第16話 麗華の真意
今の時刻は午前九時……を、少し過ぎたくらいか。
つまり、七日後の午前九時まで、この島でサバイバル生活をしなくてはならない訳だが、同時に、学園長が考えた『デイリークエスト』という物をクリアしなければならない。
『スペシャルクエスト』を沢山クリアしたいとは言っても、『デイリークエスト』をクリアできなければ本末転倒だ。
試験は既に始まっている。
一分一秒無駄に出来ない。
「早速、今日の『デイリークエスト』を確認するか」
俺は端末のアイコンから『クエスト』を選択する。
・クエスト
デイリークエスト
スペシャルクエスト
そこからさらに、『デイリークエスト』を選択する。
・デイリークエスト
一日目 【魔獣識別カメラで魔獣を五種類撮影せよ 0/5】
二日目 【??? ※二日目に解禁】
三日目 【??? ※三日目に解禁】
四日目 【??? ※四日目に解禁】
五日目 【??? ※五日目に解禁】
六日目 【??? ※六日目に解禁】
七日目 【??? ※七日目に解禁】
へぇ、『デイリークエスト』の内容は当日にならなければ分からないのか。
「魔獣識別カメラ……これか。これで魔獣を五種類撮影すればいいのか」
学園長の考えた試験の癖してクエストの内容が思ったよりも遥かにまともだ。
いや、クエストどうのと言っている時点で既にまともではないのだが、ぶっ飛んではいない。
まあ、難易度は低いに越したことは無いのだが……初日だからか?
「楽なら楽で、さっさと終わらせよう」
*
今朝、瑛太と弟子ちゃんと別れた私は、モニター室で、最近弄っている新しい玩具を弄りながら試験の開始を待っていた。
「あら、レイカが笑うなんて珍しいわね」
「む、セリア失礼」
「……」
私がセリアの方へと顰めた顔を向けるが、当のセリアはどこ吹く風。
久しぶりに生で会ったが、この子は昔からこうだ。
大金持ちに飼われている猫のようにプライドが高く、どんな事であっても自分の感じた事をそのまま正直に話し、偽る事を知らず、自分の言ったことは絶対に曲げない、自分の言葉が間違っていても絶対に謝らない。
呆れるほどにまっすぐなプライドの塊、それが彼女だ。
その態度が許されるだけの能力が備わっているのがまた輪をかけて面倒くさいのなんの……って。
「……セリア、私、笑ってた?」
「ええ、笑っていたわ。ちなみに言うと、あなたの笑顔、ちょっと気持ち悪かったわ。本当にどうしたの?何か良い事でもあった?」
「気持ち悪いは余計。別に良い事とかは特に無……ん?」
「あら」
と、そこまで言った所で、モニターの様子が変わった。
八つの大きな画面に映し出されるのは、八人の受験者達。
「あ、瑛太……」
画面に瑛太が映し出されて、思わず口に出てしまう。
「エイタって、フセエイタ?あなたが推薦した?」
「うん、幼馴染」
「ふーん、あ、……来たわ」
セリアが誰も居ない方を見る。
つられて私もそちらを見ると、ソフィーが転移してきたところだった。
「ふっふふーん♪ここから先は観戦させていただくとしようかな♪ねぇ……レイカ?セリアちゃん?」
「うん」
「もう高校生になるのですから、ちゃん付けはやめてください。学園長」
「もう、セリアちゃんったら♪お母さん、でいいのよ♪」
「張り倒しますよ……?」
「つれないなぁ、セリアちゃんは♪」
「だから……はぁ。もういいです」
セリアのソフィーへの苦手意識も変わっていない様だ。
流石のセリアでもソフィーに対してだけは押しきれない。
ソフィーは全然人の話聞かないからね。
と、ソフィーが私の方へ向き直る。
「改めて、レイカ、高校生にしてやっとウチ来る気になってくれてありがとう」
「どういたしまして」
「……やっぱりウチに来る気になったのはやっぱりエイタが関係してる?」
ソフィーが質問してくる。
やっぱり、その質問は来ると思っていた。
瑛太の異能、『不幸』。
これは、世界で唯一の運命干渉系異能。
世界の運命に直接干渉する異能。
瑛太の場合は制御不能で自分に不幸を異常なまでに引き付けるだけの呪いの様な異能になってしまっているが、瑛太の異能の価値は計り知れない。
瑛太の異能の詳細が世間の目に触れれば、瑛太は確実に世界中から狙われることになる。
そんな事になれば、本当のの意味で瑛太は『不幸』に……。
今迄は私が全力で手を回して瑛太の異能を隠し続けてきたが、瑛太が社会に出て、私から離れて行ってしまえばそれも難しくなるだろう。
だから私は、瑛太を社会に出さないための緊急措置として、瑛太を奴隷にするという強引な手法を取ったが……それは流石におかしかったかもしれない。
でも――そんな生活もあと三年で終わらせて見せる。
学園島なら瑛太の『不幸』は封じられ、瑛太は安全に暮らせる。
瑛太の安全が保障されている間に、私は異能研究の最先端である学園島で、瑛太の異能をどうにかする方法を全力で見つけ出す。
ただ、これには一つだけ問題がある。
学園島は異能研究の最先端の地である。
ただそれは同時に、異能に関する関心が高い者たちが集まる地でもあるという事だ。
中には異能研究の為なら手段を選ばない人間も存在するだろう。
もしそのような人間達に瑛太の異能の事がバレたら……。
ならば、学園島の長で、友人でもあるソフィーには事情を話しておくべきだろう。
「……夜、話す」
「……うん、了解♪」
「それよりも学園長、曲がりなりにも試験を銘打っているのですから、採点の義務くらいは果たしてください」
「えー!」
「えー!っじゃありません!」
普段のプライドの塊といったセリアの姿からは想像もつかない姿を横目に置きつつ、瑛太が映るモニターに目を向けて。
「頑張れ、瑛太……どれだけ死にかけたとしても、私が絶対に治してあげるから……」
私は小さく呟いた。
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