第3話 はじめてのひこうき※ハイジャック及び墜落予定

 昼ご飯を急いで食べ終えた俺と麗華は、搭乗時間ギリギリに何とか空港に到着していた。


 「急げ麗華!そんなペースじゃ間に遭わないぞ!おぶってやろうか!?」


 「いや!いい!自分で走れるから!」


 そう言って、スピードを上げる麗華。

 学校の登校すらめんどくさがっていた麗華にこんな体力があったとは正直意外だ。

 密かに運動でもしていたのだろうか。


 「ふぅ、何とか間に合った……」


 何とか出発前に飛行機に搭乗する事が出来た俺は客席に座って一息ついた。

 ……そして、一息ついて安心したその時、急にある重大で恐ろしい事実に気付いた。


 「なあ、麗華、俺達の乗る飛行機大丈夫かな……墜落とか」


 俺の能力は『不幸』。

 この能力は生れてから今日まで俺を日常的に死の危険に晒し続けてきたのだ。

 そんな俺が乗る飛行機だ、飛行機は車より安全とか、そういう一般論は通じない。

 俺の乗った飛行機が墜落するのはもはや必然なのだ。


 「大丈夫なわけない、瑛太が乗る飛行機なんてハイジャックされた上で墜落するに決まってる」


 俺が尋ねると、いつの間にか息を整えていた麗華がさらりと酷い未来予想を展開する。

 そういやハイジャックもあったな。

 って、そうじゃなくて。


 「俺達このままじゃヤバいじゃねえか!」


 俺は周りの乗客に配慮しつつ小さな声で叫ぶ。

 というか、俺達だけじゃない。

 ヤバいのは乗客もだ。

 俺のせいでこの飛行機に乗っている全員が死ぬなんて絶対嫌だぞ。


 「何言ってるの?」


 そうか、俺が考えつくような事をコイツが考えつかないわけないよな。

 コイツならハイジャックも墜落もどうこうできて不思議じゃない。


 「俺達、じゃない。私は瑛太の一本後の便で行くから」


 「ははは、何言ってんだよ冗談何て珍しい」


 俺は笑いながら麗華の方に触れようとして――触れられなかった。


 「は?」


 俺は思わず間抜けな声を出す。


 「今瑛太の隣にいる私はホログラムだから」


 麗華は、いや、麗華のホログラムは、いつもと何ら変わらない表情で言った。

 瞬間、ゴォォォォ!と飛行機が飛んだ。

 俺の理性も飛んだ。


 「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 俺は驚愕の余り脇目も降らずに思いっきり叫んでしまった。

 周りからぎろりと睨まれた。

 

 「あはは……すいません……」


 え、ちょっと待て、どういう事だ、これ、いつから、じゃなくて、オーバーテクノロジー過ぎんだろこれ!でもなくて、えぇ……。

 謝りつつも俺の内心はグッチャグチャである。

 そんな中、追い打ちをかけるようにホログラム麗華が口を開く。


 「仕方ないじゃん。私と瑛太が死ぬ可能性か、瑛太だけが死ぬ可能性か、どっちか取れって聞かれたら合理的に考えて後者でしょ?でも良かった。気付かれないように時間ギリギリにして焦らせたりしたけど、私が走れたところとか少し怪しかったし」


 1+1=2でしょ?みたいに説明する麗華の口調に、俺の混乱はすぐさま怒りに変わった。


 「……知らせてくれてもよかったんじゃないか?」


 俺は誰にも聞こえない位小さな声で呟いた。

 主に、乗客の為に。

 改めて考えてみれば、俺を乗り物に乗せるのって自分で言うのもなんだが、ダイナマイトを乗せるのと同じくらい危険な事だと思う。

 そのダイナマイトが言うのもなんだが、ダイナマイトと一緒に上空一万メートルに飛ばされる乗客の身にもなって欲しいものだ。

 ……あれ?なんか目から汗が出てきた。


 「私、瑛太は死なないって信じてるッ!」


 「俺、今生まれて初めて本気で人をぶん殴りたいと思った」


 「まあ、そういう事だから、出来るだけ死なないように気を付けてね。それじゃそろそろ電池切れるから。回収よろしく。プツッ――」


 最後に世界一意味の無い注意喚起を残してホログラム麗華は一瞬の砂嵐の後に消え、ホログラム麗華が居た場所にピンポン玉くらいの大きさの鉄球が現れて座席に落ちた。

 取り敢えず麗華は次会った時にぶん殴るとして、今は何とかこのハイジャックか墜落か、もしくはその両方か、三つの内一つがほぼ確定しているこの飛行機をどう救うかが問題だ。

 そう考えた瞬間だった――銃声が鳴ったのは。


 パンパンパァン!


 「全員動くな!この機は俺達、レジスタンスが占拠した!大人しくしていれば危害を加えるつもりは無い!が!もしも異能を使おうとしたり!妙な動きをしたりすれば即座に射殺する!」

 

 レジスタンスと名乗るテロリストに乗客全員が驚き、困惑している中、この状況を予想していた俺だけは、この機に乗るテロリスト以外の乗客乗員全員に対してに対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

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