第27話 二日目開始

 「勝負、ですか?」


 「ええ、勝負よ。負けた奴が、勝った奴の言う事を何でも聞くの」


 「それって、私とプライドさんが勝負をして、私が勝てばプライドさんが、プライドさんが勝てば私がここから出ていくという事ですか? 良いですね、やりましょう」


 「俺もそれで構わない。元々どちらかが消えれば解消する問題だ」


 おい、これ、キースか有栖のどちらかが出ていく方向で話が進んでいないか?

 俺達が『魔獣島迷宮を攻略せよ』に挑戦する為には人数が四人揃う事が重要なのに、キースか有栖のどちらかが出て行っては困る。


 「ええ、概ねその通りよ。でも、勝負するのはあなたたち二人じゃない、


 「「「?」」」


 シャロ以外の俺を含めた三人は、一瞬言葉の意味が理解できず、声が出なかった。

 そして、俺はその一瞬の間に、シャロの言っていることの意味に感づいた。

 シャロが続ける。

 

 「弟子ちゃんがプライドに、プライドが弟子ちゃんに出て行って欲しいと思っているように、私とエイタにも希望がある。そしてその希望は四人が揃わないと達成できない事なの。なら、この問題はあなた達二人だけの問題ではないでしょう?」


 「それは……」


 「まあ……」


 キースと有栖は渋々ながら納得、と言った様子だ。

 

 「私とエイタの希望は同じだから、公平を期すために、こちらは代表としてエイタを出す。私は審判。家名に掛けて、この勝負に対しての責任を負う事と、公正なジャッジをする事を誓うわ」


 「「「……」」」


 理が通っていて、反論の余地も無い。

 強いて言えば、審判がシャロである点が懸念と言えば懸念だが、それも、世界的な名家の一員である彼女に、『家名に掛けて』とまで言われては信じざる負えない。

 非の打ちどころのない完璧な提案だ。

 シャロさんマジパねえよ。


 「私の提案に対して、何か反論はある?」


 シャロは俺たち三人に向かって不敵に笑いかける。

 俺達はただその言葉に頷くのみだった。


 「それで、勝負の内容だけど――」



 *



 翌日、試験二日目の朝。

 俺は一人、シャロが指定した場所に居た。

 現在時刻は、午前八時十九分五十五秒。


 「五十六、五十七、五十八、五十九、六十……」


 『ピロン』


 「来たか」


 午前八時二十分ちょうど、手の中にある試験用端末から鳴る電子音と共に、端末のホーム画面に通知が来る。

 それは、二日目のデイリークエストの内容を知らせる通知だった。


 ・デイリークエスト

 一日目 【魔獣識別カメラで魔獣を五種類撮影せよ 5/5】Clear!

 二日目 【指定の魔獣を討伐せよ 0/8】New!

 三日目 【??? ※三日目に解禁】

 四日目 【??? ※四日目に解禁】

 五日目 【??? ※五日目に解禁】

 六日目 【??? ※六日目に解禁】

 七日目 【??? ※七日目に解禁】


 「二日目のデイリークエストは、指定の魔獣の討伐……か」


 普通の魔獣の討伐なら昨日もやったが、指定の、という言葉が引っ掛かる。

 詳しく見てみると、やはりその部分が肝だった。

 指定の魔獣は全部で八体。

 討伐難易度によって、難易度が高い順に一位から八位まで序列付けがなされており、最初に討伐した指定の魔獣の序列に応じた点数が付与されるらしい。


 「意地が悪いな、この試験……」


 受験生八名に対して、指定の魔獣が八体、そして指定の魔獣を倒すことによって得られる点が一定ではない事から生まれるタイムアタックの要素。

 討伐した指定の魔獣の序列が高ければ貰える点も多いが、序列が高い魔獣程討伐失敗の可能性も高まる事から生まれるリスクマネジメントの要素。

 最初に討伐した魔獣の序列に応じた点しか手に入らないが、指定の魔獣を一体しか倒してはいけないというルールは無い事から生まれる他の受験者からの妨害の要素。

 これら三つの要素が絡まり合い、この試験は複雑なものになっている。


 しかし、ある程度妥協が出来ればこの試験はそれほど難しくはない。

 この端末には指定の魔獣の生息地に関する情報が記載されている為、近場の標的を狙って迅速にノルマを達成したり、あえて序列の低い魔獣を狙って競争率を減らしたりして損切りをすることは出来る。

 

 ――だが、昨夜決まった勝負の内容がそれを許さない。


 『勝負の内容は、デイリークエストのクリアの速さ、あるいは評価が付くタイプのクエストであればより評価の高いものの勝利とするわ』


 俺は、昨夜のシャロの言葉を思い出す。

 

 「つまり、俺の勝利条件は只一つ、キースや有栖を始めた他の受験者の誰よりも早く、【序列一位:赤竜】を討伐する事だ。それしかない」


 シャロの作ったチャンスを無駄にしないためにも、この勝負、絶対に俺が勝つ。

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