ブラン家お茶会(はじまり)

 パンパカパーン!

 ホスト、エトワール&マティアス(どうせならあなたも経験しておきなさいとお母様にマティアスもホスト役に抜擢されました)のお茶会の開催です。


 学園の寮にいるアヤカにお迎えに行きますと言ったのですが、ヴィクトー(ヒロインだけがヴィクトー様…ヴィクトーを呼び捨てにしていたらヴィクトーが断罪されてしまうかもしれないわよ!とアヤカに言われて、呼び捨てに変更中です)に迎えに来てもらうとあっさり断られました。いわく、


 「えーと…ほら!サミュエル王子に見せつけないといけないし!」


 そ、そうでした!サミュエル様にアヤカが取られてしまうかも知れないと焦らせる&記憶を思い出す刺激を与える作戦なのでした!

 アヤカがヴィクトーに何を言ったのか分かりませんが、計画通りアヤカを呼び捨てに、ついでに私も呼び捨てにしていたヴィクトー。

 アヤカの後見人は宰相様なので、今回ヴィクトーがエスコートするのは突飛な事では無いのですが、精霊王の想い人を馴れ馴れしく呼び捨てにするのは大丈夫なのでしょうか?ヴィクトー、死ぬ事なんて無いですわよね?ノベルで死人は出てなかったと思うのですけど…

 それに、ヴィクトーはサミュエル様の大事な腹心…サミュエル様は傷つかないのかしら…?


 「ほら、ボーっとしてないで!王子来たぞ!」

 「お姉さま、いきますわよ!」

 「マティアス!せめてお名前を呼んで〜!」


 いくらエリオット様と仲が良いからって、サミュエル様も一緒でしょうに!


 マティアスが言う通り、王家の家紋の入った馬車が到着したようです。私とマティアス、サーラはお行儀良く並んでお客様をお迎えします。


 「招待ありがとう。エトワール嬢。マティアスもサーラも、久しぶりだね」

 「お招きありがとうございます。姉様、マティアス。サーラ、今日はとっても綺麗だね。」


 エリオット様はマティアスと同じ14歳だけど、もうキラキラの王子様ですわね。無口なサミュエル様よりモテるかも!サーラが赤くなってますもの。


 「サミュエル様もエリオット様も、お忙しい中私わたくしのわがままにお付き合い下さってありがとうございます。エリオット様、凄く身長が伸びてますね!私よりもう大きいわ!」

 「姉様、すごくお綺麗です。マティアスに聞いていましたが、今の姉様の方がずっといいですね。」


 昔の呼び方で呼ばれてニコニコしていた私は、気付けばエリオット様にキュッと抱かれて頬に触れるか触れないかのキスをされています。

 ふわっ!子供の頃にされていた挨拶と同じなのに!


 サーラにも同じ挨拶しているエリオット様に慌ててしまった私は恥ずかしくなります。淑女にはまだまだですわ。


 「サミュエル兄様はお姉さまにしないの?」


 サーラがサミュエル様を見てそう言います。

 ふわぁ!なんて事言うの⁉︎それは、それは私無理ですわ‼︎


 「あ、ああ!あれはヴィクトーかしら?あぁ、サーラ、ヴィクトーは宰相様の御子息なの。それからヴィクトーと一緒に私のお友達のアヤカが乗っているはずよ!」


 早口で言ってサーラの手を取って、足早に、なるべく自然にサミュエル様から距離を取ります。

 目の端に両手をカーネルサンダースおじさんみたいに広げたサミュエル様が見えた様な気がしますが…

 そういえばカーネルサンダースおじさんって誰だったかしら?


 「ヴィクトー、アヤカ、来てくれてありがとう!とても楽しみにしてたのよ!」


 私慌てたあまりヴィクトーにチーク・キスをしてしまっています!途中で気付いたものの今更止められません。

 まず、ヴィクトーが固まっています。アヤカはなんだかニヤニヤしてます!自然に見えるように出来るだけ素早くヴィクトーから離れて、アヤカにも同じ様なチーク・キスをします。

 こ、これでなんとなく誤魔化せるかし…ら?


 ?サミュエル様が今まで見た事の無い様な顔をしています…アヤカにハグしたから?女の私でも嫉妬するのかしら…?

 …何故だかマティアスはサーラを両手で目隠しして捕まえている…

 なんだか『見てはいけないもの』扱い。まったく、失礼だわ。


   ◆◆◆


 エトワール嬢の茶会に来た。


 私がブラン家を訪れるのは何年振りだろうか?

 婚約をしてから数年は互いに行き来していた様に思う。エトワール嬢の王太子妃教育が始まり、私の…いや、何を言っても言い訳に過ぎない。

 先日弟にチクリと言われた。


 『兄上がエトワール様の所に全然行かないから、私はマティアスの家にそうそう遊びにいけないんだよ。僕の婚約者はまだいないからね。兄上はエトワール様と出掛ける事も無いから口さがない連中に“婚約者がお代わりですか?”とか言われたく無いし』


 忙しい事を言い訳に、エトワール嬢が何も言わない事を良い事に、王族の結婚なんて愛は要らないとか、義務だ、仕事だ、とか…


 エトワール嬢が私に愛想を尽かしてもおかしくない。婚約を破棄しても誰もお互いに合わなかったのだろうとしか思わないほどの付き合いしかしてこなかった。

 ヴィクトーがエトワール嬢を親しく呼んでいるのを見ても私に嫉妬なんてする資格はあるのだろうか?



 まず、挨拶で失敗する。勿論普段そんな事をしないからだ。

 エリオットはエトワール嬢を息をする様に自然にほめて、挙げ句の果てにチーク・キスをした。家族や仲の良い親戚ぐらいにしかしないやつだ。私だって一度もそんな事したことが無いのに、なんてヤツだ…


 『サミュエル兄様はお姉さまにしないの?』


 これはチャンスか?今しないと一生しない気がする。

 余りの悲壮感にエトワール嬢が慄いたのか、ヴィクトーが来た事を理由に走って逃げる…

 エトワールをハグしようとした両手が宙ぶらりんのまま、マティアスに哀れな物を見るような目を向けられる。


 エトワール嬢はヴィクトーに嬉しそうに挨拶すると、あろう事か抱きついてキスをした!私には拒否したのに。

 いや、今までの報いか…私と彼女の間の距離は元々近づいてもいないのだ。

 私達の婚約はエトワールの優秀さと、交わる事のない全くの平行線の薄い付き合いの上に成り立っていた。


 アヤカ嬢が薄く笑った…

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