第13話 嘘
翌日、特別推薦入試の受験者達は直接試験会場へは向かわずに、まずは学園長の間へ集合するように通達がかけられた。
その時間、学園長の間には受験者と学園長以外は入る事が出来ないため、麗華は別室で待機である。
そんなわけで、俺と有栖が集合時間よりも早くエレベーター前に到着すると。
「やっと見つけたわよ黒幕野郎!」
突然探偵のコスプレをした少女に暴言を吐かれた。
誰が黒幕だ。
警察呼ぼうかな。
「エセ名探偵……」
「なっ!エセ名探偵ですって!?取り消しなさい!」
「それはこっちのセリフだ。ていうかなんだよ黒幕野郎って」
「黒幕野郎は黒幕野郎よ!あの事件の後、あなたが起訴されなかったと聞いてからあなたの事を調べさせて貰ったわ!数々の難事件に居合わせ、どの探偵も証拠に基いてそいつを犯人だと断定するも、なぜか最終的にただの一度も起訴されていない、実は全ての事件の黒幕とも噂される謎の男!そうしてついた仇名が黒幕野郎!探偵界隈であなたを知らない人間はいないわ!あの屈辱の事件から一年……やっとよ、やっと足取りを掴んだわ……」
強い感情の籠った赤い瞳で俺を見据えて、腰まで伸びた銀髪を振り乱し、登場の勢いのままに俺を黒幕野郎と断ずる物語に出てきそうな探偵服を着たこの女……誠に遺憾ながら俺の知り合いである。
正直、コイツとは少し、いや、かなり仲が悪いので今すぐにでもUターンして帰りたい。
コイツの言うあの事件とは、つい昨日麗華に話した、『悪夢のような偶然が重なって自然と証拠が捏造されて、どこぞの名探偵に犯人はおまえだと完全冤罪を掛けられた事件』の事だろう。
そのどこぞの名探偵がコイツである。
まさかこんなところで再開する事になるとはな……。
あの事件は本当にヤバかった。
主に俺の社会的立場が。
逮捕された後の検察の取り調べで俺の荒唐無稽な言い分を態々実地検証してくれる真面目な検察官に当たらなければ、恐らく俺の無実は永久に証明されなかっただろう。
日本の検察マジ優秀。
「何ですかこの失礼な女は。お知り合いですか?師匠」
有栖が珍しく顔を顰めている。
思い込みの激しい弟子の為にも、コイツの事は正確に紹介してやろう。
「ああ、まあ一応な……。コイツの名前はシャーロット・テイラー。昔とある事件に偶々居合わせた事件とは全く無関係の俺に冤罪を吹っ掛けやがった挙句、俺の長期休みの旅行先を高級ホテルから留置場に変えてくれやがった自称名探偵だ」
「な、なんて卑劣な……」
有栖がシャーロットに軽蔑の視線を向ける。
「そこ!悪意ある紹介をしない!あれは仕方ない事でしょ!あなたが犯人だって言う証拠が揃ってたんだから!」
「俺は犯人じゃないってちゃんと言ったぞ?」
「被疑者の『俺は犯人じゃない』を素直に信じる馬鹿がどこに居るのよっ!ていうか!目撃証言があってアリバイも無くて!凶器のロープから指紋も検出されて!それで犯人じゃないなんて普通は有り得ない事なのよ!」
「でも俺は犯人じゃない。あの時も俺は説明したはずだ、目撃証言があったのは異能犯罪組織のエージェントに襲われて逃げていた所を偶々事件現場から逃げていると勘違いされただけだし、アリバイが無かったのは一人旅だったからだし、凶器のロープに指紋が付いていたのは犯人が凶器に使ったロープを購入する前に偶々俺がそのロープをを店で触ってしまっただけだと」
「ええ、知っているわ。あなたが犯人でも黒幕でもない事は。検察の捜査情報はライセンスで入手したもの……」
「じゃぁ黒幕野郎とか言うなよ」
「腹いせよ」
最低だなコイツ。
「当時はふざけているとしか思えなかった供述がすべて真実だと知った時には愕然としたわ……。でも……そこの子、これで分かってくれた?コイツが逮捕されたことは仕方のない事だという事が」
シャーロットが有栖に視線を向ける。
成程、やけに説明がましく話したのは有栖に納得して貰う為か。
まあ、筋は通った話だな。
「師匠を逮捕するなど言語道断です!」
「はぁ……?」
が、筋の通った話でも関係なく斜め上からぶった斬るのがこの頑固娘である。
シャーロットの
「何なの、この子……」
「コイツは桜庭有栖。俺の弟子だ」
「ふ、ふーん。流石は黒幕野郎の弟子だけあってイカれてるわね……」
「基本は真面目で良い子だぞ」
ま、頭のネジが一本外れている時点で、どれだけ根は真面目で良い子だとしてもただの奇人変人だがな。
「まぁ別にそんなことはどうでも良いわ……」
あれ、思ったよりあっさり引いたな。
もっと怒鳴り散らかすと思っていたんだけどな。
「私がこのイカれ試験を受けてまであなたに会いに来たのはこんな漫才をするためじゃない……」
小さな声で呟くシャーロット。
俺に会いに来た?
そういえばコイツ、『やっと見つけたわよ黒幕野郎!』って……。
シャーロットはさっきとは違った意味で強い感情が籠った瞳を向けて。
「聞かせなさい。あなたがあの時吐いた”嘘”につい――」
シャーロットがそう言いかけて――
ピンポーン
エレベーターが到着した。
エレベーター、ナイスタイミング。
これがラッキーって言う奴か、新鮮だ。
「行くぞ、有栖」
「は、はい師匠」
「待って!私の質問に答え「その質問に」……」
「答えるつもりは無い」
「っ」
何か言いたげなシャーロットを背に、若干戸惑う有栖を引き連れて、俺はエレベーターに乗り込んだ。
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