第7話 勘違い娘爆誕
「と、こんな所で話すのも何ですから、一旦席に戻りましょうか。フライトはまだ五時間以上ありますし。私は後処理をしてから席に戻りますので、先に戻っていてください」
「あ、はい」
俺が気の抜けた返事をすると、隣の席の女の子はニコリと笑ってハイジャック犯達の首根っこを掴むとその顔のまま男たちを地面をズルズル引きずって貨物室の裏へと消えていった。
……何あの子こっわ。
まぁでも、真面目そうな子だったし、しっかり話せばわかってくれるだろ。
よし、彼女が席に戻ってきたら弟子の件はすぐにお断りしよう。
*
俺が自分の座席で待っていると、しばらくの間、通路を見えない何かが徘徊する気配がした。
その後、『今回のハイジャックは訓練です。しかし、情報の行き違いがあり、当機と本来訓練を実施する筈だった機との間で入れ違いがありました。皆様に大変なご心配をおかけした事、心よりお詫び申し上げます』との放送があり、その放送がされて数分後、隣の席の女の子が戻ってきた。
「では改めまして、私の名は桜庭有栖と申します」
「俺は布瀬瑛太です。えっと……さっき、弟子にしてくださいって言いました?」
「はい、私は確かに弟子にして下さい。と申しました。あと、私に敬語は不要です」
「いや、でも片方だけが敬語と言うのも……」
「私の敬語は癖のようなものなのでお気になさらずに」
「そういう事ならわかりま、わかった」
……やはり、弟子にしてくれと言う謎発言は聞き間違いでは無かったみたいだ。
「それで、弟子の方は?」
「それは無理だ」
だってそうだろ?
まず俺はこの子の事をほとんど何も知らないし、多分、俺が彼女に教えられる事など何もないのだ。
弟子にするなんてとんでもない。
「そう言わずに。あなた様は大変希少な複数異能持ちの上、異能が阻害された空間の中でも異能を使えてました。それは今の私には到底できない事。それに加えて、あの体裁き。あの動きはただ武術を修めただけではない……幾多の死線を潜り抜けてきた者の動きです。私はあなたから異能について、戦いについて学びたいと思いました。もし弟子にして下さるのでしたら、この桜庭有栖、全身全霊を賭して身の回りの世話を「待て待て」はい、何でしょう、師匠」
「勝手に師匠と呼ぶんじゃない」
「すみません師匠」
……真面目そうな顔をしておいて、さてはコイツ、人の話を聞かないタイプだな。
まず、俺は異能を複数持って、というかそもそも戦闘で異能を使っていたわけでも無いし、武術をしっかり修めたわけでも無い。
当たっている所と言えば、幾多の死線を潜り抜けてきた者うんぬんかんぬんの部分だけだ。
そこ以外は外れも外れ、大外れである。
「桜庭さん。あなたは「有栖とお呼びください」いや「有栖とお呼びください」あの「有栖、と」有栖……」
何コイツメンドクセェェェェェェ!!!
何なの!?この子何なの!?俺を強制的に師匠の道に引きずり込もうとしているの!?
「桜b……」
言いかけた瞬間、桜庭さ……有栖の両目がカッ!と見開かれる。
圧が!圧が凄い!
駄目だ!逆らえねぇ!
「有栖……。君は勘違いをしている。まず、俺はさっき異能を使っていたわけじゃ無い。信じられないかもしれないが、あれは只の技能だ。それに、何らかの武術を修めていたわけでも無い。だから、俺が有栖に教えられる事なんて何もないんだ」
「……成程、易々と弟子を取る気はないと……そういう事ですか」
今何を納得したの?
お前、絶対俺の話を理解していないだろ。
「だから本当に俺に教えられる事なんて何もないんだって」
「分かってます」
いや、だから何が?
絶対何も分かって無いよこの子。
その後、五時間のフライトの間、俺は懇切丁寧にあの手この手で何度も、何度も説明を続けたが……結局、勘違いを解く事は叶わなかった……。
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