複数異能持ちとか言われてるらしいけど俺の異能は『不幸』だけ~世界一不幸な男は沢山の異(常な)能(力)を持っているようです~

楽太

第一章 特別推薦入試編

第1話 「幼馴染の奴隷になっちまったぜ」←主人公

 俺が中学の卒業式に出席する為に学校へ向かっていると、突然後ろから女性の叫び声らしき声が上がった。


 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 それに続くように聞こえて来た奇声につられて後ろの方を見ると、よく居る通り魔の男が俺に向かって真っすぐ突っ込んでくるのが見えた。

 普通の人間ならここで刺されて異世界に転生して神様から貰ったチートで無双してうっはうっはするかもしれないところだが、俺はそうはいかない。

 俺は男の凶刃を躱すと、そのまま男の包丁を奪い、組み伏せた。

 

 「「「おおおおおお!!!」」」


 周囲から歓声が上がる。

 しかし俺はまだ気を抜かない。

 俺は俺の運の悪さがこんなものではないと知っている。

 

 プップー!プー!!!!


 ほら、思った通り。

 突如、よくいる暴走トラックが歩道の柵を超えて突っ込んで来た。

 普通の人間ならここで轢かれて異世界にでも転生して美少女と一緒にスローライフしてうっはうっはするかもしれないところだが、俺はそうはいかない。

 俺は咄嗟にトラックのミラーの軸を掴み、鉄棒をするような体裁きでトラックの上へと登る。


 今回は歓声は無かった。

 どうやら流石に皆逃げていったらしい。

 俺はまだ気を抜かない。

 突如、下からひりつくような熱い空気が昇って来た。

 周囲を見渡すと、トラックのぶつかった雑居ビルからは炎が上がっていて、トラックからは大量のガソリンが漏れ出ていた。

 炎とガソリンの距離はほんの数十センチ。


 気を抜かなくても意味なかったね。


 気づけば、既に周りの景色がスローモーションになっていた。

 そう、走馬灯である。

 久しぶりだなぁ。

 

 では、せっかくといってはなんだが、この場を借りて自己紹介をさせていただこう。

 俺の名前は布瀬瑛太。

 普通の公立中学校に通っている普通の中学生になれたらいいなぁと常々思っている中学三年生だ。

 というのも、自分で言うのもなんだが俺は普通じゃない。

 俺には不思議な力が宿っているのだ。

 別にこれは中二病とかそういう類のものではない。

 異能なんて今の時代みんな持っている――とまではいわないがまぁ十人に一人くらいは持っている物だ。

 そして、そんな異能の中でも俺の能力は世界唯一、オンリーワンの系統の能力で、幼馴染によると、一応分類上はSランク異能として認定されるくらいの物らしい。

 聞きたい?聞きたいよな?

 じゃぁ教えてあげよう。


 『不幸』だ。


 どうだ?欲しいか?

 欲しいならあげるぞ。

 どうやったらあげられるかは知らんがな。

 因みに、これがどんな能力かというと、その名の通り究極に運が悪くなるというものだ。

 一口に運が悪いと言っても、ラノベによくあるようなラッキースケベできゃーえっちー!なんて言う不幸もどきではない。

 この能力は容赦なく俺を殺しに来る。

 俺は今日中学校の卒業式だというのに、通り魔に遭遇し、暴走トラックに突っ込まれ、今まさにガソリンの引火による爆発で吹っ飛ばされようとしているわけだが、このような即死級の不幸が日常的に発生するわけだ。

 その自己の運命への干渉力の高さが評価されたが故のSランクである。

 全然嬉しくない。

 お陰で救急搬送された回数は何と驚異の246回。

 しかし、そんな日常を送っているにもかかわらず、俺はまだ死んでいない。

 俺の『不幸』への対応力が上がったのか、俺は生きている事自体が不幸だから死んで楽になろうなんてそうはいかないという事なのか……。

 できれば前者だと信じたいところである。

 おっとそろそろ(爆発の)時間だ。


 ではまた来世で。ぐっばい――。


 ドカーン!!!

 


 *


 「見知った天井だ……テイク247」


 目を覚ました俺は見知った天井を見てまどろむ間もなく呟く。

 救急搬送された時はこのセリフを言う事に決めているのだ。

 

 「おはよう馬鹿野郎」

 

 「麗華、久しぶり。起き抜けに韻踏んで罵倒してくるの辞めてくんない?」


 俺が声の方へ顔を向けると、そこには謎のタブレット手に目を落とす辛辣ミニ美少女の橘麗華が居た。

 ちなみに麗華は幼馴染である。

 さらに言えば、若干十五歳にして既に世界で三本の指に入るアヤシイ組織なんかからも狙われる程の天才科学者で、強腹だが、俺が今もまだ五体満足で生きていられるのはコイツのお陰だ。

 コイツが幼馴染だったことだけは幸運だったのかもしれない。

 

 「大丈夫」


 「何がだよ」


 「馬鹿瑛太は無駄にポジティブだからどれだけ罵倒されても死なない」


 「こんなに嬉しくない信頼は初めてだ」


 それになんか俺の名前の言い方に含みがあった気がする。


 「てか治してやってるんだから文句言うなクソボケが」


 理不尽だ。

 せめて視線を向けろよ。

 この女、ずっと右手に持ったタブレットを見ながら話している。

 俺はドMじゃないから、いくらコイツの見てくれが可愛いとはいえ、シカトされても罵られても興奮したりしない。

 まぁ、コイツには都合200回ほど命を救われているので感謝はしている。

 

 「で、私にシカトされて罵られて感謝している瑛太君」


 「おい、勝手に人の思考を捏造するな。……おいちょっと待て、今どうやって俺の思考を読んだ」


 「私の為に200回以上に渡って実験体になってくれたとある十代男性のお陰でテレパスマシンの試作品が出来たの。凄いでしょ」


 麗華は机の端にあるWi-Fiを十倍くらい大きくしたような機械を指さして言った。

 お巡りさんコイツです。

 コイツやりやがった。

 このマッドサイエンティスト、人の事を勝手に実験に使いやがった。

 法律って知ってる?


 「ルールは壊すためにある」


 どこの悪役だよ。


 「やめてくんない?」


 「だが断る」


 さてはコイツ最近アニメを見たな?

 使い方間違ってるけど。

 にわかめ。


 「まぁでも瑛太モルモットが特殊すぎるから完成には程遠いけどね」


 しれっと実験体からモルモットに格下げされた。


 「ねぇ、にわかって言ったの謝るからせめてモルモットはやめてくれないか?」


 「考えとく」


 そう言って、ようやく麗華は謎のタブレットから目を離し、俺へと目を向ける。


 「で、今日は何があったの?」


 「お前もう知ってるだろ?」


 「生の話が聞きたい」


 「物好きめ……じゃぁ話すけど、今日のは面白くないぞ?」


 「良いから早く」


 麗華が急かす。

 本当に面白くないんだけどなぁ。


 「まず、今朝学校に行こうとしたら、通り魔に遭遇した」


 「刺されたの?」


 「いや、通り魔に遭遇するのは慣れてるし、適当に撃退した、でもそこにトラックが突っ込んできて」


 「轢かれたの?」


 「いや、トラックが突っ込んでくるのにも慣れているからそこは何とかトラックの上に乗ってやり過ごしたんだが……トラックがぶつかった雑居ビルが炎上してて、その炎が漏れ出たガソリンに引火して爆発した。終わり。」


 俺が全部話し終えると、麗華は少し思案顔をした後。


 「……30点。あんまり面白くなかった」


 「お前なぁ」

 

 俺最初に面白く無いって言ったよな?

 自分で聞きたいと言っておいて理不尽すぎる。

 まぁ確かに今回のは悪夢のような偶然が重なって自然と証拠が捏造されて、どこぞの名探偵に犯人はおまえだと完全冤罪を掛けられた時に比べたら全然面白く無いかもしれないけども。


 「ねぇ、私、その話知らない」

 

 まぁ、この話では死にかけてないからな……肉体的には。


 「まぁ、俺にとっては昨日の小テスト何点だった?位の話だからな」


 まぁ、そもそも『不幸』のせいで学校に辿り着けない為、小テストなんて殆ど受けたことないけども。


 「……」


 「まぁ聞きたいなら今度聞かせてやっても……ってどうした?急に黙って」


 「……いや、さっきから思考に運気のかけらも感じられなくて、ちょっと引いてる」


 「流石にそろそろ泣くぞ」


 「何はともあれ、次は気を付けてね?言っても無駄だろうけど」


 「無理だな。これは死なないと治んないし。いいよなお前の『万能糸』。どんな怪我でも一瞬で治せるなんて……交換しようぜ」


 そう言いながら俺は自分に巻かれた包帯を外していく。

 コイツはもう必要ない。


 「それだけじゃないけどね……まぁもし能力の交換なんて事が出来たとしても、瑛太の『不幸』と交換するのだけは絶対御免」


 「いいじゃん。ちゃんとメリットはあるんだぜ?」


 「何?」

 

 「特殊なスキルを身に着けられます」


 「例えば?」


 「まずピッキング技術。もし誘拐監禁されたり逮捕されたりしてもこれが出来れば逃げ出せる。次に受け流し。もし空から瓦礫が降って来てもこれが出来れば大丈夫。後は……」


 「そんなものはいらない。それにデメリットが日常的に死にかけるんだから絶望的に割に合ってない」


 「……」


 言い返せない。


 「あ、そうそう、瑛太、今日からあなた私の奴隷ね?」


 唐突に麗華が話題を変える。

 ……え、今なんて言ったコイツ。

 研究のし過ぎでとうとう本格的に頭がイカれたか。

 まあ、いつかはそうなるとは思ってたけど。


 「ご主人様に対して無礼過ぎない?」


 「俺はお前の奴隷じゃない」


 「でも、モルモットは嫌って言うから」


 え、何俺が悪いの?


 「いや、そもそも、いつから俺はお前の奴隷になったんだよ」


 「今日、中学の卒業式が終わった時から」


 麗華は即答するが、流石にふざけ過ぎだろう。

 現代日本で奴隷とか、ラノベの中でもそうそう無い。


 「おい、麗華流石に「12億3500万円」え?」


 いきなりどうしたコイツ。


 「瑛太の私に対する借金」


 ……………………。


 「………………今何て?」


 「瑛太には今、私に対して、12億3500万円の、借金が、ある」


 聞こえやすいように喋ってくれてありがとう。じゃなくて。


 「いやいやいやいや、冗談だよね?」


 「正確には永久就労者?」


 なんか難しい単語が出てきた。


 「え、マジなの?」


 「マジマジ」


 「いや待て、まずその借金はどっから湧いたんだ?」


 そんな大金をコイツから借りた覚えなど一ミリも無い。


 「治療費。計247回分。金額は怪我の具合にもよるけど、瑛太毎回死にかけるから、治療一回に大体1000万円はかかる。でも契約書書いてもらったの瑛太が三歳の時だし、友達だから半額にしてあげた」


 そう言って麗華は部屋のデスクに付いた鍵付きの引き出しのカギを開け、そこから一枚の紙を出し俺に渡してくる。

 それは確かに、1回の治療につき1000万円払う旨が書かれた拇印付きの契約書だった。

 それになんだかこの紙見覚えある。

 これ正当な感じの奴だわ……。

 瞬間、俺の背筋は凍り付いた。

 いや、でも。


 「借金それ奴隷これとは話が違くないか?」


 「契約書を最後まで読んで」

 

 そう言われ、契約書を読み進める。

 すると、最後の要項に『なお、布瀬瑛太に到底返済不可能な借金が残った状態で、布瀬瑛太が就労可能(中学卒業)になった場合。その身をもって借金を返済する事とする』と書かれていた。

 なるほど。

 はいはい。

 よし、契約書これ破るか。


 「破っても意味ないよ。それ写しだし」


 「チクショウが!」


 嵌められた。

 十数年に渡る無駄に壮大で超絶下らない計画。

 ってかコイツ、三歳の時から何てこと考えてんだ!?

 

 「お前、俺なんかを奴隷にして楽しいの?」


 俺は契約書から麗華に目を移す。


 「最っ高!」


 麗華の顔には、今まで見てきた感情の薄い顔が嘘だったのではないかと思うほど嗜虐的な笑みが浮かんでいた。

 この日、俺、布瀬瑛太は橘麗華の奴隷になった。

 やはり俺に幸運など無かったらしい。

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