第22話 人工知能

 「“150メートル先を右方向です、その先、200メートル先を垂直落下です”」


 「何っつー道案内だよ……」


 俺は今、クエストアプリの音声案内に従って、どこかに向かって走っていた。

 どこか、というのも、俺は行き先を知らないのだ。

 クエストアプリのスペシャルクエストからSランクを選択したは良いものの、突然始まった音声案内に、俺の頭は早くも混乱状態だった。

 その混乱をさらに助長するのがこの案内の内容である。

 この案内、何故かはわからないが時折、崖を飛び降りろだの、登れだの頭のおかしい指示を出しやがる。

 いや、そもそも……。


 「本当にこれ、道合ってんのか……?」


 そこを心配しても意味がないとはわかっていても、荒唐無稽な指示をしてくる音声案内に対しての不信感から、思わず不安の声が漏れる。


 「“案内に、間違いは有りません”」


 「うわっ、何だ!?」


 突然、予想外にも投げ返された問いに対する答えに、俺は反射的に大きな声を上げてしまう。


 「“私は、学園島生徒証端末(仮)に搭載されている人工知能です。試験本部からの命令コマンドにより、目的地までの案内をさせていただいております”」


 「はぁ!?人工知能!?この端末そんな機能付いてたのかよ!?」


 「“はい”」


 というかこの端末、学園島生徒証端末(仮)って言うのか、今初めて知った。

 

 「“この試験は私共の実用試験も兼ねていますので、くれぐれもへまだけはなさらないようお願いします”」


 「何この人工知能、辛辣!?」


 と、人工知能とは思えない程感情の籠った声が、ポケットの中から響いてきて、俺は脊髄反射で反応する。

 てか最近の人工知能(?)ってこんな感情表現豊かなのか……。


 「“あ、突き当たりの崖を落下してください”」


 俺の様子をどこぞの柳に風が吹くが如くシカトして、人工知能は淡々と案内を再開する。


 「だからその落下って何なの!?っと」


 人工知能の指示通り、七、八メートルほどの高さのある崖から飛び降りつつ、質問する。

 スタッ、と、俺が軽い音を立てて着地すると同時に、答えが返ってきた。


 「“私はただ、あなたに踏破可能かつ最適なルートを示しているだけです”」


 「どんなプログラムしたら崖を落下するようなルートを人間が踏破可能だと識別するようになるんだよ!?」


 「“む、開発者マスターを侮辱するとは開発者マスターの奴隷の癖に、生意気ですね”」


 人工知能に生意気って言われた……。

 いや、まて、開発者マスター?、奴隷?

 まさか……。


 「お前を作ったのって麗華かよ!?じゃあ色々納得だわ!」


 あの頭のおかしい道案内も、この人工知能の辛辣さも、「麗華が作ったから」の一言で全て納得、オールオーケーだ。

 ……いや、オーケーではないな。


 「“わかったならつべこべ言わず、さっさと順路を進みやがって下さい”」


 「ホント辛辣だなこの人工知能!?」


 会話を重ねるごとに口が悪くなっていくなこの人工知能……。

 俺への対応にイラついているのか、面倒くさいと思っているのか……。

 本当に人間と遜色ない感情を持っている人工知能だ。

 ……というか、人工知能って一々呼ぶの面倒だな。


 「……なぁ、人工知能ってなんか呼び辛いし、なにか呼び名でも「あ、そう言うの良いんで」ほんっと可愛げねぇなお前!」


 「“そんな大声を出すと魔獣達が寄ってきますよ?”」


 言外に黙って走れと言う人工知能。

 

 「はぁ、まったく……」


 俺は嘆息し……そして自然と口角上がった。

 夜の森で、俺は正確かもわからない道案内に不信感を抱きながら進んでいた。

 しかし、人工知能の口から麗華の名前が出たことでその道が突如としてしっかりしたものに感じられたのだ。

 俺はしっかりと地面を踏みしめて夜の闇の中を走り抜けるのだった。

 ――そして、走り続ける事更に十数分、ようやく目的地に到着した。

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