは夏樹に「走ろうよ」と小さく声をかけ、「え~今日疲れたのに」と夏樹がブーブー文句を言っている。

そんな時、突然「モチ!大村くん!ちょっと見て」と望が駆け寄ってきた。

スマホには集合写真が映っている。一人を拡大し「ねえ、モチ、動物病院のお姉ちゃんに似てない?」と訊くが「小さい画面の写真はよく分からない。ゴメンね」としょんぼり謝っている。

夏樹がスマホを見るとブレザーの制服を着た少し太り気味の少女の姿があった。

「名前知ってる?名簿に名前ある?」

「わらび、っていうの。

受付してくれた時、モチ君って名前可愛いね。私名字わらびだから一緒にいたらわらびモチだね。って言ってたから覚えてる。いつも優しいの」

クラス一覧の名簿を見るが夏樹は蕨が読めず首を傾げている。「これかなぁ?」とりあえず二人とも読めない漢字の蕨だろうと検討をつけたが確証がない。

埒が明かないので「家帰って聞こう!」

と慌てて帰って来たのだと言う。


「……お前らスマホあるんだから、わらびで変換したら良かったんじゃないか?」田島に言われ夏樹と望は顔を見合わせた。

「まあ、いいじゃないか」わざとらしく咳ばらいをしごまかしている。


「でもこの時間だと動物病院閉まってるから話聞きに行くにしても明日だな。すいません。病院の名前と電話番号教えてもらっていいですか?」

千絵はメモを渡し「電話は明日私がかけるわ。探偵事務所の人が来るけど良い人だから大丈夫って。その方が向こうも警戒しないでしょ?

家と知り合いの証拠としてモチも連れて行けば?」と優しく微笑む。

田島は頷き「モチ、明日宜しくな」とモチに声をかけた。

「ねえ……お姉ちゃん犯人じゃないよね?」

望が心配そうに呟き「大丈夫だよ。いつも撫でてくれる手が優しいもん!」とモチが応えた。

「最初に出た人殺し、の名簿にも載ってないし、いじめにも加担してないと思うよ」

望は田島の言葉に少しだけ安心した表情を浮かべていた。


翌朝、千絵から「昼休み中なら会えるって。動物病院近くの公園に良い?」と探偵事務所に電話が入った。

一日経ってもネットでは様々な情報が飛び交い何が正しくて何が嘘なのかも判断がつかない。

蕨真帆に話を聞けば何か分かるかもしれない。


昼になり、二人はモチを連れ蕨真帆との待合せ場所の公園へと向かって行った。



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