第28話 異変?

 「それにしても、面白いことになりそうね……」


 特別推薦入試の試験一日目が終わり、真っ暗になったモニタールームで、ワタシは試験の進捗を見て言った。

 最初は我が母兼学園長の我が儘に付き合う面倒くさい仕事だと思っていたが、存外楽しめそうである。

 レイカが連れてきたフセエイタは何とも奇妙で面白く、飽きない。

 他の面々にしても、面白い動きをしている。

 まさか初日の時点で受験者八人が四対四のチームに分かれる事になるなんて思わなかった。

 まあ、片方は仲間割れで早くもバラバラみたいだけど、それはそれで面白そうなことになっている。

 まあ、思ったより退屈ではなさそうな事と、結局仕事をすべてワタシにぶん投げて一人上座で爆睡しているゴミに制裁をくらわすかどうかはまた別の話だが。


 「ねえ、レイカ、あなたもそう思うでしょう?」


 「……」


 返事がない。

 不審に思って麗華の方を見ると、何やら真剣に何かを考え込んでいるようだった。


 「レイカ?」


 「おかしい」


 静かに発せられた言葉には、動揺が含まれている気がした。

 普段は超然とした振る舞いを崩さないレイカが、だ。


 「瑛太の様子が、おかしい……」


 「そう? 普通に見えるけど?」


 はて、特におかしいところなどないように見える。

 

 「そもそも、瑛太は普通の感性で動いてない。いや、普通の感性なんて持っていない。セリアが普通だと感じる時点で、今の瑛太は普段の瑛太ではない」


 中々酷い事を言うわね……まあ、悪気はないんでしょうけど。

 

 「でも、普段と違うからと言って何か問題があるの?」


 「確かに、別に普段と違う事自体に問題はない。それは私も望んでいる事。けど、今の瑛太は普段と、何か根本の部分から違ってる……気がする……」


 そう言い終わると、レイカは虚空から受験者に配った試験用端末の親機を取り出して何かを入力したのち、再び手に持っているをいじり始めた。

 心なしか、先ほどよりも真剣に。



 *



 「さて、まずは情報収集からだ」


 二日目の方針を赤竜を誰よりも早く倒す事だと定めた俺は、試験用端末から本日のデイリークエストに関する情報を精査していた。


 デイリークエスト二日目【指定の魔獣を討伐せよ】


 ・島内魔獣序列 

 [討伐ナビ(指定):特権] [詳細表示(指定):10pt]

 【序列一位;赤竜】 魔獣島中央部に生息

 【序列二位;クラーケン】 魔獣島東部に生息

 【序列三位;キマイラ】 魔獣島北部に生息

 【序列四位;ソニックビー】 魔獣島南部に生息

 【序列五位;妖狐】 魔獣島の西部に生息

 【序列六位;クイーンアント】 魔獣島の地下に生息

 【序列七位;ワイバーン】 魔獣島全域を旋回

 【序列八位:ブラックオーガ】 魔獣島中央部に生息 



 赤竜の情報を求めて開いたものの、思ったより開示されている情報は少ないみたいだ。

 ポイントを支払って初めて詳細な情報を得る事が出来るらしい。

 だが、俺がこれを見てまず真っ先に気になったのは。


 [討伐ナビ(指定):特権]


 これだ。

 討伐ナビ(指定)という事は、今回の試験で討伐対象に定められている魔獣たちの内の一匹を討伐する為のアシストをしてくれるという事なのだろう。

 その恩恵が、ただ単にポイントを支払うだけでは得る事が出来ず、特権の使用によってのみ得られる事を考えると、かなり強力な補助が期待出来るはずだ。

 しかも、おそらく特権を持っているのは俺一人であるというのも大きい。

 というのも、俺の持つ特権は予備試験一位の順位ボーナスとしてもらったものだ。

 仮にも予備試験トップの褒賞として与えた特権をそう易々と与えるとは考えづらい。

 ただ、特権を使って討伐ナビ(指定)を得るにあたって一つ懸念があるとすれば……。


 「ズルっぽいんだよなあ……」


 これがただのデイリークエストだというのなら、俺もこの特権を使う事を躊躇いはしなかった。

 だが今、俺は有栖とキースと、このデイリークエストで勝負をしている。

 別に、特権を使ってはいけないなんてルールは無いが、それでも、何か嫌だ。

 やはり、こういう勝負は公平であるべきだと思うから。


 「よし、決めた。特権は使わずに、赤竜に関する情報だけ開放しよう」

 

 ポイントを支払って[詳細表示]を開放する事は有栖やキースにも出来る。

 それならズルっぽくは無いし、罪悪感も湧かない。

 俺は端末の詳細表示の欄をタップし、表示の対象を赤竜に設定し、ポイントの支払い画面へと進むと。

 

 “手続きを完了します。本当によろしいですか? YES or NO”


 「まるでネットで買い物でもしているみたいだな」


 などと軽口をたたきながらYESを押す。


 “本当の本当によろしいですか? NO or NO”


 ……ん?

 何だこれ。

 俺の目がおかしいのだろうか、選択肢にNOが二つ見える。


 「バグか?」


 俺がそう呟くと、勝手にNOが選択された。


 「は?」


 驚きも束の間。


 “特権を使用して討伐ナビ(赤竜)を開放します。よろしいですか? YES or YES”

 

 「いやだからおかしく無い!?」


 しかし、俺の叫びも虚しく、俺の意思を無視して勝手にYESが選択される。

 そして。


 「“呼ばれて飛び出て何とやら、昨夜ぶりですね開発者マスターの奴隷さん”」


 「いや、呼んでねえよ!」


 昨夜忽然と消えた暴虐の匂いのする人工知能は、今度は望んでもいないのに突然に俺の前に現れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

複数異能持ちとか言われてるらしいけど俺の異能は『不幸』だけ~世界一不幸な男は沢山の異(常な)能(力)を持っているようです~ 楽太 @hz180098sd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ