前途多難なわたくし


 「まぁ、よく分からないけど、ハッピーエンドを迎えるためにはあなたが婚約破棄される状況にならないといけないわけね?」


 満面の笑みでコクコクと頷く私をジロリと見てしばらく口の中でブツブツと言っていた白石さま。

 ど、どうなさったのかしら?


 「あなたの婚約破棄に協力できるか分からないけど、言ってることは何となくは分かったわ。それはともかく、あなたね、前々から思ってたんだけどね、言わせて貰っていいかしら?」

 「なんでしょう?」


 はぁ…っと息を吐いたかと思うと…


 「白石様白石様煩いのよ。彩花でいいわよ。まぁ歳下だから彩花さんでもいいけど。それから、あなた、くさいのよ!香水?化粧?なんかとにかくくさい!」


 コクコクと頷いていた私ですが、な、なんですって?く、くさ、くさいと言われて一瞬頭が真っ白になりました。ショックです!


 「こ、香水は使って無いと思うのですが…あ、このドリルを作る為の整髪剤の匂いでしょうか…?そ、そんなにくさいですか??」

 「くっさくさね‼︎中々無いくささよ」


 においによるダメ出し!くさい悪役令嬢…悪役ならぬ悪臭令嬢…!

 なんか女子的にダメです。アウトなやつです!そんな嫌われ方嫌です(涙)


 「とにかく!それなんとかしてから私に話しかけて!それからじゃないと何も聞かないからね⁉︎」

 「はい!わかりました!」


 私、前世においても今世においても、一番のダッシュだったと思います。淑女らしからぬ猛ダッシュで家に帰りました。お迎えの馬車すら置いていく勢いでした(涙)


   ◆◆◆


 「アンナ!アンナ!お風呂に入ります!用意をお願いします〜‼︎」

 「お嬢様⁉︎」

 「今の突風はエトワールですの?」


 お母様の残像があったように思いますが、とにかく悪臭令嬢からの脱却の方が先なのです。

 お部屋に入るなり制服を脱ぎ捨て、お風呂に飛び込みます。

 はうぅ!冷たい‼︎もちろん水風呂ですが、心頭を滅却すれば気にならないはずです‼︎しかしやり方はわかりません‼︎


 「ちょっとお嬢様、水でいいならお庭の噴水にでも入ってきてください。」

 「ひ、ひどいです〜」


 そんなこんなしているうちに、夕食の時間になったと伝えられたのでアンナ(ご紹介が遅れましたが私付きの侍女です。)に体裁を整えて貰って食堂に向かいます。

 先に食堂に来ていたお父様が私を見るなり、


 「お、エトワール、いつもの珍妙な髪型は辞めたのか!」

 「…お帰りなさいませ、お父様。お待たせして申し訳ございません」

 「…姉様からヤバいにおいがしない…」


 弟のマティアス(14歳)です。柔らかいウェーブのかかった金髪の我が弟ながら中々のイケメンです。

 …でも、男性陣なんて言い草…


 「あなた、マティアス、エトワールだって年頃の娘なんだから…でも、そうね。せっかく綺麗な髪をしているのだから何もしない方が可愛らしいのではないかしら?」


 それはさりげないダメ出しですわね…ここは最後の砦、妹のサーラの忌憚きたんない意見を聞くしかありませんわ!

 サーラも淡い金髪の美少女、私と同じく吊り目なのですが、子猫のように愛らしいのです。


 「サーラ、お姉様はいつもその、くさいのかしら?」

 「………サーラはお姉様の事大好きよ!」


 ニコッ!っと笑うサーラ。うーんかわいい!

 …でもくさいのですね?私ちょっとしばらく立ち直れ無さそう…(T_T)


 大人しく席につきモソモソと食事を始める私。皆様心なしかいつもより食事が進んでいる気がします。

 そうなのですね…私、あの『香水を付けているうちに鼻がバカになってきてどんどんくっさくなっていくおばちゃん現象』になっていたのですね…

 でも私、元々は超ストレートなんです。悪役令嬢の必須アイテム、ドリルを装着する為にはあの整髪剤が必要だったんです〜(涙)


 食事を終え、サーラに「いつものお姉様もステキだけど、わたし今日のお姉様、とーってもステキだと思います!」ととーってもかわいい笑顔で追い討ちを掛けられました。


 「…アンナ、私ダメダメだったのかしら…?」

 「お嬢様はダメダメではなくポンコツですね。今頃お気付きになったんですか?」


 もう明日にでも国外追放にしてください(号泣)


 「アンナは申し上げましたよ?『お嬢様は何もしないでも可愛らしいのに』って」

 「痘痕あばたもエクボってやつですわ…」


 勤め先の令嬢を令嬢とも思わない扱いをしていても、何があっても私の味方をしてくれるアンナには私が100万倍可愛く見える魔法がかかっているのです…。

 嗚呼、明日からは私はどんな武装をして悪役令嬢を目指せば良いのでしょうか…


 今日はなかなか眠れない夜になりそうです…

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