私は

 私は今日も夢を見る。

 ここだけが、私は私で居続ける。

 また駅のホームに立っていた。

 また何かを待ち続けている。

 この日はもう少し情報が増えていた。

 喪われてばかりだったから、増えるという現象は少し嬉しかった。

 首筋から細い糸が何本か伸びていた。指先でそれを弾いて数える。一、二……五本伸びている。

 ふと空を見上げると、糸はそこへ向かって続いている。空の真ん中には、丸くなって眠る赤子が浮かんでいた。

 それは誰だろうか。誰でもないのだろうか。あるいはそれすらも私なのだろうか。

 糸がとくん、と揺れて、私の体内から水の抜けていくような感覚が走り抜ける。

 糸の振動は赤子の方へと駆けていって、脈動するたび喪われていく。

 この景色も、この静寂も、このぬくもりも。

 

「間もなく、■番線に■■経由■■行きの電車が参ります」


 驚いて線路の向こうを見る。

 一筋の列車の群れがやってくる。

 私はその■■を見て、安堵の■■■をつく。

 きいい、■■■とホームに近づくにつれて甲高い■を奏でている。

 ああ、どうか間に合って。

 ■■が消えていく。

 ■■が届かなくなる。

 ■■を感じられなくなる。

 きっとそこには■■がいるはずだから。

 ■■の■■が開かれて、私は飛び乗ろうとする。

 しかし、びいんと糸が張り詰め、これ以上先に進められない事実を突きつける。

 ■を見上げて、私はつぶやく。


「■って青いんだね」


 ■ひとつ無い■がこんなにも綺麗であると、なぜ私は忘れてしまっていたのだろう。

 ■が閉じられようとしている。私はそこへ行けないのだ。世界が、最後に残された夢の舞台にすら、私の所在は喪われていく。

 私。

 私は。

 ■は。

 ああ、もはや■でさえも。

 この■■から消えようとしている。


 ■が見えなくなる。■が聞こえなくなる。■■も。■■も。全部。全部。■■が塗りつぶしていく。

 ■■■■■■■■に似た恐怖が■に■■■■■。

 ■■■■が■■していく。

 ■は■■から■■ようと■を■■■■けれど。

 それすらも■の■は■■できない。

 ■■が■■を■■す。

 ■■■■。■■■■■■。その■は■の■にも■■■い。

 ああ、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■塗り潰さ■■い■。ここは■か、あるいは■■か。たすけて、■■ちゃん■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■



「小夜、乗って!」


 誰かが、列車の中から私の手を掴んだ。

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