わたくしと弟とヒロイン


 「お茶会!とってもいいですわ、それ!」


 あら?自分から言い出しておいてすごくふくれてるわ。まるでほっぺたにおやつを隠してるリスみたいね。

 私がプンッとふくれているマティアスを見てクスクス笑うと、マティアスはますますふくれます。最近大きくなったと思ってたけど、まだまだ子供ですわね。


 「僕は『誰かにお茶会の事言われても開こうとしないで』って言ったのに。姉上バカじゃないの?」


 私、今、実の弟にバカって言われました?はうぅ…


 「!だ、誰呼ぶんだよ、そのお茶会」


 落ち込む私の姿に、慌ててそんな事を聞くなんて、本当は優しい子なんです。


 「もちろんサミュエル様ですわ。」


 サミュエル様とアヤカ様をどうやって違和感なく引き合わせるか。現在アヤカ様はともかく、サミュエル様のアヤカ様の記憶は全く呼び戻っていない様なのです。

 断罪はともかく、もうそろそろ思い出していただかないと…あぁ、もうノベルの事は考えなくて良いのかしら?でもどうしても拭えない不安は残ってしまいます…これも私がポンコツだからなのでしょうね。

 マティアスが突然言い出したお茶会の開催。ブラン家の私的なお茶会に私の婚約者と私のお友達を呼ぶのは自然な事ですわよね?


 「…そのお茶会さぁ、僕の友達も招いていい?」

 「?ええ。たくさんでなければかまいませんわよ?ですけど、サミュエル様がいらっしゃる事をお伝えしてから…」

 「大丈夫。エリオットだから。」

 「エリオット様ですか。そうですわね。エリオット様なら大丈夫ですわね。」


 エリオット様とは学年も違うので公式行事の時の年に数回しかお会いする事は無いのです。サミュエル様と、とても似ていらしてお二人が並ぶとご令嬢方が色めき立つのです。エリオット様でしたら私の計画の妨げにはなりませんわ…ね。

 はっ、私、今一番悪役令嬢っぽいですわ!


 もう悪役令嬢は目指さなくて良いのですけど今になって極めるなんて。ちょっと高笑いの練習でもした方が良いのかしら?


 「…姉上、頼むから変な事考えないでよ?」

 「な、何の事かしら?」

 「姉上はいろいろダダ漏れだからな…」


 あぅっ…2度目のダメ出し…

 私のHPはもう0ですわ…


   ◆◆◆


 「マティアスと話していたのですが…あ、マティアスとは金髪の、とっても可愛い私の弟なのですが、私の家でお茶会を開いたら良いのでは無いかと…あ、勿論私的なものでサミュエル様と、ちょっとマティアスのお願いでサミュエル様の弟君のエリオット様もお呼びしようかとは思っているのですが、これに私のお、お友達としてアヤカ様に来て頂けたらと…」


 キャッ!と両頬に手を当てて恥ずかしがるエトワール。なんか趣旨が変わっているような気もするけど、私は精霊王とやらに痛い目にあってもらえたらそれでいいので、取り敢えずはニコニコと話を聞く事にする。


 今日もいつもの中庭で作戦会議中なのだ。王子の婚約者と急接近し出した年齢不詳(と言わせてくれ!)の宰相閣下預かりのナゾの女に周囲がザワザワしだしたので、うまく隠れるのに一苦労なのだ。

 そうだ。


 「エトワール、私ってシュヴァリエ家にとってちょっと扱いにくいお客なのよね。ルフェーブル様の所でもちょっと礼儀作法みたいな事もしたんだけど、精霊の泉?って所で発見されたらしいから、精霊王のお客様って言うの?なんかそんな扱いらしいのよ。だから貴族の礼儀作法って全然だから…」


 さすがにこれはいい歳してちょっと恥ずかしいのだけど、どんなに頑張っても頭に入らないし、幸い精霊王のお客さん(エトワールに言わせたら伴侶?ハンッ!何様じゃい!)は身分制度の外になるらしいので素でいかせて貰っている。


 「そんな事!マティアスもエリオット様の事は普通のお友達のように呼んでますわ。それにヴィクトー様もですわ。私の私的なお茶会ですもの!」

 「じゃあ、エトワールも私の事アヤカって呼ばなきゃね」

 「!本当ですわ…」


 みるみる顔を赤くするエトワール。何?この可愛い生き物…これでよく悪役令嬢目指してたわね。

 訳の分からない世界で一人で物語通りに世界を破滅から救おうとしていた自称悪役令嬢。私的な仕返しが終わったら私もこの年下のお友達の為に私には馴染みのないこの世界を守るお手伝いくらいしてあげなきゃね。

 嫁にされるのだけはご勘弁ですけど。


 「エトワール、一人忘れてるわ。」

 「え?」

 「ヴィクトーよ。」

 「あ…そうでした。でも、そうしますとヴィクトー様を悪役に仕立てるのですか…?」

 「まぁ、起爆剤よ。」


 起爆剤との呼び方にエトワールの目がキラキラと輝きだす。きっとまた変な事考えてるわね…


 「アヤカ様、大人の女性って感じです!」


 やっぱり。

 私は苦笑する。


 「エトワール、アヤカよ、ア・ヤ・カ。」


 はいっ!とエトワールを促すとエトワールは本当に小さな声で、


 「アヤカ…」


 と恥ずかしそうに私を呼んだ。


 「さぁ、エトワール、そろそろお迎えの時間じゃ無いの?」

 「!本当!アヤカさ…アヤカ、また、明日ね…」


 頬を染めて小さく手を振って小走りに駆け出す。いつもの淑女も忘れてしまっているみたい。私もブンブン手を振って彼女を見送る。


 超かわいいわよ⁉︎サミュエル王子、目腐ってるんじゃ無いの⁉︎

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