ブラン家お茶会(再開)

 「わたくしの話をしてよろしいかしら?長くはなりませんので」


 私は皆を見渡して、マティアスの所で目線を止めます。皆さん頷いて下さいます。私も頷いて、長く無い話をします。


 「私、エトワール・ブランは異世界からの転生者です。ですが、転生前の世界の事はほとんど覚えていません。多分そんなに良い物では無かったのだと思います。私が覚えている唯一のものが、『花咲き乱れるあの……(アヤカの咳払いで中断します。タイトルくらい言わせて貰いたいのですが…)』と言う長いタイトルのライト…物語でした。」


 皆さん、ちゃんとお話についてきてくださっているみたいです。マティアスだけが目を白黒させていますが…私は続けます。


 「その物語にはこの世界の事が書いてありました。この国の成り立ち、そして召喚された泉の乙女とこの国の第一王子との恋物語…王子と婚約していた女性は婚約破棄されて物語からいなくなります」

 「ま、ま、ま、まさか…」


 マティアスが青い顔をしています。私の話で私が死ぬとでも思ってしまったのでしょうか?


 「はい。私です。ですが、死ぬわけではなく、牢に入れられて国外追放…あぁ、もちろん悪い事をしたからですよ?」

 「姉上は悪い事なんてしない!」

 「…物語の話ですよ…私の話はこれだけです。私が前の世界で持っている記憶はこの物語の内容だけなんです。」


 私はなんだか泣きそうなマティアスを引き寄せて抱きしめました。マティアスは大人しく私に抱かれて『スンッ』と言っています。いつもなら『な、なにしてんだよ、バッカ‼︎』と言って逃げるのに今日は大人しく腕の中にいてくれるのね?私はその背中を撫でてマティアスの耳元に小さな声で、「驚かせてごめんね?」と囁きます。 

 するとマティアスは私の腕の中からすり抜けると、騎士の様に私の前に立ちます。優しい子なんです。


 「…ところで、『最後の力でアヤカの世界で流行っているツールで記録を残した』とおっしゃていましたが、それはどうやって?」

 「あぁ。私の番、アヤカの世界にたどり着いた時に、私の保てる姿は子供の大きしか無かったんだ。そこでアヤカを見つけたのに、アヤカは走って行ってしまって」


 アヤカ、目が泳いでます。挙動不審ですよ?


 「私は大きな人間に捕まって、四角い箱に入れられて…」

 「派出所でしょ?」

 「そこから抜け出すのにかなりの力を使ってしまって、どうやったのかは秘密だけど、アヤカと私の話をアヤカの世界の読み物にしたんだ。アヤカが見てくれていたら良かったんだけど」

 「趣味じゃ無いもん」

 「姉様は見てくれたのにね」


 どうやって作ったのか気になるのですが、凄くブラックなオーラが出ていたのでなんだかそう言う事なのでしょう…


 「本当でしたら精霊王はサミュエル様…第一王子にお生まれになるはずだったのですね?」

 「まぁ、その予定だったんだけど…」


 言いづらそうなエリオット様。エリオット様はご自分でも言っていたけど、私が聞いた伝承の精霊王よりも随分エリオット様らしい気がします。きっと私とサミュエル様を気にしてくださっているのだと思います。


 「まあ、とにかく、力が足りなくてアヤカを呼ぶのも私が生まれ変わるのも遅くなってしまったんだ。私…精霊王は番から生気…命をもらってるんだ。本来精霊は体を持たないものなのだけど、私は幾度も生まれ変わることで器を得るようになった。その代わり番うモノが必要になった。…どうせ父上やマクシムおじ様の前で同じ説明をさせられるんでしょ?」


 もういいでしょ?とばかりにエリオット様が膨れるのを見て私もマティアスもホッと安心します。やっぱりエリオット様はエリオット様です。


  -コンコンー


 「お姉さま、入ってかまいませんか?」

 「サーラ、どうぞ。」


 お話も終わりかと私はサーラを招き入れました。

 サーラはもじもじしながら、


 「お姉さまたちのお話が終わりましたら、お茶を入れなおしていますのでお茶会の続きをいたしませんか?…サーラの作ったお菓子もありますので」


 そうでした!かわいいサーラが一生懸命作ったのです!


 「そうだね。私もサーラの手作りの菓子は食べてみたいな」


 ぎこちなくサミュエル様がおっしゃれば、


 「私サーラちゃんとまだ挨拶してなーい!私はアヤカ。エトワールの友達なの。よろしくね!えーと、マティアス君?」

 「マティアス、触るな!」

 「は?触ってねーし!」

 「サーラ、久しぶりだけど僕のことは覚えてるかな?」

 「そこ!僕の妹になんかイヤラシイ感じに声かけんじゃねえよ!」

 「はあ?僕だって癒しほしいし!」

 「は?開き直ったし!」


 ブラン家のお茶会はこんな風に再開されました。

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