王子の弟と王子の婚約者の弟
最近姉が挙動不審だ。今まではなんでもそつ無くこなす優等生だったのに、先日は授業をサボったらしい。
最終学年の姉は授業と言ってもほぼおさらい、しかも礼儀作法やダンスなどが主で、人によってはクラスより談話室や喫茶で人脈確保に
しかし、僕の姉はクソ真面目な性格なので今まで体調不良以外で授業に出ない事は無かった。だから弟の僕のクラスまで先生が来る様なことになったんだ。
「マティアス君、姉君のエトワール嬢が教室に居ないんだが、知らないかね?」
「は?」
メガネの神経質そうな教師に聞かれる。見たところダンスの教師だろうか?いや、鈍臭そうだから違うな。
「僕に姉の行き先がわかる訳ないじゃありませんか。姉はもう授業には出なくても構わないんじゃ無いのですか?」
「あぁ、最終学年なので絶対では無いのだけれども、エトワール嬢は優秀なのでお手本として参加して貰えるとだね」
はぁ…王子の婚約者だからコネを作りたい奴が参加するだろう…
「男子生徒の参加率がね」
「は?」
「いや、あの髪型を止められてからぐんっと魅力的になられた…ゲフンゲフン…いや、王妃教育の所作の美しさを…いや…」
は?何やってんだ姉様は。
なんでそんな事になってんだ?
◆◆◆
「僕の姉上が変な事になってる。」
「あの髪型を除けば君の姉さまは文句の付け所がないと思うけど」
「あの髪型を止めたんだ。あとすごい匂いも無くなった。」
「…へぇ。」
ま、まさかお前まで興味持っちゃった…?なんてことは思って無いからな!
僕は今、学園の談話室にいる。昼食を取った後はいつもそうだ。一緒にいるのは第二王子のエリオット・シュヴァリエ。銀髪に青い瞳の絵本に出てくる王子様みたいな外見の、僕の姉の婚約者のサミュエル王子の弟だ。
学園に通う学生に基本主従関係は持ち込まないようになっているものの、さすがに王子に対してはみな一歩引いている。だからと言って僕がエリオットをぞんざいにしているわけでは無い。僕とエリオットは姉と第一王子の事は関係なく昔からの親友なのだ。
「姉上がアレを止めてから周りが騒がしい…」
「まあ、そうだろうね。」
僕はエリオットをジト目で見る。なんだよ、そうだろうねって。
「今まで遠巻きにして『人形だ!』とか『歩く芳香剤』とか言ってたのに急に『紹介してくれ』とか『ブラン家では茶会はしないのか?』とか『うちのお茶会に招待したいのだけど。姉君を』って…」
「だろうね。」
僕はまたまたジト目でエリオットを見る。なんだよ、だろうねって!
「姉上が君の兄上の婚約者であることは知らない奴はこの学園にいないだろう。」
「新入生以外はね。」
「姉上はしゃしゃり出るような性格ではないけど結構目立つ方だろう。」
「あの髪型は斬新だったしね。」
「サミュエル様は公式の場に出る事が多いから王都では知らない人間は無いだろうし」
「父上と一緒に実務もしてるしね。」
「…なんでみんな気軽に誘うんだよ…」
「兄上から距離があるからじゃない?」
そう。そうなんだ。
姉上の立場は微妙だ。王太子妃としての教育は完璧との呼び声も高く、おじいちゃんおばあちゃん貴族からの受けはいい。だけど、姉上と同じくらいの年代の娘を持つ出世欲のある貴族達や、顔はいい第一王子に隙あらばと媚びを売ろうとする令嬢もいない訳では無い。
サミュエル様は超合理主義で今のところ姉上以上に第一王子の嫁に相応しい者はいないと思ってはいるようだけど、だからと言って姉上を大切にしているようにはとても見えない。
まぁ、お互いにそんな感じだからある意味お似合いの二人なんだろうかと思っていたのだけど最近姉上の様子が変わってきた事で周りの様子も変わってきている、ような気がする…
「お前の兄上に言ってくれよ。」
「私が何か言えるわけないじゃないか。」
至極当然である。僕も言えない。
「まぁ、王太子妃教育が完璧って言われてて、あの特異な髪型も無くなったんなら欲しいって貴族はたくさんいるよね。嫁に。しかも当の
エリオットは薄っすらと笑みを浮かべる。
な、なんだよ、その薄ら笑い(泣)
今は高位貴族でも政略結婚はあまり推奨されない。貴族といえどもお互いの気持ちは大事なんだと言う風潮なのだ。じゃないと長い結婚期間は乗り切れない。
「ヤバい、どうしよう…最近姉上よく笑うようになったんだよ。この前なんてサーラと僕に抱き着いてきてさ、あれ外でやったらまた変な奴増えるかもしれない」
「とりあえず、君、姉さま大好きだよね。早く婚約者決めてもらった方がいいんじゃない?」
呆れたようにエリオットに言われた!
「そ、そんな訳ないだろ!?」
年頃の弟としては人前で姉上大好きなんて言うわけ無いだろ!
「まぁ、ブラン家でお茶会開くときは私も招待してくれないかい?是非とも。」
ま、まさか…お前もか?
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