第10話 校舎(城?)

 「あの、リオン先生。そろそろ学園に着くって言ってからもう既に五分位経ってる気がするんですけど……」


 もうすぐ到着すると言われてから既に五分が経過している。

 渋滞どころか車一つ、人っ子一人見ていないのに不思議だ。

 勿論だが、新しい学校を見るのが待ちきれないとか、そんな理由で聞いたわけでは無い。


 「瑛太はしゃぎすぎ」

 

 「はしゃいでない」


 麗華が見当はずれな事を言う。

 全く的外れもいい所だ。


 「え、師匠はしゃいでるん「はしゃいでない」あ、そうですか」


 「そうだぞ有栖。りぴーとあふたみー。『師匠ははしゃいでない』」


 「『師匠ははしゃいでない』」


 「OK」

 

 俺は麗華の名がしたデマを即座に修正する。

 我が弟子有栖は勘違いが激しいのだ。

 やはり師匠たるもの弟子を間違った道に進ませるわけにはいかない。


 「やっぱはしゃいでんじゃん。瑛太頭の中のテンション高過ぎ」


 「う、うるさい!」


 「師匠、動揺が隠せていませんよ」


 「有栖まで……」


 「ハハハ、キミたちは楽しそうだね。質問の答えだけど、フセ君。学園の敷地内にはすでに入ってるよ」


 「え?」


 マジかよ。

 確か、十分くらい前に校門っぽい所を通過したような通過しなかったような。

 ま、校門なんて見るの稀だから見分け何てつかないけど。

 ハハハハハ。

 ……ハッ。


 「師匠は見学とかで学園島に来たことないんですか?」


 「え、無いけど?」


 「え?」


 あれ、拙かった?


 「瑛太がここ受けるの決めたの昨日だから」


 麗華が補足してくれる。

 補足になって無いけど。

 まぁ別に理解してもらわなくてもいいからいいけどね。


 「……成程、流石師匠です」


 ……弟子よ、君は一体何を納得したんだ。

 


 *



 「今度こそ着きましたよ」


 更に五分程が経過し、ようやく車が停車した。


 「眠い……」


 麗華はそう言いながら車から降りると、虚空から、何か巨大なものを引っ張り出し、乗り込む。


 「おい麗華、お前何を出してる」


 「……ベッド。少し寝る」


 そう言って、空中に浮遊した人が三人くらいは入れそうなくらいの大きさのカプセルに入っていく麗華。

 自動移動機能と自動迎撃機能が付いた小型空中機動要塞の間違いだろ。

 普通のベッドは空中浮遊してないし、砲弾が発射されそうな筒も付いていない。


 「Zzz……」


 寝るの早ッ!

 もういいわ……。

 

 「ホントにあの人が橘教授なんですね」


 有栖が言う。


 「なぁ、麗華ってやっぱり凄いのか?」


 「はい。様々な権威ある学者達が異能の研究に流れていった結果、何十年と停滞していた通常科学を、たったの十数年で遅れ分を追い越すレベルまで発展させたのが橘教授です。六歳の頃から学術分野で世界中に注目されていた人間なんて人類の長い歴史で見ても橘教授位ではないでしょうか?」


 「へぇー」


 「軽いですね、師匠……」


 「まぁ、別に今更って感じだしな」


 麗華が凄い事なんて俺が一番よく知ってるし。

 麗華ならそのくらいやれそうだ。

 雑談をしながら車を降りると、中世ヨーロッパ風のレンガ作りの校舎が見えた。

 いや、建物と言うよりこれは――。


 「城……?」


 余りに時代違いな外観を見て歩きながら、思わず呟く。

 途中で見えた施設とかはめっちゃ最新鋭って感じだったのに。


 「この外装は学園長の考案です」


 俺達を先導して歩くリオン先生が俺の呟きを拾って答えてくれる。

 そうか、学園長考案なのか。

 ……学園長とは気が合いそうだな。

 それにしても、特別推薦入試の事と言い、大分はっちゃけた外観の校舎と言い、この学園の学園長は一体どんな人なんだろうか。

 めっちゃ気になる。


 「有栖は学園長に会った事あるのか?」


 「いえ、私は遠目からしか見たことないです。橘教授は面識あるんじゃないですか?推薦人ですし。まぁ、寝ちゃいましたけど」


 「推薦人だと学園長と面識があるんですか?」


 そう言って、俺はリオン先生の方へ顔を向ける。


 「特別推薦入試は、学園長の、学園長による、学園長の為の試験です。よって、特別推薦入試の推薦状を認可出来るのは学園長だけなのですよ」


 入る言葉が変わるとリンカーンの素晴らしい名言も台無しだ。


 「独裁者みたいですね」


 「ちなみに、学園長から、学園長と橘教授はご友人だと聞いています」


 俺は後ろでフヨフヨ浮遊しながら俺たちの数メートル後方からついてくるカプセルをチラリと見る。


 「納得です」


 きっと変人同士気が合うんだろう。

 喋っている間に、職員用入口っぽい扉を通って中に入っていた。

 ちなみに、内装は最新鋭で、外観とは違ってしっかりしていた。

 監視カメラも上手に死角を潰す感じで配置されてるし、防犯の面でも心配なさそうだ。

 面白味は皆無だけど。

 暗い校内を少し歩き、巨大エレベーターの前で止まった。

 でかい、横幅十メートルはある。

 これなら麗華のカプセルも余裕で入りそうだ。

 エレベーターのボタンを押して中に入ると、リオン先生は俺と有栖に向き直り、話しかけてくる。

 

 「先に言っておきます。このエレベーターは最上階に続く直通エレベーターで、降りたらそこはもう学園長室です」


 「へぇ」


 「面白い作りですね」


 「……」


 珍しくリオン先生が押し黙る。

 あ、俺分かっちゃった。


 「また学園長の趣味ですか」


 「……はい」


 少しぎこちない笑顔で笑うリオン先生に、俺はこの学園の先生方の苦労を感じた。


 ピンポーン


 機械音と共にエレベーターが停止し、扉が開いた。

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