第11話 類友

 「うわ……」


 「これは凄い……」


 「ははは、ここに始めてくる方は皆そうおっしゃられます」


 普通、エレベーターは階層の通路と通路を繋いでいる物だが、俺達が止まった階は通路には繋がっていなかった。

 エレベーターの扉が開いた瞬間、俺の目に飛び込んできたのは、昼に見紛う程に明るい、何処かの王宮の玉座の間の様な雰囲気を漂わせた大部屋だった。

 実物は見たことないから何とも言えないが、少なくとも

 ご丁寧に玉座まであるし。

 驚き冷めやらぬまま部屋を出ると、有栖が後ろから俺の肩を叩いた。


 「師匠、あれ……」


 有栖が指さす方を見ると、俺達が出てきたエレベーターの扉の上に、黒い大理石でできた看板があった。


 「学園長の、間……?」


 俺は大理石の看板に刻まれていた文字を読み上げる。

 つまり……。

 

 「本当に、ここが学園長室なんですね……」

 

 先にリオン先生に説明されていなかったら信じられなかっただろう。


 「はい。最初は他の階と同じ様な雰囲気の階層だったのですが、ウチの学園長は能力だけは無駄に高いので、我々教師陣が気付かない間に階層全体を自分好みに作り変えてしまったんですよ」


 俺が溢した言葉をリオン先生が拾って解説してくれた。


 「苦情は出なかったんですか?」


 有栖が冷静に質問する。


 「勿論苦情は出ました。それで、学園長が就任して少しした頃に一度だけ学園長に秘密で改修工事が実施されたらしいのですが。工事が完了した翌日にはもう今の感じに戻っていたそうです」


 「その当時私は居なかったので詳しくは知りませんがね」と、リオンさんが苦笑しながら答える。

 学園長さん、仕事部屋を自分の好みの趣味部屋に変えてしまうとは……。

 やはり学園長さんとは気が合いそうだな。

 

 「それにしても師匠、学園長は一体いついらっしゃるのでしょう」


 有栖が周囲をキョロキョロと見回して言う。

 そうか、気付いていないのか……。

 まぁ、無理も無いが。


 「いや、初めから居るぞ」


 「え?」


 有栖が分かって居なさそうだったので、俺は学園長の居る方へと手を向ける。


 「ほら、あそこ」


 それでも有栖はキョトンとしたままだった。

 リオン先生はニコニコしている。

 多分リオン先生は分かってて何も言っていないな。


 「あの無駄に豪華な席ですか?誰か座って居る様には見えませんけど……」


 「居るぞ。見えないだけでな。そこのカッコいい玉座に座ってる人!あなたが学園長ですよね!」


 俺は玉座の間改め学園長の間の玉座に向かって大声で叫んだ。

 瞬間――

 

 「分かるの!?このカッコよさが!」


 さっきまで玉座に座っていたが俺の目の前に突然現れ、ウェーブのかかった長い金髪に透き通るような碧眼を持った美女が瞳をキラキラと輝かせながらが姿を現した。


 「わ、すご」


 「!」


 俺は一瞬で気配が移動してきたことに驚き、有栖は突然の出来事に言葉にならない声を上げて固まった。


 「ごめんね。少しイタズラしたい気分だったの」


 混乱している有栖を見て、学園長はコホンと一度仕切り直す。


 「私の名前はソフィア・ホワイト。この学園島の学園長をしている者です」


 学園長が大人とはとても思えない溌剌とした声で自己紹介をする。


 「布瀬瑛太です」


 「さ、桜庭有栖です……」

 

 「エイタにアリス……よろしくね♪」


 「学園長は本当に私たちが来た時には部屋に居たのですか……?」


 「居たよ。まぁ、さっきまで魔導具使って姿隠してたから分からなくても仕方ない、仕方ない♪」


 「は、はぁ……」


 学園長の教師らしからぬノリに有栖は戸惑っているようだ。


 「それにしてもあれが正常な魔導具か……」


 俺は正常な魔導具を見るのは初めてだった。

 そもそも、魔導具は、それにを動かすために用いるエネルギーの関係で、一般人が許可なく所持したり、製造したりすることは法律で禁止されている。

 しかし、俺は持ち前の異能の影響により、密輸された魔導具の暴走する現場に遭遇したことがあるので、魔導具自体は見たことがあった。

 あの時見た魔導具は只の破壊兵器にしか見えなかったが、魔導具が今のようにイタズラに使われている現場を目の当たりにして、そんなイメージも払拭された。


 「そう言えばリオン先生。レイカは何処に?」


 学園長が輝いて目をそのままにリオン先生に問うた。


 「タチバナ教授ならならあそこに」


 学園長の問いに対し、リオン先生は麗華の入った小型空中機動要塞型ベッドを指さす。


 「げぇ!まーたレイカは変なもの作ったのね……。折角私が背景との誤差を完全に無くして、熱諸々の生体反応も完全に遮断可能にした光学迷彩を開発したから、今度こそ異能科学凄いだろーって自慢したかったのに!これじゃあ私の発明品のインパクトが薄いじゃない!もう!」


『……あれ?ソフィーの声?もう着いたの?着いたら起こしてって言ったのに……』


 学園長が捲し立てると、小型空中機動要塞型ベッドの中から麗華の声が聞こえてきた。

 やっべ、起こすの忘れてた。


 「すまん。起こすの忘れてたわ」


 『……まぁ、別にいいけど。ちょっと待ってて、すぐ出る』


 プシュー、と音を立てながらカプセルが開き、白い煙と共に麗華が出てきた。


 「久しぶり、ソフィー、元気してた?」


 「久しぶりねレイカ。相変わらずちっこいわねぇ♪」


 学園長が麗華に身長の話をしたぁー!!

 麗華は自分の背の低さがコンプレックスなので身長の話をすると怒るのだ。


 「うるさい。そういうこと言うなら帰るよ。用があるの瑛太だけだし……」


 案の定麗華がこめかみをピクリとさせて毒を吐く。


 「ごめんごめん♪久しぶりに直にあったからうれしくって」


 「学園長になったならもっと自重すべき」


 「やだ。私は自分のやりたい事しかやりたくない」


 「いや、仕事はしてくださいよ」


 年の差を全く感じさせない程親し気な麗華と学園長との会話にリオン先生が割って入ってそこは譲れないとばかりに言う。


 「前向きに善処する方向で検討しておくわ~」


 この人絶対仕事しない気だ。

 ……ちょっとこの人の事理解したぞ。

 この人は、あれだ、大きくてハイテンションな麗華だ。

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