第17話 そしてフラグは回収される

 「誰だよ!『楽なら楽でさっさと終わらせよう』とか言った馬鹿は!」


 ガサガサガサ……


 俺は今、砂煙を起こしながら迫ってくる赤ちゃんカマキリの魔獣の大群を背に、全力疾走していた。

 しかし、赤ちゃんと言っても、その大きさは成人男性くらいはあるため気を抜くことなどできる筈がない。

 あれは試験が始まって三分後の事、というか、まだ試験が始まって十分も経っていないが……。

 試験について諸々の確認を終えた俺が行動を開始しようとしたその瞬間、『虫の知らせ危機察知』が反応し、俺は思いっきり横に跳び退いた。

 瞬間、俺が立っていた場所にカマキリの鎌が横薙ぎにされ、俺の近くにあった木に鋭い裂傷が刻まれた。

 周囲に注意を払うと、森の木々の中の内の一本から異様な気配が湧き上がってくるのを感じたのだ。

 直前まで気配を感じなかった所を見ると、恐らくこの赤ちゃんカマキリの魔獣はたった今生れたのだろう。

 倒せるか倒せないかで言えば倒せるが、一対多では当然隙も多くなり、負傷する確率が高い。

 試験は七日もあるのに、初日の最初も最初で怪我をするなどあってはならない。

 この不幸な感じは半日ぶりだ。

 ……それにしてもさ、おかしくない?高校の入学試験にあんな殺意満々の生き物置く?普通。

 先程、逃げながら『魔獣識別カメラ』を開いて追ってくる巨大カマキリを撮影したところ、このアプリは『認定基準を満たしていません』などとほざきやがった。

 写真家志望でも無いのになんで写真の質にこだわらなきゃいけないんだよ!

 こんなの見つかったらもう撮影とか無理じゃねえかっ!!!


 「「クソッたれがぁぁぁぁ!!!……ん?」」


 重なる声。

 左を向く。

 ……目が合った。

 

 「「誰だ」」「お前!」「貴様!」

 

 長めの金髪に、切れ長の碧眼のイケメンだ。

 確か、2番の席に座っていた。

 名前は、すごく調子乗ってそうな……うぅん……えぇと……そうだ!


 「キール・クラウス!」


 「キース・プライドだ馬鹿者が!悩みこんだ上で間違えるな!……貴様は確か、この俺を差し置いて暫定総合1位の布瀬瑛太だったか。敵前逃亡とはなんて情けない!」


 フッ、と嘲笑ってくる現在全力疾走中のキール・クラウスことキース・プライド。

 俺は背後を確認する。


 ウッホッウッホッ(想像)


 ……さっきまで俺の背後に居たのは赤ちゃんカマキリの魔獣の大群だけだったのに加えて、筋肉ムキムキ猿の魔獣の大群が加わって、見えるだけでも五十匹以上の集団になっていた。

 ……もう一度、キースの顔を見る。


 「その言葉、そっくりそのまま返すぞ」


 「な!こ、これは!戦略的、そう!戦略的撤退だ!」


 「いや、両腕を思いっきり振って全力ダッシュしておいてそれは流石に苦しいだろ」


 「し、仕方ないだろうが!一対多の戦闘は消耗も激しい上、隙も多くなる。こんな試験序盤で怪我なんてしたら今後に響く!」


 ま、そうだよな。

 今の状況で、リスクが高すぎる。


 「で、どうするよ」


 「どうする、とは?」


 俺が聞くと、キースは白々しい反応をする。

 同じことを考えているだろうに。

 どうやらキールは名前の通り、プライドが高いようだ。


 「共闘しないか?って事だ。試験概要くらいは見ただろ?」


 キールに向けて話しながら、俺はポケットに常駐されている麗華特製の黒手袋を装着する。


 「……貴様がどうしてもと言うならば共闘してやらないでもないが?」


 「じゃあ決まりな!共闘の経験は?」


 「……二人での共闘は無い」


 「じゃあ自由に戦ってくれ。後は適当に合わせるから」


 「な!ふざけるな!貴様に合わせられる必要などないわ!」


 「お前、面倒くさい奴だな……」


 「はぁ!?貴様、貴様ぁ!」


 「まあいいや、さっさとやるぞ!」


 「おい待て!俺が良くない!」


 「うるせえ!そう言う事は後ろの奴等を全部ぶっ飛ばした後で良いだろうが!」


 「クソッ!後でしっかり話させてもらうからなぁ!」


 後で話したくないなあ。

 まあでも今はそんな事は言って居られない。


 「俺の事は瑛太でいい」


 戦闘中に危険を知らせる一番手っ取り早い手段はは名前を呼ぶことだ。

 事前に呼び名を決めておくのは集団戦の鉄則だ。


 「そうか、ならエイタ、俺の事はキース様でいい」


 「ふざけるな、キースでいいな。キース、俺が三つ数えたら反転して戦闘開始だ」


 「な!ちょっと待て!」


 「待つかボケ!3、2,1――ゴー!」

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