ヒロインと手下になった王子の親友
僕の名前はヴィクトー・ルフェーブル。現、宰相マクシム・ルフェーブルの妹の長男なのだか、実家より爵位が高くて子供のいない伯父に望まれ、公爵家の跡取りにとなる事になった。
宰相は世襲制では無いのだが幸い優秀だと言われて、次期宰相に一番近いだろうとも言われている。
僕の親友はこの国の第一王子のサミュエル・シュヴァリエ。まだ18歳だが超のつく合理主義者だ。全てにおいて公平で完璧であろうとするあまり、感情が無いんじゃないかと言うような行動をとるが、実は超鈍いだけで後になってひっそり後悔している事があるのは多分僕だけしか気付いていないだろう。
そんな不器用なサミュエルを支えてやれるのは僕しかおるまい。じゃないと、国王になった途端に恨みつらみてんこ盛りで刺されそうだからな。
そんな彼の婚約者が決まったのは彼が8歳の時。すでに彼と知り合っていた僕は、彼がほんの少し上気した頬で一生懸命合理的な理由を挙げていたのを良く覚えている。婚約者のエトワール嬢を気に入ったのは間違い無いと思った。
だけど、それからが悪かった。
サミュエルはそうする事が王族の掟だと言わんばかりに婚約者がしなければ、婚約破棄されかねない最低ラインのみを守るような、さも政略結婚ですと言わんばかりの付き合いを続けた。だが、エトワール嬢も似たようなもので、ある意味お似合いの二人なんだろうかと思っていた。
だが、久しぶりにエトワール嬢を見かけると、それだけが自己主張の様だった特異な髪型を止めて、サミュエルと婚約したばかりの頃のような清楚な薄化粧に変わっていた。
揶揄って滑らかな髪にキスをすると、可愛らしく真っ赤になった。
今のままの付き合い方を続けているとまずい事になるぞ…?後悔する前に気づいてくれるといいんだけど…
でなきゃ僕が掻っ攫っても怒るなよ?
◆◆◆
「待ちなさいよ、ヴィクトー!」
廊下を歩いているところを首根っこを捕まえられた。養子でも宰相の息子。こんな扱いができるのは振り返らずとも分かる、彼女くらいのものだ。
「アヤカ嬢、どうしました?」
僕は振り返ってにっこり笑う。
「わー、イヤ。チャラ男イヤ。」
「チャラオがなんの事かは分かりませんが、母親以外の女性に首根っこを掴まれた事なんか無いんですがね」
彼女は王家の管理している精霊の泉で発見された異世界から迷い込んできたと言う女性だ。精霊の泉から現れたと言う事は精霊王と繋がりがある人物になるらしく無下には扱えない。王宮にいても持て余すので慣れる為と言いつつ貴族の子女が通う学園に通わせようと言う事になった。
一応僕の義父が後見人となっているので、僕は彼女との連絡役として活用されている。
「そんなチャラ男にミッションよ」
「意味はわかりませんが、なんかイヤな呼び方なんですけど。どうにかなりませんかね?」
「今度ブラン家でお茶会するの。」
「はい?」
まったくのスルーで自分の要件のみを伝える。しかし、何故ブラン家のお茶会のお知らせを泉の乙女が知らせに来るのか?ああ、そう言えば仲良く歩いていたな…
……まさかこれ、精霊王の干渉じゃ無いよな?
「私は連れて来られた人。
「怖っ!おねーさん怖っ!何?異世界人って心読めるのか⁉︎」
一応精霊王の名前を出さないように注意はしてくれているようだ。学園内の廊下なんて誰が聞き耳をたてているか分からない。
…と、思った所で引っ張られる。
「誰にも邪魔されない所に行きたいのよ。」
ぐいっと顔を近づけて僕の耳元で囁くアヤカ嬢。
「僕は年上もやぶさかでは無いですが、貴方の後見人をしている
「私、そういう冗談嫌いなのよ。」
「あ、スミマセン。」
アヤカ嬢の言葉のチョイスも悪いだろうと言うのはグッと飲み込んで
「じゃ、談話室に行きましょうか?」
と談話室に向かって歩きだす。
◆◆◆
「サミュエル王子ってエトワールの事どう思ってるか知ってる?」
「まさかあなた、サミュエルを…なんて事無いでしょうね。」
「死んで蘇っても無いわよ。ついでにアンタも無いから。で、どうなの?知らないの?」
魔女みたいな勘の良さに薄寒さを覚えるが、
「嫌いでは無いと思いますが、表現方法を知らないというか、付き合い方を知らないと言うのか…」
異世界から来た魔女はフムフムと一人で頷く。
「そうね、可能性がない訳じゃないわ。あなたちょっと私の手伝いをしなさい。」
「今でも僕はあなたの僕しもべですよ?」
「いらない事は言わない。今度のブラン家のお茶会、あなたも招くからあなた、エトワールに粉をかけなさいよ。」
「はい?」
「粉…ナンパ…口説く…そう口説くみたいに!」
「いくらなんでも婚約者の前でそんな事できる訳無いでしょう⁉︎」
さっきちらりと頭に過よぎった事を口にされた。いや、まだする気はないよ。
「振りよ、振り。」
「いやいやいや、僕とサミュエルの信頼を崩すつもりですか?」
「ちょっと良いと思ってるくせに。出来ないんならいいわよ。あなた、初恋はルフェーブル様の奥様らしいわね。」
「な、な、ななな…」
「奥様が『ヴィクトーが旦那様に向かって「どうして僕のオリヴィアと結婚しちゃったんだよ‼︎」って泣いて抗議してて、それはもう可愛らしくて…』って。それから…」
「やります。喜んで!」
僕は色々な秘密を握られて、異世界からの魔女の手下になった…
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